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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第七部第八章 七悪顕現!! 破れ絶対障壁!! 掴め人類の未来!!
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第787話 ど男騎士さんと七悪

 構える剣は頭上。

 既に男騎士の必殺の間合いの内である。

 波濤を割いた渾身の一撃。


 奥義バイスラッシュ。


 大性郷との訓練を経て、もはや神を断つ域まで極められたその剣技。

 男騎士必殺の剣は、あとはただ七悪の模造神に向かって放たれる時を待つばかりであった。


 対して道化いつわるもの


 その二つ名と姿にたがわずひょうひょうとした悪神は、くつくつと男騎士のその姿を鼻で笑っている。必殺の間合いも、構えもなにするものぞ。まさしく神の姿かくありやという感じに、超然としたそれはたたずまいであった。


 おそらく何かしらの策を持っているには違いない。

 しかし、退くにはいかぬが戦士の宿命。

 ここに立ち会って引き下がるという選択肢は、男騎士にはなかった。


「やれやれ。直情的で困ってしまいますね。ここで私がみすみすとやられてしまっては、貴方たちにみすみす世界を譲るというもの。逃げの一手の可能性を、なぜ考えられないのか」


「逃がすと思うてか、道化いつわるもの!!」


 せいと、一息。


 海を断つ一撃を男騎士は再び繰り出す。

 事実、太刀の波動は海を割いて進み、残された模造神に向かって瞬きの間も与えずに襲い掛かった。


 しかし。


「……ふふっ、ですから、そう焦らないでくださいよ」


「なに!?」


「俺たちの攻撃を防いだ!? 馬鹿な、神殺し免状(ゴッド・スレイヤー)の権能が機能していないというのか!? そんなことがあっていいのかよ!!」


 同胞の神を断った一撃を喰らって平然と、道化の模造神はその場に立つ。


 はたして彼女がなぜ男騎士の攻撃を喰らって死なぬのか。

 そこは道化、人を欺く技に長けた者である。

 何かしらの魔術あるいは技を使って、それを防いだのだろう。


 おのれとつぶやいて男騎士が二の太刀を構えるより早く。


「まぁ、七悪の一人と邂逅したのはたまたまのこと。今回はただのご挨拶」


 こちらもまた、刹那。

 息をひと吸いする間に男騎士に肉薄する。


 模造神イミテーション・ゴッド


 まさしく神業。

 神速の動き。

 霞と消えたが次に気が付けばそこに彼女の姿はない。


 男騎士の顎先にそっと手を這わす。


 もし彼女がその手に得物を手にしていたならば、男騎士の首は今頃断たれ、頭は宙を飛んでいたであろう。


 人の身では決して到達できない領域にあるそれは業。

 ぞっと身の毛がよだつより早く、男騎士が身を引く。

 その反応をあざ笑って道化のジェレミー。くるりと身をひるがえすと、顔を隠している月の面を少しだけずらして表情を見せた。


 その顔立ちに、男騎士が戦慄する。

 他の者たちに見えぬように、計算されたその角度。

 まさしく、男騎士だけに仕掛けたハッタリ。


「……まさか、そんな!!」


「ふふっ、その反応を待っていましたよ、当世の大英雄。でなければ、私もまた、こうして現世に顕現した甲斐がないというもの。えぇえぇ、貴方のその絶望こそが、私の求むるもの」


「ティト!! どうしたの!! いったい何が!!」


「そして、絶望をより深めるのには、鮮度が大切」


 その言葉と共に繰り出されるのは手刀。

 鋭きそれは、再び男騎士の呼吸の一拍のうちに放たれて、その背後に控えていた女エルフへと飛んだ。


 その動き槍が如く。

 あるいは鎌首をもたげ、獲物へと向かう蛇の如く。


 女エルフの首元をつくがごときその凶手。


 しかし、それを、男騎士――咄嗟に身体を捻って止めた。


 返し刃。

 振り返りざまに伸ばした剣先。

 神速になんとかぎりぎり人の身で肉薄する男騎士。


 だが、それはまたしても翻弄されるように空を切っていた。


 なんて、ね、と、からかうような道化の言葉が宙に響く。


「申したでしょう。ここで私が死んでしまっては、神殺しをみすみす許すことになる。ここは退きましょう。新たな時代の勇者ティトよ」


「……ここはと言うことは?」


「いずれ相まみえることがあるでしょうね。貴方が魔神シリコーンを排し、この世を人の手の中に導こうとする限り、我ら七悪は何度でも――貴方の、いいえ貴方たちの前に現れるでしょう」


「ふざけやがって!! 暗黒大陸の奴らもお前の掌の上ってことか?」


 もちろん。

 そう言って、男騎士たちの頭上に現れた月面の道化。


 作り物であるはずの道化の面。

 その口の端が吊り上がる様を見て男騎士たちが戦慄する中、彼女は甲高い笑い声を残して霞と姿を消すのであった。


 魔神の使徒たる七悪との戦いは、どうやらまだ始まったばかりのようである。


「……ユリィ」


「ティト?」


 一人、女の名を呼んだ男騎士。

 それは彼にとって、忘れようとて忘れることのできない者の名前。


 どうしてその名を口ずさんだか。

 それは、よもや語るまでもないだろう。


 万力のように魔剣を握りしめて男騎士、彼は、空に消えた道化いつわるものの影法師を睨んで奥歯をかみしめるのだった。

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