第737話 ど男騎士さんたちと痛み分け
第四レース決着。
第三レースに続いて、壮絶な格闘戦となった本レースを制したのは、男騎士たちに先行を依頼されていた勝海舟率いる威臨社であった。
レースの順位は以下の通りである。
一位 威臨社(18時間12分)
二位 復讐屋海運(18時間46分)
三位 小野コマシスターズ(18時間51分)
四位 パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコム(18時間59分)
五位 謎の大陸商人コードX(21時間12分)
以下 省略
小野コマシスターズ及び復讐屋海運が順位を下げずに好戦した格好になる。
なお、先日と同じく、一位先行していたモッリ水軍はリタイア。
壮絶な一位叩きに、観客船からも、少なからず非難の色が籠ったブーイングが木霊した。
それは、ともかくとして。
「復讐屋水運とは、連携が取れなかったのか?」
「どうも門前払いを受けまして。なかなか癖のある女船長でしてね。こちらの女性陣を人質に出すなら考えもするがと」
「……弱ったな」
「まぁ、一隻くらい同調しない船があってもいいじゃねえか。全員でかからなけりゃ、倒せねえ相手ってほどでもねえ」
男騎士たちの呼びかけにより、小野コマシスターズ包囲網は着実に出来上がっていた。モッリ水軍の残党はもとより、北海傭兵団の残党たちも、今回の報復戦に名乗りを上げた。
リタイアからの他の船へ乗船しての参加はルール上は問題ない。
これは非常に男騎士たちにとって有利に働いた。
とはいえ、まだ、昼間の惨劇の余韻は冷めやらない。
あの大性郷が、為す術もなくあっさりと屠られたのである。
形見のくろにんにくを眺めてごちる。
大性郷、どうして死んでしまったのかと。
そして、なんでこんなものを形見に残していったのかと。
「だぞ、こんなものを持っていたなんて、意外と健康には気を使っていたんだぞ、大性郷」
「いや、これは健康というか、むしろ元気な証というか」
「ケティさん、あまり見るものじゃありません」
「黒にんにくか……」
「黒にんにくねぇ……」
「大性郷、立派な黒ニンニクだったぜ!! ちくしょう、やっぱりあんた男だ!!」
「こんな見事な黒ニンニク、なかなかできるもんじゃねぇ!!」
「森松でもむーりー!!」
黒ニンニク(意味深)を囲んで大性郷のお通夜が開かれている。
なんだかんだで、チームメンバーには愛されていた大性郷。あまりにあっけない彼の死に、そして、壮絶な死に様に静かに男騎士たちが涙した。
と、そこに――。
「おいおい、どうしたお前ら、通夜みたいな顔をして」
「大性郷の奴でも死んだか。まー、あがいないきとうやっちゃ、いつかへたこくちおもうちょうたが……って、その黒ニンニクは!?」
勝海舟及び暗殺者の登場である。
既に同盟を締結し、打倒小野コマシスターズでまとまった彼らである、男騎士たちの元に訪れるのはもはや公然としたものとなっていた。
更に。
「おう、ティト。大丈夫だったか。モーラちゃんを失って、やけっぱちにならなかったか」
「てん……謎の大陸商人X」
他の船のメンバーまで来る始末である。
思いのほか上首尾に終わった同盟作戦は、功を奏して、作戦会議も兼てこうして人が集まる格好となっていた。
そんな中、誰もが意味ありげに乗せられた、黒ニンニクを拝んでいく。
「大性郷。立派な最後だった。ここまで生き残ったのは他ならねえ、おめえさん、最後は侍として誰かを守って死にたかったんだな。男だぜ」
「性郷。あんまり関りはなかったが、お前さんの男気があの島国を変えたのは事実だ。なに、後は俺たちに任しときな。お前の幼馴染も、陸奥の野郎も、ばっちりと俺が止めてみせるからよう」
胸に手を当て誓う店主と勝。
東の島国の独立に因縁深い二人の決意。
その言葉に、ふいに黒ニンニクが夜風に揺れた。
まるで彼らの覚悟を別ったとでもいいたげ。
そんなふぐりならぬそぶりだった。
だが――。
「まぁ待てお前ら。そう悲観するな。確かにチンミチは死んだが、まだ慌てるような状態じゃない」
「……黒ニンニクが?」
「……喋った?」
「いや、死んだというのもおかしな話だ。そもそも、チンミチは死んでいたのだ。寄生した私の宿主として、微かに残った肉体の記憶を基に作り出した疑似人格。とうとう彼の身体を使い切り、こうしてちん〇だけになってしまったが、なに大丈夫、どうということはない」
喋る黒ニンニク。
その時、男騎士はある大切なことを思い出した。
そう、大性郷の股間にまつわる大切なこと。
彼が股間にモンスターを飼っているという事実を。
「ニシー!!」
「いかにも。大性郷は形見に自分の身体を渡した訳ではない。これからも、何かと役に立つだろう、俺をお前たちに渡したかったのだ」
そう、黒ニンニクこそは、大性郷の股間に寄生している寄生獣。
海綿体で出来た、伸縮時代のモンスターことニシーに他ならないのであった。




