第747話 ど勝と奇襲作戦
「低空飛行でこちらに近づく敵影多数!! なんだあれ、いったいどういう原理だ!! どう考えても人間なんだけれど!!」
「落ち着くのよキタカミ!! 人間でもがんばれば空を飛ぶことも――いや、たぶんないわね、きっとないわ!! けど、まぁ、事実は事実として受け止めて落ち着きましょう!!」
そうねと言って顔を見合わせるのは、赤白と青白という色違いのセーラーに身を包んだからくり娘。
最強のからくり娘――『クマ』の現身にして、彼女を越えた傑作機。
人の手により神を凌駕したと二機こと『オオイ』と『キタカミ』であった。
なぜ、彼女たちが『クマ』を越えるに至ったか。
それはその卓越した先制攻撃能力にある。
その原型である『クマ』譲りの身体能力に加えて、彼女たちは『ホウショウ』『ユキカゼ』たちが持つ、高度な索敵能力を合わせられた、ハイブリッドなからくり娘と言えた。
航空飛翔体を使う『ホウショウ』からは、水中を潜行して敵へと向かう水中兵器とそれの駆動音を察知して周囲の環境を把握する索敵能力を。
そして、高速軌道戦を得意とし、敵に奇襲をかけることに長じた『ユキカゼ』からは、その戦略眼及び戦術立案能力を譲り受けていた。
まさしく、一人軍隊のようなそんなからくり娘。
しかし、からくり艦隊これくしょん最強と目された彼女たちにも、人並みの神経はあった。というか、そこはちゃんと乙女であった。
「もうすぐ会敵よキタカミ!! 気を引き締めて!!」
「分かった――」
水中兵器――航空飛翔体とは異なり、水中を行く自立兵器――を構えて、飛んでくる敵の姿を待ち構えるからくり娘二人。
刮目。
もはやその一挙手一投足も見逃さぬ。
絶対に負けぬという意気込みと共に挑んだ彼女たちではあったが。
「敵影見ゆ!!」
「攻撃か――」
飛んできたものが悪かった。
そう、それは、六人列をなして飛んでくる、スカートをはためかせる色とりどりの集団。
人の身でありながら海上を飛び、今まさにからくり娘たちに迫っているのは。
まごうことなき――。
「「へ、変態だぁっ!!」」
変態の爺どもであった。
「ごめんね女の子じゃなくって!!」
「こんな姿だから言える!!」
「羞恥心なんてもうとっくに焼き切れてらぁ!!」
「今すぐ、死にたい――むーりー!!」
「泣きたくなるよな、実際……」
セーラー服をまとったいい歳したおっさんたち。
それが空を飛んでこちらに向かってくる。
会敵するや否や、混乱必至。
目の前の状況を正しく把握するだけで、彼女たちはもういっぱいいっぱいの状況に陥ってしまった。
目の前の光景は現実なのか。
なぜ男が、女物の服を着ているのか。
しかも絶妙にきわどい丈のスカートを振りめかして、ふんどしをたなびかせて空を飛んでいるのか。
いや、そうしているのはいい。
それはまぁ趣味の話だ。
いや、よくない。
「ちょっと待って、ちょっとまって!! 聞いてない!! 変態が飛んでくるなんて聞いてないよ!! あれを今から相手しなくちゃいけないの!!」
「落ち着いてキタカミ!! ただの変態よ!! 狼狽えることなんてなにも!!」
「オラー!! パンチラの時間だ!! 見晒せ、謎の光!!」
「「いやぁああああっ!!」」
中年セーラー服男たちの股間からまろび出すふんどし。
ぼろんと更にまろび出た中身を隠すように、謎の光が差し込む。
月の光も糞もない昼間だというのに、いい仕事をしてくれる。
すわ、ギリギリのところでこの作品のレーティングは守られた。
普通に胴着の中とかから出ているならば、なんというかそういう感じのキャラなんだなと済まされるそれ。しかし、セーラー服でドレスアップされているともうどうしようもない。
視覚的な破壊力を伴ってからくり乙女たちの瑪瑙の網膜へと焼き付く。
あぁ、どうして乙女の格好をして作られたかからくり娘。
もしもオッサンだったなら、この異常な光景にも耐えられたかもしれない――。
いや、オッサンだったとしても、まともな神経をしていたら無理かもしれない。
ちょっと狂気に脚を突っ込んでいないと受け止めることができそうにない。ウワキツ以上の何かが、そこにはあったのだった。
「きっつい!! 流石にあの集団を相手にするのはキッツイ!! というか、無理!!」
「どこから沸いて出たのよのあの変態ども!!」
「……お嬢さんたち、前ばかりに気を取られてたらいかんぞ」
瞬間、キタカミとオオイの背筋に悪寒が走る。
振り返った時には、その胴体が泣き別れ。
横に結ぶ真一文の一刀により身体を跳ね上げられたからくり娘は、まさかと目を見開いたまま海上に散る。そこに立っているのは、変態の中でもとりわけてきつく、そして、一等年老いた一機。
ピンク色のセーラー眩しい彼らのリーダー。
勝倫太郎であった。
「……馬鹿な、気配にきがつかなかっただなんて」
「……生命体反応が微弱過ぎた。くそっ、こんなのって、アリなの」
「戦にきれいもきたねえもねえだろう。アンタらが使うその兵器のように、俺も俺の特性を十分に使わせてもらった。どうだい、死にかけの爺に後ろから斬られるってのは。斬られてからそれに気づくってのは」
ぞっとするもんだろう。
煙草のやにで黄ばんだ歯を見せながら勝、彼はピンクのスカートをたなびかせて、自慢の愛刀を鞘へと戻して鯉口を鳴らすのだった。
やることはやったぜとかつての東の島国の英雄が呟く。
これは男騎士と最強のからくり娘――『クマ』。
その戦いが決着する、ほんの少し前の出来事である。




