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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第八部第一章 深海の都 オ○ンポス
804/814

第804話 ど男騎士さんとアンタが悪いよ

【カウンター魔法 奥さんそりゃアンタが悪いよ: 喰らうと割と心に深刻な傷を追うカウンター魔法。女は基本的に相談ごとに解決ではなく共感を求めているというのに、それをぶち壊すだけでなく一方的な主観で断罪される、心に来る魔法。これにより改心するどころか、逆にストレスが溜まり家庭生活が破綻すること山のごとし。相談する相手と番組は選びましょうというそういうお話。なお、そういう流れがだいたい浸透しているので、応募する方々は覚悟しているのでダメージは少ない。知らぬのは、そういう趣旨を理解せずに相談した哀れな奴だけである】


「そっちの、モーラちゃんが今のパーティのヒロインなんだっけ?」


「えっ、あ、はい。そうなんですが」


「まぁ、確かにエルフって、見た目的に年齢が変わらないから、ウワキツ演出するのは難しい所があるよ。けどさぁ、それを理由にヒロイン枠をぶん捕っていいかっていうのはそれは違う話だと私は思うなぁ。まずは、ちゃんとヒロインにヒロインしてもらって、それでどうしようもなくなってからやることでしょう?」


 ど正論。


 まったく反論する余地のない、ど正論を投げつけて太陽の牡牛。

 男騎士にどうなんだいうぅんというしかめ面を近づけてきた。


 男騎士、脂汗が額を走る。


 彼の脳裏を走るのはこれまでの冒険の日々。

 いつもいつも「流石だなどエルフさん、さすがだ」と、その便利な言葉で片づけてきたが、はたしてそれは正解だったのか。


 もっと、三百歳エルフヒロインの彼女をサポートできなかったのか。

 エルフなのに十五歳とか、逆に千歳とか、寿命がないとか。

 ファンタジーの利点を一切無視して、現実的な三百歳エルフというヒロイン。

 そんな彼女を、切り捨てずに活かす道が、どこかにあったのではないか。


 思えば思うほど、男騎士の胸の中に暗澹とした気持ちが立ち込める。

 女エルフをヒロインとして殺したのは、彼女に問題がある訳ではない。


「問題があったのは、俺たち、彼女を本来ならば支えるべきだった、パーティメンバーの方にあるのではないのか。俺たちが、もっとモーラさんをウワキツヒロインとして盛り上げていけば、こんな相談をする必要もなかったんじゃないのか」


 そういうことが言いたいんですねと男騎士。

 擦りガラスの衝立の向こうで、まっすぐに太陽の牡牛を見つめて、彼はその顔に答えを問うた。


 はたしてそれに返ってきたのは――。


 はりついたような笑顔。


「さぁ、それはどうだろうねぇ」


 答えを明示しない。

 そう、これはあくまで相談なのである。

 正規のカウンセリングの資格を持った者が行う医療行為ではないし、医者が行う診断でもない。故に、こうしなさい、あぁしなさいと、とやかく彼に言うことができないのだ。


 いや、できないのではない。


 はっきりとしたことを言ってしまうと、後々面倒なことになってしまうので、あえて口にしないのだ。

 高等な大人の話術である。


 これがまた効く。

 知力1の男騎士には、突き刺さるように効く。


 なんなのだ。

 こちらが真剣に悩んで相談したというのに。

 こういうことなのだろうかと、考えに考え抜いて自分なりの答えを提示したというのに、これを肯定も否定もしてくれないというのか。


 何がいったいお悩み相談なのか。


 こんなのって、こんなのって――。


 憤る男騎士。

 だが、目の前の男に切りかかることはできない。

 実際問題、彼の言うとおりであり、反論の余地はないからだ。


 ここで怒ってしまえばそれこそ逆ギレ。

 常識のない大人というレッテルを張られてしまうことだろう。


 故に男騎士は耐えた、舌を噛んで耐えた。

 目の前の男から振るわれた無慈悲な言葉の暴力に、踏みとどまって耐え忍んだ。


 男騎士はこの手のことには我慢強い男であった。

 いつだって、彼は迫りくる逆境に耐え忍んできた。

 耐えることもまた、男騎士にとって一つの戦いに違いなかった。


 そう、男騎士は耐えきった。

 なんとか太陽の牡牛の言葉責めに歯を食いしばって耐えきった。


 しかし――。


「そうだそうだ!! お前はもっとヒロインをちゃんと立てろこのポンコツ主人公!! 知力1だからってやっていいことと悪いことがあるんだぞ!!」


「後方《味方》からの攻撃《裏切り》!!」


 ぐさり背後から女エルフに追撃を見舞われては仕方ない。

 あわれ男騎士、彼はすりガラスの向こうで、きゅうと意識を失うと前のめりに倒れたのだった。


 あれ、と、女エルフが戸惑う。

 こんなはずではなかったのにときょとんとする彼女に、これまた突き刺さる視線がパーティメンバーから飛ぶ。


「だぞ。真面目に相談しているティトに、それはちょっとかわいそうなんだぞ」


「お義姉ねえさま。流石に私もちょっとさっきのはどうかと思いました」


「酷いじゃないかモーラ殿。ティトもアレで結構繊細なんだぞ」


「……あはは。流石にちょっと間が悪かったですね、モーラさん」


 はい、どう転んでもいつもの流れねこれと、女エルフがほほ笑む。


 最後に見たのは法王ポープ

 姉からその役割をしっかりと受け継いだ彼女は、やれやれという感じでかぶりを振ると、いつものキメ台詞を発するのだった。


「言葉責めに追い言葉責めで容赦なく叩きのめすとは容赦がない。流石ですねどエルフさん、さすがです」


「そんなつもりじゃなかったのー!!」

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