第729話 ど男騎士さんたちと運命の第四レース
GTRあーまーみー諸島第四レース。
大海を進む大レースは、ここに来て大波乱に大波乱を重ねる状況となっていた。
それまでのレース結果から大きく順位を入れ替えての第三レースの決着。そこに来て、突入したのは環礁島が群居する水域。水底深き大海の只中に、ぽつねんと現れる火山性の環礁は、大いに運航を制限した。
そして、海上移動を容易にした。
結果起こったのが――。
「ちっ!! なんだこいつら!! 斬っても斬っても、身体を繋げ直して立ち上がってきやがる!! キリがねえ!!」
「銃弾もろくに効かない。大筒でも持ってこいというのか、くそっ――!!」
一位モッリ水軍。
大差とは言えない状況でスタートしたセットウチの海賊衆は、すぐにこのレースに潜んでいた政府の手の者たちに捕捉された。
襲い来るは小野コマシスターズ。
昨日、パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムに襲来したのと同じ要領で、彼女たちはモッリ三兄弟の船を強襲した。
からくり娘たちに通常の攻撃は効かない。
人外の動きでもって、モッリ水軍の歴戦の兵たちを翻弄し、船上に死屍累々と敗者の屍を築いていく小野コマシスターズ。耐えかねて、モッリ水軍は次男のハルが、近くのからくり娘に飛び込んだその瞬間、晴天に幾条もの影が走った。
蒼天から舞い降りたのは飛翔兵器。
最初の七人の原器である『ホウショウ』が操る兵器である。彼女の現身である、『赤城』『加賀』にも受け継がれたそれらは、ハルの死角に潜り込むようにして下降すると、そのまま彼に向かって体当たりを仕掛けた。
海鳥より少し大きいくらいのそれらが一斉に襲い掛かる。
殺傷能力はいかほどか、しかしながら、ここに来ての一番の攻撃である。まともに喰らえばひとたまりもないことになるのはモッリ水軍次男坊にも分かる。
三男が叫んだ次の瞬間、飛翔兵器は紅色の炎と共に爆散した。
あわや、命はないかと思われた爆炎の中――。
「まったくハル。いつもそうやってここ一番で周りが見えなくなるのはお前の悪い癖だよ。もうちょっと落ち着いていこう」
現れたのはモッリ水軍の頭領にして長男。
柔よく剛を制すを地で行く男。エルフリアン柔術ピンク帯ことヒデであった。
彼はエルフキング直伝――ではない通信教育による柔らの技を使い、襲い来る飛翔兵器をすべてすんでのところで捌いてみせたのだった。その手並みは実に鮮やかとしかいいようがない。ここぞという場面で、冷静さを失わずに戦うことができるのは、猛将とはまた別の稀有な才気であった。
もっとも――。
「うっせえ馬鹿兄貴!! なに大将がのこのこと前線に出てきてやがるんだ!!」
「ヒデ兄。落ち着くのは貴方ですよ。貴方がいなくなったら、モッリ水軍が瓦解するということをちゃんと把握しているのですか。もう少し、自分の行動に責任を持ってください」
「……うぅん、弟たちが辛辣で、お兄ちゃん辛い」
兄の心、弟知らずである。
せっかく命を助けたというのにこの言われよう。
ちょっと気落ちした感じに肩を落としながら、それでもモッリ水軍頭領ヒデはエルフリアン柔術の構えをとった。
相対するのは小野コマシスターズのリーダー機の一角――『時雨』。
血肉滴る鎖鎌をじゃらりと鳴らして振りまくと、彼女は相対するモッリ水軍頭領を感情のない瞳で睨み据えた。
所詮兵器である。
とはいえ、何か彼女たちに言葉にしにくい感情めいたものがあるのもまた事実。それを窺いながらの対峙となった。
「ふむ。なかなか、やるではありませんか。モッリ水軍頭領は無能と聞いていましたが、どうやら一筋縄ではいかない相手のようですね」
「無能かぁ。まぁ、そこについては否定しないよ。けどね、無能は無能なりに、使いどころがあるものでね」
「……ほう」
「僕くらいにボンクラだと、周りが勝手に油断してくれるんだよ。信頼とも言えるかね。この男には、愚直にやることしかできないって勝手に思って気を許す――」
だから懐に入りやすい。
その言葉通りに、モッリ水軍頭領ヒデは、時雨の下腹に潜り込んでいた。
会話途中から、目にもつかない速さでの攻撃。
驚く間もなく組みつかれたからくり娘は、そのままモッリ水軍海賊船の船底に、背中から叩きつけられるのだった。
「……こんな、感じにね!!」




