第753話 どアシガラさんと元祖ウワキツ
轟沈か男騎士。
その露になった胸を突く、からくり娘の槍が飛ぶ。
槍先がその胸骨の隙間を突いたかと思ったその瞬間である――不可思議なことが起こった。
そう、確かにその瞬間、その時まで、そこに居たはずの男騎士の姿が、忽然となくなったのだ。
まるで陽炎。
夏の海の夜に浮かぶ幻のように、ふわりと消えた男騎士の姿。
いったい何が起こったのかと唖然とするバニーからくり娘。
そんな彼女の背後から、ふぉっほっほっほと突如として彼女に聞き馴染みのない笑い声が聞こえて来た。
しかしながら、その声を、男騎士たちは知っている。
店主が、ワンコ教授が、からくり娘が。
倒れている法王が、新女王が、仲間たちが知っている。
そして、その胸に抱かれている、男騎士が聞き間違えるはずもない。
はたして、一瞬にしてからくり娘の背後を取ったその人物は、紛れもない――。
「バニーくらいでなんだこの野郎。そんなちょっと特殊な服装を着たくらいで天下を取った気分になるとは底が知れるわね。神造兵器が聞いてあきれるわ」
「なんですって!!」
「本当のウワキツっていうのはね、本当にやっちゃいけない格好っていうのはね――こういモノのことを言うのよォっ!!」
金髪。
碧眼。
長耳。
そして――露出の多いサンタコスチューム。
そう、明らかに企画モノのビデオあるいはソシャゲの期間限定イベントグラフィックでしかお目にかかれない格好をした女がそこには立っていた。
男騎士を抱えるその姿によどみなし。
そう、彼女はまごうことなく女エルフであった。
しかも、女エルフでありながら、新たな進化を果たした女エルフ――。
「「「「どエルフさん・タ!!」」」」
「なっ、なんですってぇっ!!!!」
サンタエルフかあるいはエルフサンタか。
なんにしても、エルフが身に纏うには少々宗教性が強すぎる服を着た女エルフがそこには待っていた。
さぁ、どちらが本当のウワキツなのか。
決着をつけようじゃないかとばかりに。
ちょっとサービスっ気が半端ない、サンタコスに身を包んで。
「……モーラさん、その姿は、いったい」
「ふぉっふぉっふぉっ。ティト、私がコスチュームを着替えることにより、パワーアップするのはもはやいつもの事でしょう。今回もいつものアレよ」
「期間限定グラ!?」
「そんな!! あれはまさか!! 遥か太古の昔に失われたオーパーツ!! 純粋なおおきなおともだちの夢を煮しめて造られたという、恋人に聖なる夜に着てほしいコスチュームナンバーワン!! セクシーサンタの服だと!!」
店主の的確な説明に頷く女エルフ。
彼女の視線が、赤バニを捉えていた。
その目には戦意と共に確かな余裕が揺れている。
「夏に水着があるならば、冬にサンタがあると知れ!! 期間限定グラは水着だけじゃない!! 水着よりも、もっと恥ずかしいコスチュームがこの世界にはある!!」
さぁ、見晒せ。
その言葉と共に男騎士を放り出す女エルフ。
そして、その身を包んでいる衣装を露にする女エルフ。
ミニスカート、下乳が普通だったら見えるくらいにきわどい上着、申し訳程度のサンタ帽子、そして純白のタイツにもこもこ。
この世に、ちょっとお肌が曲がり角に入った女子が着て、これほどきわどい衣装があるやろうか。
バニーガールよりも。
水着よりも。
地味に効くセクシーサンタコス。
当然、場にまた不穏な空気が流れるのは必定。
「「「「「「うわぁ~~~っ!! きっつ~~~~~う!!」」」」」」
ウワキツの言葉が響く特殊装備であった。
女エルフ、ここに来て、まさかまさかの自らのウワキツを乗り越えての登場。
思いがけないパワーアップに、海上がにわかに揺れた。
不穏な感じに揺れた。




