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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第一部第六章 エルフさらいの悪漢ドワーフ
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第81話 どエルフさんと作戦会議

「くそっ!! まんまとやられた!! ララをさらわれるなんて!!」


 部屋の端にある樫の木の柱を叩いて、憤りをぶつけた少年勇者。

 ぐらりぐらりと天井が揺れるのに、ひっ、と、ワンコ教授が悲鳴をあげて女修道士シスターの後ろへと隠れた。


 浴場から場所を変えて、ここは街はずれの公会堂。

 浴衣からいつもの装備に着替えて、男戦士、女騎士、暗黒騎士、そして少年勇者のパーティたちが集まっていた。


 目的はいわずもがな、連れ去られた少女エルフの救出にについて話し合うためだ。


「落ち着けアレックス。そんな風に荒んだところで、物事は何も解決しない」

「そうだけど!! けど、どうすりゃ良いんだよ――」

「まずはこいつから情報を聞き出すしかあるまい」


 そう言って、暗黒騎士が視線を向けたのは、簀巻きにされたハーフオークだった。

 睨むようにして男戦士たちを見るその亜人の男。

 彼は今、暗黒騎士の相棒である魔術師の魔法により、見た目以上に強力に戒められているのだった。


 そんなハーフオークにつかみかかって、少年勇者は年齢に似合わないくらいの凄みを見せる。


「おい、いい加減にお前らのアジトを吐けよな!!」

「んがぁ、それはできないんだな。オークの神に誓って、オラは仲間は売らないんだな」


 悪党にしては意外と義理堅いハーフオークは、先ほどからの男戦士たちの尋問を見事に耐えていた。

 女エルフが魔法で電流を流したり、暗黒騎士が剣の峰で打ち据えたりしても、意に介さず。

 彼は頑なに仲間の情報を売ろうとしなかった。


 オーク族は、その凶暴かつ粗暴な性格に反して、意外と誇りも高い一族である。

 その誇りが仲間を売るという行為を強く思いとどまらせているのだろう。


 はてさて弱ったとためいきをついたのは女エルフだった。


「どうしようかしら。このまま、こいつを尋問していてもキリがないし」

「どこか怪しい場所でもないか、探した方がいいかもしれませんね」

「この辺りの地図を確認した限り、南東と北東に、身を隠すのにちょうどいい洞窟があるんだぞ」


 男戦士のパーティは、すっかりと尋問をあきらめて次の手を考えていた。

 暗黒騎士にしても、ワンコ教授から譲ってもらった地図を眺めている。


 一方で、決定的な情報がないというのも事実。

 あてずっぽうに探すうちに、自分たちの手の届かない所まで、連れ去らわれてしまっては本末転倒である。


「答えろ!! 答えろよ、この野郎!!」


 それ故に少年勇者はハーフオークからその怒りの矛先を変えず、その肩を強く揺すっているのだった。


 ふと、その若い勇者の手を男戦士が止める。


「よせ、アレックス。そんな風にやって、口を割るような男ではない」

「んがぁ!! そうなんだな、オラは絶対に、仲間のことは売らないんだなぁ!!」

「――ちくしょう、どうしろって言うんだよ!!」


 ララ、と、相棒の名をつぶやいて、その場に膝をついた少年勇者。

 その姿を笑うような表情をしたハーフオーク。


 するとその前に、少年勇者に代わって、男戦士が歩み出た。

 今度は俺が相手だとばかりに。


 その顔は、いつもの間の抜けた感じは一切ない、真剣そのものであった。


「んがぁっ!! 人が代わっても関係ないだ!! オラは絶対、絶対に、親分達の情報ははかないだァ!!」

「――分かった。お前が義理堅いことは、このティト、よくよく理解した」

「んが?」

「その上で、ハーフオークのバブリーよ。お前に、一つ取引がある」


 なにを言い出すのか、と、その場にいた全員が顔を男戦士とハーフオークへと向ける。

 女エルフが、実際にその心持ちを声にだして止める中、男戦士はそれを制してハーフオークに取引を持ち掛けた。


「実は俺の知り合いに、結婚したくてしたくてたまらない、女エルフの知り合いがいるのだ」

「んがぁ? なんだって、それは本当か?」

「あぁ。それでどうだろうか、バブリーよ。その女エルフを、お前たちエルフさらいの頭目に紹介してやってくれないか」


 みえみえの罠である。

 そんなエルフに心当たりがないことを、女エルフをはじめ男戦士のパーティはよく知っていた。

 男戦士は、その奇特な女エルフの紹介を口実に、彼らのアジトへとこのハーフオークに案内させようとしているのだ。


「もし紹介してくれるなら、今回の襲撃のことは水に流そう。聞けば、お前たちの頭領は、自分の嫁になりうるエルフを探しているんだろう?」

「んがぁ、そうだぁ。ドエルフスキー様は、そりゃもう、エルフが大好きで。理想のお嫁さんを探してるんだぁ」

「だったら、もし、俺が紹介するエルフが、お前の頭領のお眼鏡に適えば、俺たちがいがみあうことは何もない」


 女エルフは結婚できて、彼らの頭領は嫁ができる。

 どちらも悲しい思いをしなくてよい、円満な解決案である。


 もちろん、そんな女エルフは現実にはいやしないが。


「んがぁ、それなら、確かにオラたちがいがみ合う理由はないだ」

「そうだろう。なぁ、どうだろうか」

「――うぅん」


 一同がハーフオークの次の言葉に注目していた。

 眉をひそめて、目を閉じて、うんうんと唸るハーフオーク。


 そうしてようやく彼は目を開けると、わかっただ、と、短く答えた。


「そういうことなら、その女エルフをアジトまで案内するだ」

「分かった。では、すぐにその女エルフをここへ連れてくるとしよう」


 交渉は見事に成功した。

 男戦士にしては頭を使ったそのやり取りに、ワンコ教授をはじめとした面々が、おぉ、と、感嘆の声をあげた。


 ただ一人――そんなエルフに心当たりがない、女エルフを除いて。


「ちょっとちょっと、ティト、なんて約束してるのよ!!」

「モーラさん」


 小声ながらも、声色を怒らせて詰め寄る女エルフ。

 それもそううだろう。この中で、明らかに、さっき彼が言った――結婚したいというエルフ、それを演じさせられるのは彼女なのである。


 あるいは、暗黒騎士の相棒であるローブの娘ということも考えられるが。

 それを暗黒騎士や彼女が承諾するかはわからないし、そもそもエルフかどうか確証はない。


 寝耳に水なこの申し出に、彼女が怒ったのは仕方ないことだろう。

 しかし。


「安心しろ、モーラさん。ちゃんとそのエルフにはアテがあるんだ」

「アテって。アンタ、私以外にエルフの知り合いなんているの?」

「いや、いない」

「じゃあどうするのよ!!」


 声を荒げる女エルフを前に、ふふっと、暗黒騎士のような冷笑を浮かべる男戦士。

 そうして彼は、そんなこともわからないのか、とばかりの顔でこう言ったのだった。


「居ないのなら、作ればいいだけだよ、()()()()()()、という奴をさ――」

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