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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第七部第八章 七悪顕現!! 破れ絶対障壁!! 掴め人類の未来!!
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第782話 ど男騎士さんと七悪権能

「人間どもよ。そなたたちを滅ぼすために、その文明を破壊するために、造られた我が権能を甘く見るなよ」


 黒塵。


 その極小の暗黒物質は、この世界では生成しえない異常なまでの質量を伴った疑似マイクロブラックホールである。

 高圧縮された文字通りの黒い塵は、黒髪の模造神が操る魔力に従って動き、その大きさからは考えられない引力によって敵を引き裂く。


 それは人々の有形の文明を削り取る魔術。

 捕まればその塵の中に巻き込まれて圧縮される宿命。

 幻想的な見た目に反して随分と攻撃的な、人間と文明を殺すために練られた魔術に違いない。


 今、それを黒髪の模造神は惜しげもなく辺りに散布した。


 撒かれる黒い塵。

 降り注ぐ小さき黒い雪。

 海面に近づくやそこで極小爆発を発生させ、それは海の水を吸い上げると、虚空へと消えていく。


 さぁ、どうする、と、人間側を試すような視線が模造神から降り注ぐ。

 広範囲に展開された女神の権能を、いかにして防ぐのか。


「リーケット!! 援護を!!」


「お姉さま!! アレをやるのですね!!」


「策があるのか、シコ――おヘルス仮面!!」


 この神の追撃に、声を上げたのはおヘルス仮面。

 いろいろなものを隠さない彼女は、ついに正体さえも隠さなくなり、自らの妹に助力を頼んだ。

 すわ、二人の修道女が背中を合わせる。


「神よ。この身を貴方に捧げます――」


「捧げた我が身を魔法に変えて、ここに顕現せよ!! 海母神マーチが母なる海の力を思い知るがいい!!」


「「神聖結界魔法!! おとめシールド!!」」


 海面がドーム状に盛り上がり、降り注ぐ黒い雪から男騎士たちを護るように全天を覆う。


 これもまた神の秘蹟。

 ありとあらゆる災禍から、自らが庇護する信者たちを守るべく、海母神が人に授けた絶対防御の魔法盾。


 決して破ることのできない倫理の結界魔法。

 うすピンク色をしているのは、潮の関係か、それとも光の屈折か。

 なんにしても、おとめの膜が人類を、模造神イミテーション・ゴッドの降り注ぐ悪意から身を救った。


 おとめの膜が。


「ほんとお前の所の神様はセクハラ魔法大好きよな」


「言ってる場合ですかモーラさん!!」


 とはいえ、これは守りの技。


「ふふっ、海母神の権能を借りたか。面白い。しかし、耐え凌ぐだけの技でいったいいつまでもつだろうかね」


「くっ……」


 無尽蔵に降り注ぐ黒い塵。

 対して、おヘルス仮面たちが発するそれは、人の魔力を吸って放つ技。

 魔力が切れれば、この魔法はたちまち霧散し、悪夢のような黒い雨が降り注ぐことになるだろう。


 どうする。視線は男騎士へと向かう。


「あと、数刻待ってくれ!! もう一度、奴に向かって攻撃を仕掛ける!! それで次こそは決めてみせる!!」


「ティトさん!!」


「しかし、私たちのおとめ力では、あと数病が限界――」


 その時である。

 ぴとりとおヘルス仮面の背中にくっついた影があった。


 それは、彼女がそんな仮面を被る前から、よく見た光景。

 このような状態になっても、なおも続いている、信頼の姿。


 彼女の背中に憑りつき、ぎゅっと抱きしめたのは、ワンコ教授。


「だぞ!! コーネリア!! 僕の力も使うんだぞ!!」


「リーケットさん!! 私の力も使ってください!!」


「エリザベート女王!!」


 おヘルス仮面にワンコ教授。法王ポープに新女王。

 それぞれ、おとめたちが力を貸して、魔法に拍車をかける。すわ、大きく、そして厚くなる魔法シールド。

 これならば、数刻は持つだろう。


 さらに、そこに加えて。


「私も力を貸すわよ!! コーネリア!!」


「なんだかよく分からないけれど、ちょっとこれは想定外。このアシガラちゃんも、ちょっと力を貸してあげるんだから!!」


 女エルフと赤バニからくり娘もそこに参戦する。

 みんなのおとめパワーが集まれば百人力。

 そう、思って、彼女たちが女修道士シスター二人の肩に触れたその瞬間。


「……なっ、馬鹿な!!」


「おとめシールドが暴走!!」


「おとめ力が暴走して、世界がおとめに包まれようとしているだと!!」


「馬鹿な……神の力をもしのぐおとめ力とはいったい!!」


 おとめ二人が触れた途端に大瀑布。

 ピンク色の水の天蓋は、弾けて辺りの黒塵全てを巻き込むと、それを虚空に消失させた。

 突然のことに、自分たちでも何が起こったのか分かっていない女エルフたち。


 ただ、それが、どエルフ案件であることは、二人ともよく分かった。


「……これが三百年溜めたおとめ力!!」


「創生の時代から続くおとめ力!!」


「いきおくれたおとめが持つ、身持ちの固さを魔法に変えたおとめシールド。その根源たる身持ちの固さが、図らずとも具現化された訳ですね。しかし、まさか、神の攻撃を完全に中和するほどとは」


「「流石だなどエルフさん、さすがだ」」


「久しぶりだからって、ちょっと調子に乗り過ぎじゃないの!!」


「なによ、どエルフって!! 私はそんなんじゃないから!! こんなのと一緒にしないで!! ただ、その――封印されて出会いがなかっただけなんだから!!」


「「流石だなどからくり娘さん、さすがだ!!」」


 神の攻撃を凌いだというのにこのさっぱり感。


 やっぱりどエルフ。

 シリアスなのに彼女が絡むとどうやってもトンチキ展開待ったなしだった。

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