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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第八部第一章 深海の都 オ○ンポス
806/814

第806話 ど壁の魔法騎士さんと父の悩み

「どうする? 正直、この手の話題だと、私は絶対に負ける自信があるし、ウワキツ系のバトルを終えたばかりで、これ以上メンタルをやるのは避けたいんだけれども? 誰か私の代わりに行ってくれる人いるかしら?」


 女エルフが日和ったことを言う。


 第七部ラストのウワキツバトルは確かに酷かった。

 酷かったし、実際彼女が出ていけば、みすみすかませ犬になる未来は見えていた。さんざん彼女を弄り倒してきた法王ポープ達もそれはよく分かっている。


 女エルフはいつだってノーガード戦法。

 殴られるに任せる非暴力主義である。


 殴られやすいボディをしている彼女も悪い。だがノーガード戦法は彼女の性格だけではない。基本的にエルフ族は争いを好まない平和主義者であり、交渉事はともかくこの手の話題では常に舌先が緩くなるのだ。

 種族的に彼女がこの手の舌戦に適任でないのは間違いないのだ。


 女エルフにこの役目は不適切。

 であれば、誰が適切か。


「だぞ、やはりここは僕が」


「お子様相談室はやってないよ。ここは大人のちょっとどろっとした悩みの相談所だからね。また大人になってから来てね」


「だぞ!! 僕は大人なんだぞ!! ちゃんと成人してるんだぞ!!」


 名乗りを上げたワンコ教授。

 一応、パーティの頭脳役として活躍している彼女だが、頭の良さと煽り耐性は必ずしも一致しない。

 実際、その容姿を弄られただけで即これである。

 任せることなどできるはずもなかった。


 それでなくても、こんな少女のようなワンコ教授に、ド汚い大人の相手をさせる気にはなれなかった。


 となれば。


「なるほどさとりの能力分かりました。その能力により場における最大公約数的な意見を見つけ出すことで、相手を議論の袋小路に追い込む。なにより恐ろしいのは同調圧力ということ。論理的な正しさよりも、大多数の声による否定にこそ、人は恐怖を覚えるものです」


「リーケット!!」


 法王ポープ

 おそらく、当世においてもっとも弁の立つ、この世界最大宗教の頭領を差し置いてこの役目が適任な者はいないだろう。


 彼女ならば安心。

 きっと目の前のいけすかない男をぎゃふんと言わしてくれるに違いない。


 しかし、そんなパーティの期待の視線を前にして彼女は。


「ですが残念です。私にはそんな人に相談するような悩みはございません。なにせ、世界最大宗教の頭領であれば神にも等しい存在。ミスパーフェクトですから。えぇ、それはもちろん、なんのコンプレックスも、なんの家庭的な問題も抱えていないパーフェクトでございますから。お悩み相談することなんてないんですよね」


「おい!! お前まで日和ったらどうにもならんやろ!!」


「日和る――いえいえ、そんなこと。ただ単に、人生がイージーモード過ぎて特に相談することがない、それだけのことですよ」


「ぶっ飛ばしてやろうかこいつ!!」


 残念ながら力になれないという感じに首を振るのだった。


 そう、この試練。

 人を選ぶ前にまず悩みを選ぶ。

 悩みがなければ試練を始めることができない。ある意味相当トリッキーな試練に違いない。そして、セレブリティになやみなどあろうはずがない。


 法王ポープリーケット。

 この世界の最大宗教の椅子に座る女王。

 彼女には、いまこの時、こんな胡散臭い男相手に相談しなくてはいけないような、そんな悩み事など持ち合わせていないのだった。


 世界に対して君臨する女王。

 そんな彼女に悩みなどあるはずがない。

 そう、彼女はミスパーフェクト。

 この世界において、絶対的に完成された女性。


 そんな彼女に付け入る隙など――。


「おやおや法王ポープさま。パッドを重ねてなんとかお姉さんと張り合っているようですが、どれだけ偽っても所詮まやかしはまやかし。ないことを開き直っているそちらのエルフの方が、人間としては立派なんじゃないですかね。いや、胸だけに」


「ぐぼぁ、おばぁおえぇえええええっ!!」


「おんぎゃぁああああああっ!!」


 法王ポープと女エルフ、悶絶卒倒。


 別に相談も何もしていないというのに、あるでばらんの口から飛び出した言葉の弾丸にやられて、二人はその場に倒れたのだった。

 不意打ち、まさに不意打ち。


 そう、法王ポープとてまた人間。

 そして、年頃の乙女に相違ない。


 そりゃ人並みにプロポーションは気にするし、女の子らしい悩みを持っている。


 完璧な人間などいない。

 誰だって、何かしらの悩みを抱えて生きているのだ。


 そして、その悩みさえも、太陽の牡牛はその能力で察知してしまうのだ。


 おそるべし。

 〇金闘士。


 おそるべし。

 さとりの能力。


「……な、なぜ、私がパッドを入れていると」


「……な、流れ弾で殺しにかかるだと、あるでばらん、化け物か」


 男騎士パーティの主力二人、早くも離脱。

 これはもう、本当にどうなってしまうのか。

 残された新女王が青い顔で、何か悩みなんてあったかしらと思案に暮れる。


 その横で――。


「……では、俺が行こう」


「「「ゼクスタント!!」」」


「当方、年頃の息子を抱える一人親である!! 相談したいことは山ほどあるが、職務柄そういうことをおおっぴらにできぬままここまできた!! 本日は、そういう所も含めて丸っと聞いてもらおうではないか!!」


 壁の魔法騎士。

 この旅が始まるや、さっそく合流した頼もしい仲間が、ここぞとばかりに名乗りを上げるのだった。

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