第763話 どからくり娘さんと時代遅れのウワキツモンスター
【アイテム ちょっと待てボタン: 番組をしている途中で止めたくなったら使うボタン。出演者がなかなか旅慣れしている人のはずなのに、おかしな行動を取ったりするときにすかさず押されたりする。あとは、旅ロケが初めての人が、どうしていいか分からずスタッフも混乱している時に押されたりする。実のところ、取るに足らないしょうもない行動だったりするのだが、適切なコメントにより面白く昇華するので、押す側にも適切なコメント能力が求められる、高度なアイテムである】
「どっから出した!! どっから出したそのボディコンスーツ!!」
「びっくりしたぁ。ここだけ昭和かと思うた」
もう完全に違う番組《相〇食堂》のノリで話し出す男騎士と風の精霊王。
喋りも心地関西風。
いや、中国地方風。
漁師の荒っぽい感じが匂い立つ、独特の感じであった。
男騎士、目を疑って停止したボディコンスーツの元赤バニからくり娘を見る。
「はーっ、物持ちいい娘じゃねぇ。こん時のために持っとったんじゃろうか」
「しまっといたんかのう。箪笥の中に。昭和の頃から」
「いつか使う時が来る思うて持っとったんじゃろうな。今どき売っとらんもん、こんなボディコンスーツ」
「テンロク商店街――東の島国のなんでもある商店街――でも見かけんぞ」
はー、これはすごい娘がやって来た。
もうこれこの娘の優勝でいいんじゃないのという空気が場に満ちる。
まさかウェディングドレスよりもきっつい衣装を、自前で用意してくるなんてどう考えても予想外。下馬評を上回る大活躍である。男騎士の額に冷や汗が走った。
勝てるのか、この、行き遅れモンスターに。
「まぁまぁまぁ、初めてやからね。こういう大番狂わせもあるわ」
「せやけど、これはまた強烈な娘が出て来たで。怖いわぁ」
「続き、続きを見ましょう。問題はほら、葡萄酒の飲み方だから」
とりあえず、格好については得点は保留。
出落ちについては厳しく判定した風の精霊王が、それじゃぁ続きをどうぞと声をかければ、ようやく停止していた映像が再開される。
しゃなりしゃなりと、モデル歩きでテイスティングルームの席に着く元赤バニからくり娘。もう反則である。さっそく有効が一発入った。
さらに。
「……よっこいしょういち」
「「ちょっと待て!!」」
追い打ちのようにちょっと待てボタン。
男騎士と風の精霊王。
元赤バニからくり娘の口から、ぽろりと転がり出たワンフレーズに、思わず目を剥いたのだった。
よっこいしょういちである。
「どこで知った!! どこで習ったよこいしょういち!!」
「娘さんが知らんギャグやろ!! わしらの世代でもギリギリぞ!!」
「らき〇すたか。いや、らき〇すた見とったんか」
「見とったら見とったでそれはそれできついもんがあるじゃろ。見てて許されるんはあずまん〇大王までじゃ」
「いや、あずまん〇大王もきついじゃろ」
どこで仕入れた横井正一。
立つも座るも辛くなった、年頃のおっさんおばさんご用達。
むしろ、おじいちゃんおばあちゃんたちの鉄板ギャグを、なんなくこの元赤バニ放ってみせた。
底が見えないおまぬけキャラクター。
有効どころか、一本が入りそうになる。
なんにしても、まだテイスティングが始まっていないというのに、有効二点を彼女はもぎ取っていた。
おそろしい娘である。
「はぁー、びっくりしたわ。モーラちゃんこれ敵わん流れじゃない」
「ここまですがすがしいほどウワキツ行動は、ちょっと予想外じゃ」
「これ、飲み方も相当期待が高まって来るけど」
「どうしようかのう。これでセレブ飲みされたら、モーラさんでは敵わんかもしれんのう」
とりあえず、VTR再開どうぞ。
風の精霊王の声と共に、再び映像が再開される。
よっこいしょういちの所から再び始まった元赤バニ娘のウワキツ格付け。
はたして、どんなテイスティングを見せてくれるのか――。
期待の高まった所で――。
バチン。
飢えた元赤バニからくり娘は、カメラに向かってウィンク。
更に、二カメに向かってウィンク。
さらにさらに、三カメにもウィンクをぶちかました。
矢継ぎ早。
それは流れるように鮮やかな手際であり、そして、大爆笑必至の一手であった。
当然。
「「ちょっと待て!!」」
ちょっと待てボタンは再び炸裂する。
やむなしであった。
「まだ、はじまっとらんぞ!! テイスティング、まだはじまっとらんぞ!!」
「どれだけ出落ち重ねりゃ気が済むんじゃぁ、こいつは!!」
「言うたらこれ反則技じゃからのう!! 試合開始のゴングが鳴る前から、瓶ビールで殴りに行くようなもんじゃからのう!!」
「それでこの破壊力とか――はぁあぁ」
有効三本目入る。
テイスティングが始まる前に女エルフに並んだ元赤バニからくり娘。
どうやらこのウワキツヒロイン格付けチェック。
元赤バニ娘に、相当に有利な状況のようであった。




