第795話 ど男騎士さんとコウメイ
「えっ!? マジでコウメイの奴倒しちゃったの!?」
「ミッテルさまの使徒の中で最強と言われたあのコウメイを!? いや、腕力的には最弱だけど、そういうの頭脳でひっくり返しちゃう、言ってしまえば一人だけ違う遊戯をしておりました的な、あのコウメイを!?」
「……そうなんだよね」
「……俺たちもいまだにちょっと信じられない所はあるんだが、事実なんだよ」
絶句。
コメディリリーフ。
方やアホなこと言って男騎士パーティを困らせてきた店主。
かたや暗殺者ながら妙な格好で後ろ暗い感じをまったく思わせない暗殺者。
そんな二人が、ギャグ顔をして男騎士と女エルフに視線を向けている。
それに応えて男騎士と女エルフ。
しょんぼりと肩を降ろす。
もはや抗弁する言葉も出てこない。そんな感じに黙り込んだ彼らに、ぱくぱくと店主たちは口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返した。
店主たちの額を流れる脂汗が、男騎士たちがしでかしたことの重大さを裏付けている。あのひょうひょうとした二人が、こうも揃って静かになるとは。
やはりあのコウメイ、ただものではなかったか。
男騎士も女エルフもただただその場で、どうして勢いに任せて倒してしまったかなと、そんな後悔をするのだった。
「いやけど、あれなのね。ミッテルの使徒なのに普通に死んじゃうのね。びっくり」
「実は生きてましたとか、そういう感じで出てくるかと思ったんだがな。なんかコウソンショウから普通に名前を告げられた時には」
「そりゃお前、俺らは不老ではあっても、不死ではないからな」
「神だって、条件が付けば死ぬ・殺せるのが神と人が分かれた今の世界だ。まぁ、神殺し免状っていう、厄介なシステムは残っているけれどな」
だから神の使徒である彼らも普通に殺せる。
あの塔で、男騎士たちが行ったことは間違いないのだ。
そう、確かに男騎士たちはコウメイを倒したのだ。殺したのだ。滅ぼしたのだ。
これから許可をもらいに行かなければならない、相手を――。
「……これ、話的に詰んだんじゃない?」
「知力1の俺にはなんとも判断がつかない」
「いやいや、これは誰が考えても分かるでしょう。詰みですよ詰み。というか、なんてことをしてくれるんです、モーラさん、ティトさん」
「だぞぉ。けど、あの時は、そうするしか手がなかったんだぞ」
「死んだ人にいったいどうやって許可をもらいに行けばいいというのか――」
と、新女王が言ったその時である。
あっと男騎士たちは自分たちが何をしようとしているのか思い出した。
そう、彼らはこれから、冥府の底へと向かうのだ。
死んだ人間をよみがえらせに行こうとしているのだ。
いまさらそれが、一人増えようと関係ないのでははないか。
それに気づいた瞬間、男騎士たちの顔色は一斉に明るくなる。
「そうか、死んでしまったのならば、それこそ冥府で会えばいいだけのこと!!」
「むしろどこにいるのか分かって、こっちとしては助かるって話よね」
「だぞ!! 災い転じてなんとやらなんだぞ!!」
「やれやれ。なんだか壮大な話になってきましたね、この救出作戦も」
「なんだかよくわかりませんが、お姉さまたちが納得しているようなので、エリィは大丈夫です!!」
なんだ余計な心配だった。
そんな空気が流れる中、顔を見合わせるのはミッテルの使徒たち。
喜ぶ女エルフたちにはわからないように、目配せしたのはほかでもない。
彼らにも思うところがあるからだ。
「あのひねくれもののコウメイが、そう簡単に自分を殺した奴らに協力するとは思えないんだけれどもなぁ」
「だなぁ。絶対に、なんかまた仕掛けてくると思うんだ」
『同感です。コウメイさんはなんていうかもう、一度こうと決めたらテコでも動かない、そういうところのあるお方ですからね』
おそらく、十二の試練にも何かしらのちょっかいをしかけてくるのだろうな。
はたしてそんな空気の温度差がデッキに満ちた時。
――ぐらり。
急に男騎士たちが乗る潜水艦呂09の船体が揺れた。
とはいえそれは緩やかなもの。
目的地に近づき、減速したという感じの動きであった。
魔性少年が管の中で背中を向ける。
『どうやらついたようですね――目的の場所。海底都市オ〇ンポスに』
そういう彼の視線の先には、淡い光に照らされた沈没都市の姿があった。




