第725話 ど男騎士さんとGGの侍
「おい!! お前ら!! そこの爺二人!! ちょっと空気を読めよ!! こっちは持ち主が、運命の悪戯に翻弄されて打ちひしがれているんだぞ!!」
「……あん?」
「……面妖な。喋る魔剣とはこれやいかに」
むくつけき劇画調の顔が二つ男騎士たちの方を向く。
あきらかに出る作品を間違えているくせに、どこかおなじ匂いを彷彿とさせる爺二人は、はっと何かに気が付いた顔をした。
わなわなと手を振るわせて男騎士の方に近づいてくる爺たち。
船を下りたと思うやその足は速い。
鬼気迫る勢いで男騎士の方に駆け寄って来たのはむくつけき侍だ。
白髪になってもしっかりと髷を結っているそいつは、うぉおぉという叫び声と共に男騎士につかみかかる。
そして彼の腰にぶら下がっている、魔剣をひょいと奪いさった。
茫然自失の男騎士である。
普段ならば、このような状態であっても、無意識に裏拳を繰り出して顎を砕いて伊達にするであろう所を、咄嗟の一撃が出てこなかった。それくらいに、男騎士の精神状態は危ういところにあったのだ。
「あぁっ!! ちょっと待て、俺様をどうするつもりだこの野郎!!」
「えぇい、棒の方には用はないわ!!」
「そうでおじゃる!!」
ひょいと竿から抜かれる魔剣エロス。
神造の魔剣エルフソードを基にしている彼は、剣の大敵である潮風はもとより、海水に触れてもどうということはない。
どうということはないが、いきなり海に放り出されれば、驚きもする。
なんだこりゃいったいと混乱するその面前で――。
おもむろに爺二人、腰のひもを緩めてズボンをおろすと、ぼろりと逞しいそれをまろび出した。
そう、ちん〇をまろび出したのだ。
なんという事だろう。
老境も老境。
もはや、人間としての生殖本能も、雄としての闘争本能も消え果ていておかしくないだろうという風体の彼らだが、その股間から伸びる剛直は若人のそれ。
まるで新品未使用品の如き、鮮やかな色味をして月下に映えている。
ますます分からなくなる魔剣エロス。
しかしながら、なんとなくやろうとしていることは分かる。
「おっ、お前ら、やめろ、やめろよ!! ちょっと待て、それは俺の大切な!!」
「うぉおおおおっ!! 穴、アナ、女子の穴!!」
「待つでおじゃるモロトモ!! そのまま入れては我らのデリケート凸《ぽこ〇ん》にダメージが入るでおじゃる!! ここはこれ、しっかりと温めた葛湯を入れて!!」
「ぬぅっ、用意がいいなマシュマロ!!」
「当たり前であろう。あのやうな絶海の孤島に封印されて幾星霜。神々の支配乱れし刻を待ち、ついについに脱出が叶ったのじゃからな」
さぁ、つつついと、と、人肌に温められた葛湯がエロスの鞘に注がれる。
むわりと立ち昇る湯気。それをうけて、ぴくんぴくんと蠢く剛直。
これはなんと分かりやすい。
「いざ、参る!!」
「モロトモよ、中で出すでないぞよ!! 次は麿でおじゃる!!」
「や、やめろお前ら!! それは俺の大切な鞘だ!! それをそんな風につかうんじゃねー!! オ〇ホールみたいに使うんじゃ――」
やめてくれー。
魔剣、魂の叫びが波間に響くかと思ったその時だ。
「へぴっ」
「あけぇっ」
二人のGG――爺の脳天がぱかりと割れた。
闇の中から降り注いだ、それは巨大な櫂による一撃。
上段唐竹割りに、更に櫂の重みを加えて繰り出されたそれは、容易くエロ猿の如き男どもを肉塊へと変えてみせたのだった。
なんだ。
刺客か。
暴漢か。
それとも今更神々の使者か。
二人の埒外漢を屠った櫂が再び天に向かって直立する。崩れ落ちたGGたちの亡骸の向こうから現れたのは――巨大な二振りの剛直を持つ男。
ずっしりとした巨躯に刈り上げられた坊主頭、鋼の意思を思わせる眼に、眉間に皴を寄せた大偉人であった。
「……性郷!?」
「……性郷どん?」
「すもさん、GGども。斬り捨て御免――御面チェストにごわす」
そう、彼の名は性郷隆盛。
男騎士たちの船に偶然乗り込んだかつての東の島国の要人。そして、擦摩に伝わる古流剣術――G幻流剣法の使い手であった。
「ティトどん!! 腑抜けている場合ではありもさん!! この大性郷、お主のそのような姿を見ておられぬ!! ひとつ、男の魂を注入してみせもそう!!」
男大性郷、不器用な男。
そう、擦摩隼人は剣で語る。
武で語る。
背中で語る。
ついでに股間で語る。
GG達とは違い、普通に服を着ていても、ぶらりたなびく大ふぐりをゆらして構えると、大性郷は抜き差しならない剣気を男騎士へと向けるのだった。
「極めきらぬ身の上なれど、一つご指南いたそう。G幻流の必殺の一刀」
チェスト。
その言葉と共に、男騎士のこめかみを、櫂の先が走った――。




