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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第一部第六章 エルフさらいの悪漢ドワーフ
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第79話 どエルフさんと間接

「んがぁっ!! チッチル!! しっかりするんだなぁ!!」

「さぁ、次はお前が俺の相手か? オーク野郎!!」


 オーラソードを構えてオークに迫る少年勇者。

 ぐぬぬ、と、その分厚い唇をかみしめてオークが顔をゆがめる。


 颯爽と現れた頼もしい少年勇者に女たちの視線が集まる。

 頼りなく、情けない、大の男たちからその視線をそむけるように。


 その背けられた男たちはといえば、相変わらず、何をふりふり少年勇者を応援していた。


「いいぞ少年!! やってしまえ、さぁ、伸ばすんだお前のオーラソードを!!」

「滾らせろ!! そして放て!! お前のすべてをそれに込めて!! 行くんだ!!」

「だぁもう!! うっさいおっさんたち!! 気が散るから静かにしてろ!!」


 はい、と、しょぼんとした顔をして下を向く男戦士と暗黒騎士。

 情けなさ過ぎて女エルフからは擁護する言葉もなかった。


 と、そんな彼らのやり取りを前に、ハーフオークがうつむく。


「んがぁ。仕方ないんだなぁ、背に腹は代えられないんだなぁ」

「なんだよ。奥の手でもあるっていうのか、言っておくが力比べでも俺は負けないぜ」

「オラぁ、自分の命は大事だが――親分からの命令守れず、折檻されるのも勘弁だぁ!!」


 ふん、と、オークが体に力を込めた。

 かと思うや、そのオークにしては小柄だった体がみるみると大きくなる。


 二倍、三倍、と、大きくなるその体積。

 巨大化の魔法の使い手だったか、と、少年勇者がオーラソードの先端を鋭くとがらせたその時だ。


「食らうんだな!! オラのとっとき、にんにく・にら・ラードスペシャル!!」


 ぼふん、と、はじける音とともに、あたりに黄色い煙幕がたちこめた。

 そう、それは、ハーフオークが腹の中でためにため、発酵に発酵を重ねた濃いガス。


【スキル『大放屁』:説明は不要。目に染みるそれが何かを君は知っているはずだ】


「くっ、くさっ!! クッサーッ!!」

「ダメだ、鼻が、鼻がひん曲がる!! くっ、殺せ!! 殺してくれぇーっ!!」


 女騎士と女エルフの悲鳴が黄土色の煙幕の中に立ち込める。

 間近で食らった少年勇者は気絶。その隣で構えていた少年従士もまた、口元を抑えてその場に膝をついた。


 一転して、絶対絶命である。


「んがぁ!! 逆転、逆転、大逆転なんだなぁ。それじゃ、この娘をいただいて、さっさととんずらするんだなぁ」

「――ま、待て。らら、ララを、連れて行くな」

「んがぁ。まだ意識があるのか。邪魔なんだなぁ」


 その丸太のような野太い手が少年勇者の頭上へと振り下ろされそうになる。

 強烈なにおいに体がしびれて思うように動かない少年勇者。あわや、その頭にそのこぶしがあたるか――そのとき。


「おっと、そこまでにしておけ――」


 そう言って、オークの拳を受け止めたのは、暗黒騎士であった。


 その口元には先ほどまで手に握りしめていた手ぬぐい。

 そう、彼は手ぬぐいを口元に充てることにより、ハーフオークが放った毒ガスを吸引することを防いだのだった。


 そしてそれは、隣にいた男戦士も同じ。


「大丈夫か!! モーラさん!!」

「ティト!!」

「さぁ早く、この濡れた手ぬぐいで口元を覆うんだ!!」

「えっ、いや、それって、あなたがさっき男湯で使っていた」

「さぁ、早く、使うんだ!!」

「――いやいやいや、使えるわけないでしょう、なに言ってんのよ!!」


 霧の中でいつもの問答をする男戦士と女エルフ。


 女エルフの言い分は、実に、まったく、少しの反論の余地もなく、ごもっともであった。


「もしかして、間接キッスを気にしているのか!?」

「いや、キスとかもうそういう次元の話じゃないでしょう。純粋に汚いから嫌なのよ!!」

「大丈夫だ、この手ぬぐいで、俺は○○○は拭いていないから!!」

「だからそういう問題じゃないって言ってるでしょ!!」


「じゃあどういう問題なんだ!! はっ、まさか――俺がシュラトの手ぬぐいで口を覆っているから、それに嫉妬しているのか!!」

「いや、なにその気づかい!? アンタのでも、あのアホ騎士のでもどっちでもお断りですけど!?」

「大丈夫だモーラさん!! 俺とシュラトは確かに男湯で肌を重ねあった仲だが、モーラさんが好きな本みたいな、そういう関係ではない!!」

「そうだエルフの娘よ。俺たちの間にあるのは厚く硬く太い友情だけ!! そんな薄い本みたいな仲では決してない!!」


「シュラト!!」

「ティト!!」


 厚い視線を交わす戦士と暗黒騎士。

 そんな二人を熱いまなざしで――というより怒りを込めて、女エルフは睨み付けるのだった。


「だから、そういう問題じゃないっていってるでしょ!! というか、なに私の趣味ばらしてんのよ、バカ!!」

「薔薇!? だから、違うって言っているだろう。まったく、流石だなどエルフさん、さすがだ――」

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