第784話 ど女エルフさんと二人はウワキツマックスアラサー
変身。
ウワキツ。
いったい何が。
神の脳裏に過る逡巡。
怒涛の如く押し寄せる危機に、もはや人智を越えた超常存在である神さえも戸惑う。その最中、二人のきつい格好のいい歳した女が決めポーズを取っていた。
そのポーズは、ちょっと、アラスリエルフがとっていいものではない。
いや、もはや子供以外がキメていると、冗談以外の何物でもないポーズをキメにキメて、二人の行き遅れオトメたちはその場に立っていた。
その顔には微塵の躊躇も汚れの自覚もありはしない。
全身全霊で――。
「「二人はウワキツ!!」」
「……そんな大声で言わんくても」
悪ノリしていた。
そう、世界を救うためとはいえ、神との争いに手段は選んでいられないとはいえ、やっぱり魔法少女服姿に抵抗感がない訳ではない。
二人はそれなりに葛藤していた。
その葛藤を、気合と勢いで乗り切った。
いつものやけっぱちであった。
「覚悟しなさい、人類の敵たる七悪――強奪よ!!」
「私たち、人類の代表たる二人の攻撃、耐えきれるかしら!!」
とう、と、アクロバティックに飛び立って二人、不思議な跳躍力を見せる。
船の帆が揺れる柱を蹴れば、一直線に――二つに泣き別れた黒髪の模造神へとその咢が飛ぶ。
矢の如き鋭き蹴り。
まったく同時。
シンクロして、二つに分かれた模造神の身体を蹴り上げると、空中で入れ替わって二人、今度は舞い上がったそれに向かって飛ぶ。
抜群のコンビネーション。
男騎士をドキドキさせたときにも見せた完璧な連携はどこから来るのか。
同じウワキツの者だからか。
それとも、同じような性格をしているからか。
まるで長年同じ流派で修行した者の演武でもみているかのよう。
指先の一つとってみても、そっくり同じシンクロを見せ、舞うような空中殺法で分かれた神を翻弄すると、二人のウワキツは更に気迫のこもった声を上げた。
「くっ!! まさか、分かれた体に同時にダメージを叩きこむことにより、合体・再生するタイミングを与えないとは!!」
「合体しなければ、貴方の再生能力は不完全なまま!!」
「このまま、復活させる隙もなく、倒させてもらうぞ――!!」
「そうは、いくか!!」
半身に別れた黒髪の模造神が身を翻す。
自らの身体を回転させ、急速再生した彼女は、小ぶりながらも人の形を取り戻す。合体できぬのならば、二つに分かれたまま戦える状態になればいい。
なんとも神らしい発想である。
その手に黒い塵が再び集まり始める。
しかし、それを――。
「おヘルス仮面!! 技を借りるわ!!」
「喰らいなさい!! セクシーサンシャイン!!」
「こっちはキュートサンシャイン!!」
男らしく、胸をはだけて世界の理を発動させて妨げる。
ギリモザ。
普段ならば、もうなんというか、隠す必要ありますかこのアラスリという感じで、乳首券発行で済まされる女エルフ。
だが、魔法少女コスチュームとあってはそうも言っていられない。
おヘルス仮面の常時全裸による欺瞞と同じく、魔法少女服だから問題あるもん、という謎理論により、普段ならば絶対飛ばないギリモザが飛ぶ。
鋭く飛ぶ。
女エルフの薄い胸に向かって飛ぶ。
赤バニ娘の豊満な胸に向かって飛ぶ。
濃厚な光の束がまたしても同時に黒い塵を焼く。
くそっと喚いたその隙に、二人のウワキツは、黒髪の模造神の背後にそれぞれ回って、がっちりとホールドを決めていた。
「さぁ、覚悟はいいかしら!!」
「ウワキツホールド!! 一度固めたら逃がさないのが私たち!!」
「「くっ、お前ら!!」」
このまま、波間に向かって真っ逆さまよと叫ぶが早いか、二人が同時に落下を開始する。
自由落下の理を越えて、高速に水面へと接近すると、その手前で、模造神の身体を彼女たちは投げ出した。
受け身を取って横に離れる女エルフたち。
戒めを解かれたものの、為す術もなく海中へと打ち込まれた模造神。
そんな、彼女たちに向かい。
「よくやってくれました、モーラさん!! 流石です!!」
「母なる海に落ちたならば、もはやそれは神の懐に抱かれているも同じ――。では、我が教会の秘術を見せましょう!! いきますよ、お姉さま!!」
「えぇ、リーケット!!」
女修道士と法王が声を合わせる。
海母神マーチを擁する教会。
海こそは、彼女たちが奉ずる神の聖地であり、権能が及ぶ場所。
深淵より来たれと呼びかければ、古の時代より神と共にあるその眷属が水底より去来する。
それは巨大な緑の帯。
巨大なサザエのような海母神の眷属にして、海中に蠢くもの。
邪悪に緑の光を纏った怪しき――。
「禁忌封印魔法!! 生わかめ亀甲縛り!!」
「意思持つわかめの触手凌辱!! さぁ、美味しく、そして健全に女体盛りにされなさい!!」
わかめであった。




