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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第七部第六章 燃えよティト!! 復讐のG幻流!!
730/814

第730話 ど長男さんとど三女さん

 エルフリアン柔術は柔らの技。

 道場稽古の技ではない。


 関節を極めれば折る。

 首を絡めれば落とす。

 拳は止めぬ。一撃を持ってして相手を行動不能にする術である。すなわち、抑え込まれた時雨の身体は、ただそれだけでは済まなかった。


「……こぉおおっ!! エルフリアン柔術、寂の型!! まらキャン!!」


【技 まらキャン : 朝目が覚めたらもう下半身がいう事聞かなくて、「ほわわ、落ち着け落ち着くんだ。おさまれ俺の息子」という男の苦悩を体現した技。ぶっちゃけた話、抑え込んだ状態から強制的に逆関節を90度極めて人体を破壊する技である。さながらその姿はピラミッドパワー、テントのように見えることからこんなひどいネーミングをつけられているが、いたって普通に凶悪な必殺技である】


 長男の逆関節が見事に決まる。

 女だてらに足をおったてられたからくり娘の時雨。その脚はあっけなくもぎ取られて宙を舞った。

 くっと苦悶の声が漏れるや、すぐさま彼女も反撃に出る。

 長男が戒めていたのは彼女の下半身、上半身はフリーである。


 その腕がはじけたと思うや飛び出したるは鎖の束。

 それはそれぞれがそれぞれに意思を持った生物のように蠢くと、モッリ水軍長男の身体に襲い掛かる。けたたましい音と共に暴れまわったそれは、覆いかぶさる男の身体を巻き取って、時雨の身体に固定した。


 一転して、拘束する側からされる側へと変わったモッリ水軍長男。

 しかしながら、その手が休まることはない。


 その体を鎖で絡め取られているということを感じさせない躍動感で、彼は体を激しく動かすと、時雨と呼ばれるからくり娘のもう一つの脚をもぎ取った。


 さぁ、次はとその目が光る。

 いささか海賊衆の頭領としての知性が霧散したように見える、見事なまでな狂態ぶりに、敵方はもちろん兄弟さえも戦慄する。ただ一人、その凶手にかかっている時雨だけが、冷徹にその腕の踊る先を眺めていた。


 脚の次は腕か。

 その手が鎖の伸びている右腕に向かう。海賊衆の男にふさわしい野太い指先が木製の腕を握りしめたその時。


 モッリ水軍長男の額に深い溝が刻まれた。


「気づいたか」


 時雨の声。

 その声色と共に、モッリ水軍長男の腕に伝わったのは、ゼンマイ仕掛けの何かが激しく回る音。尋常のそれではない。

 押さえつけている彼女の身体の中でいったい何が蠢いているというのか。


 まずいと思って身を離そうとするが、時雨が放った鉄の鎖は強く彼の身体を拘束している。麻縄ならばともかく、斬って抜けることもできないそれは、身じろぎをしても冷たい音を立てるだけである。


 誘いこんだと思われて、誘い込まれたのは自分だったか。

 諦観と共にモッリ水軍頭領が瞼を閉じた次の瞬間――。


 からくり娘――時雨の体が橙色の炎を上げて爆発四散した。


「ヒデ兄!!」


「そんな――自爆だと!! 急げ、頭領をお助けしろ!!」


 白日の船上に燻る漁火。

 すぐさま、モッリ水軍の副頭領、次男と三男が頭領を助けるべく動き出す。あわや騒然となる船上の中、ふと、煙の中から影が現れた。


 そのシルエットに、海賊衆は見覚えがない。


 しかたあるまい。

 彼らがその男の船を襲った時彼は他なる敵と戦っていたのだから。


 腕に抱くのはモッリ水軍頭領。炎の中から現れたその騎士は――海賊衆と変わらない褌一丁の姿であった。

 褌の間には怪しき洋剣。


 そう彼の名は――。


「パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコム。頭領ティト。故あって、モッリ水軍に助太刀する」


「パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコム!?」


「そんな、どうして俺たちに」


「詳しく話すのは後にしよう。当座、我々が相手にしなくてはいけないのは、からくり娘たち――さぁ、参ろうぞ」


 腕の中のモッリ水軍頭領を、兄弟たちの前に投げ出すと剣を構える男騎士。

 いつの間にやらぞろぞろと集まって来たからくり娘たちを前にして彼は、体全体から気合を発すると大上段に剣を構えた。


 そう、それなるは、彼が新たに会得した必殺の技――。


「チン〇ォオォオオオオ!!!!」


「「!???!???!」」


 大性郷直伝、G幻流初太刀であった。


 ずんばらりと一刀両断、唐竹割りにされていくからくり娘たち。

 脳天から半分に割られた彼女たちは絶命して船上に果てる。


 爆炎の中、モッリ水軍長男を縛めていたからくり娘の鎖を断ち切った妖刀。その刃が今青天の下に煌めく。


 さぁと意気込む男騎士の顔からは、昨夜の気の抜けた表情は微塵もなかった。

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