第792話 ど男騎士さんと目指せ海底都市オ〇ンポス
「……だぞぉ!! なんなんだぞこの鋼の船は!! 鉄鋼船なんか目じゃないんだぞ!! これだけの重量がありながら凄い速度で移動してるんだぞ!! それだけじゃない、防水性能が完璧なんだぞ!!」
「おぉ!! この呂09のすごさが分かるでゲソか!! お前は見る目があるでゲソ!! モーラなんか、エルフなのにまったくこういうの興味なくて、張り合いがなかったじゃなイカ!!」
「うっさいわねー。エルフ族は鋼とか貴金属とか、そういうのはあんまり得意じゃないのよ。そういうのはどっちかっていうとドワーフの……」
と、抗議する女エルフの前にワンコ教授が座り込む。
完全にオーバーテクノロジーの虜となった彼女には、もはや周りの声も入ってこないらしい。ふんすふんすと鼻を鳴らして文字通り潜水艦内を嗅ぎまわるその姿に、男騎士たち一同は、たははと苦笑いを浮かべるのだった。
さて。
パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムに、女船長とその部下、青年騎士、からくり侍を残して、男騎士たちはこちら潜水艦呂09に乗り込んでいた。
理由は単純明白。
「GTRについては、あとはアンナたちに任せておけば大丈夫だろう」
「それよりも祝典やらなにやらに巻き込まれる方が問題だものね」
「明恥政府たちに気取られることなく、移動できる船を手に入れることができたのは大きいです。モーラさん、よくやってくれました。これは本当に大手柄ですよ」
「……けどまぁ、乗り心地にはちょっと難ありですけれどね」
青い顔をする新女王。
大丈夫と女エルフが近づくと、ちょっとと言って口元を抑えた。
船とは違って潜水艦。
海の中を潜って進む神代の兵器の乗り心地は、慣れぬ者にはちょっときつい。
それでなくても異世界ファンタジー。
海中を行く鋼の船の中という特殊な環境は、彼女たちも初めて経験する。
男騎士から、法王まで、皆、青い顔をする。
平気な顔をしているのは、女エルフとデビルフィッシュ娘。
それと――。
「なんだよお前らまったく情けのない奴らだな。仕方ねえ、ここは出血大サービスで、俺がこの酔い止め薬を恵んでやるとするかな」
「……店主。お前、よく平気だな、こんな乗り物の中で」
「あったりめえよ。俺をいったい誰だと思ってやがる。軍神ミッテルさまの使徒よ使徒。ミッテル様の船の中で酔うなんてそんなことある訳ないだろう」
だっはっはと笑い飛ばしたのは男騎士たちの馴染みの道具屋の店主である。
そう、ギルドマスターにして神の使徒という、割とチートな性能を隠し持っていた男。
彼はあっさりと、潜水艦の環境に適応した。
しかしまぁ、と、辺りをぐるりとみやってごちる店主。
その瞳には感慨深い色が浮かんでいる。
「ミッテルの船と言ったが。やはり、その話は本当なのか?」
「本当よ本当。あのからくり娘たちと同様、こいつも神造遺物――ミッテル様が天地創造の後にお造りになられた方舟って奴よ」
「方舟」
「まぁ、そこんところは追々な。まぁ、俺も使徒の力を頂いたときに知識をもらった程度だからなんとも言えん。聞くならば、こいつに《《乗ってるやつ》》に聞いた方が早いだろう」
その視線は女エルフへと静かに向けられていた。
どういう意味かと、男騎士たちパーティの視線が集まったその時。
『皆さん、ここまでの旅路おつかれさまです。これより本艦呂09は、冥府島ラ・バウルの水底にある海底都市オ〇ンポスに向かって出航します』
「……なんだと!?」
「だぞ!! この声は!!」
驚く、男騎士とワンコ教授。
対して、驚く理由が分からないという顔をしたのは新女王と法王だ。
女エルフは。まぁ、そうよねそうなるわよねという感じに、静かにその場でうなづいている。
果たして、そんな動揺する彼らにアナウンスは語り掛ける。
『どうぞデッキまでお越しください。積もる話もございますれば、軍神ミッテルからの言伝も預かっております』
その言葉と共に、男騎士たちが立っている通路の先に、光が現れた。




