第796話 ど男騎士さんと海底都市
「……うそでしょ、どうなってんの? 水の中なのに空気がある?」
「街全体が何かよくわからないバリアで護られているみたいだ」
「これは大規模結界魔術の類ですね。しかも、失われて久しい古代魔術かと思われます。海底都市オ〇ンポス。これはなかなかいわくつきの場所のようですね」
「だぞ!! あの建築様式!! あれは山岳都市群の中でも、一万年以上の歴史がある都市に見られた造りなんだぞ!! これはつまり、この街が一万年以上前から存在していたという証拠以外の何物でもないんだぞ!!」
海底都市に、なんの躊躇もなく降り立つ男騎士たち。
空を見上げれば常闇の帳がどこまでも広がる。
しかしながら、どこからともなく降り注ぐ黄色い光により、街は異常なまでに明るい。まるで昼間のように、はっきりと遠くまでその街の姿が見える。
しかしながら人の姿はなく、生き物の息遣いさえも聞こえてこない。
海底都市オ〇ンポス。
冥府島ラ・バウルの地下にあるというその都市はあまりにも異様な地下世界。いや、深海世界であった。
まるで男騎士たちがくることを予想していたような、結界と海の狭間にできた港。そこに潜水艦を停泊させると、男騎士たちは海底都市の土を踏んだ。
死んだ都。
死臭漂うその水底の街を、男騎士たちは静かに眺める。
すぐに目についたのは、その中央にある螺旋状の階段を伴う建造物。
黄色い光に満たされた海底都市の中にあって、まるで氷のような冷たい光を放つ、白亜の塔であった。
その頂上には、時計のような三十度間隔で放射状に配置された祠がある。
「……あれは?」
『あれは怪奇メフィス塔。この海底都市オ〇ンポスの物見櫓です。もっとも、既にその役目を終えてしまっていますが』
「その声はコウイチ?」
潜水艦呂09から降りてきたのは、因縁深いかな和装のからくり。
魔性少年とそっくりな顔立ちをしたそれは、何の説明もなく突然に男騎士たちの前に現れた。
動きはなめから。
からくり侍を彷彿とさせる所作がある。
実際その腰には、大小二つの刀が差されていた。
はてこれはいったい。
面食らう男騎士たちを前に、魔性少年に似たからくりが笑う。
『さて、説明が遅れましたが、どうして潜水艦呂09ことポ性ドンに、オリジナルである僕――『鉄人二八 ゴウ』が居たのか。その理由を説明しましょう』
「あぁ、そう言えばあまり気にしていなかったな」
「なんかそういうものだと、すっかりと忘れていたわ」
「だぞ。そもそもあのオーバーテクノロジーの塊はいったいなんなんだぞ」
『皆さん、既に会われているかと思いますが、破壊神ライダーンの使徒たちはご存じですね。コンゴウ、アシガラ、クマ、ユキカゼ、そしてホウショウ――七人の最初の原器』
なにかおかしく感じませんか、と、告げる魔性少年に似たからくり。
うむ、と、最初に首を傾げたのは、やはり――男騎士パーティの頭脳役、ワンコ教授であった。彼女は指折り、数えて、なにやら思案する。
「だぞ。コンゴウ、アシガラ、クマ、ユキカゼ、ホウショウ……そして始まりの七日で失われたミカサ」
「……ん? あれ、七人の最初の原器よね?」
「たしかに、言われてみれば妙ですね」
「……ど、どど、どういうことなんだ、ケティさん、モーラさん?」
知力の足りない男騎士を除いてほかのメンバーもすぐに気が付いた。
そう、これは単純な算数の問題。
よく数えてみれば、数が合わないのだ。
そう――。
『七人の始まりの原器。残された一体こそ、この体。ポ性ドンを構成する、コアプロセッサユニット。ミッテル様が造られた鉄の巨人に、自立した意思を与えた歯車。そして、大陸に渡った僕たちに変わって、ゴウの身体を維持してくれた相棒』
「つ、つまりどういうことなんだ、コウイチ!!」
ここまで言って分からないかと、また魔性少年が苦笑いする。
つまり、彼の声を発しているそのからくりこそが、それである。
最後に残された、七人の最初の原器。
「姉妹がご迷惑をおかけしました。私、破壊神ライダーンさまがこの世界に造りたもうた使徒が一体。そして、ゴウ殿と古き約定により行動を共にするもの。名を――ムサシと申します」
最後の破壊神の使徒であった。




