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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第七部第五章 からくり艦隊これくしょん
720/814

第720話 ど男騎士さんと第三レース決着

「さぁ、第三レース、なんとなんと予想外なことになりました。まさか、一位で出発したはずのパイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコム。大きく順位を落としての四位。着順は大きく入れ替わって、ご覧の通りとなりました」


 観覧船の上に掲示された着順。

 そこに書かれている順位は、つい一日前のリザルトと大きく異なるものだった。


 一位 モッリ水軍(12時間33分)

 二位 復讐屋アベンジャー海運(12時間46分)

 三位 小野コマシスターズ(13時間12分)

 四位 パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコム(13時間54分)

 五位 威臨社(13時間59分)

 六位 謎の大陸商人コードX(18時間2分)

 以下 省略


「まさかまさかの大躍進。この第三レースで、大きく動いてみせたのはモッリ水軍と復讐屋アベンジャー海運。両者ともに、実力派ではありますが、ここまでどこか動きがしぶかったのは、この中盤の追い上げを意図してのことか。なんにしても、俄然レースは面白くなってきました」


 そう。

 男騎士たちが海上で戦いを繰り広げるのをしり目に、戦闘や妨害行動の一切を放棄して、レースに集中したモッリ水軍と復讐屋アベンジャー海運。この二組が、あろうことか怒涛の追い上げを見せて、順位を大きくひっくり返したのだ。


 解説が言った通り、レース中盤での逆転を、彼らは虎視眈々と狙っていたと見て問題ないだろう。


 実際、小野コマシスターズはもとより、男騎士たちパイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムは戦闘により疲弊している。そこを突いて、攻撃をしかけて潰してしまうこともできただろうに、彼らはレースの方を優先した。


 完全に虚を突かれたという奴である。

 男騎士、そして、法王ポープたちが苦渋に顔をしかめる。

 すまないと謝ったのは、前後不覚、完全に取り乱して戦略を見誤ってしまった、パイオーツ・マルミエヤン・ドットコムのリーダー、男騎士であった。


 彼は首を垂れて仲間たちに許しを請う。

 だが、その行動に対して、返事ができる者は誰もいなかった。


 なぜならば――。


「なお、パイ〇ーツ・マルミエヤン・ドットコムの船員、女エルフのモーラ氏については、その安否が分かっておりません。後続の艦隊もその姿を確認しておらず、これは行方不明が濃厚かと思われます」


 女エルフを救出することができなかったからだ。


 男騎士のうつむいた表情、そこには、かつてない絶望がこびりついていた。

 愛する者を失う悲しみに、今まさに暮れている彼に、いったいどんな言葉をかけることができるだろうか。それを殺して、自分の至らなさを詫びる律儀な男に、いったいこれ以上どんな言葉をかけて慰めればいいだろうか。


 男騎士パーティの一転してのランキング失速の原因はここにあった。

 からくり艦隊これくしょんこと小野コマシスターズを撃退して、いくらでも巻き返す余地はあったにも関わらず、彼らがずるずると四位という順位に後退したのは、その精神的支柱である男騎士と、それを支える女エルフの喪失だ。


 彼の判断の鈍りがそのまま、船を失速するに至らしめた。


 けれどもやはり、何も言えない。

 男騎士も悲しいが、同じくらいに仲間たちは、女エルフの喪失を悲しんでいた。


「……だぞぉ、だぞぉ。コーネリアに続いて、モーラまでいなくなっちゃったんだぞぉ」


「モーラさん。どうして、あんなあっけなく。貴方らしくないですよ」


「お、お姉さま。どうしてですか。あんなに、レース開始の時には元気にしていらっしゃったのに。あんな、あんな一瞬の出来事で」


 あっけなさすぎる女エルフの死。

 いや、死んだかどうかは、彼女の死体が上がっていないのだ、まだ分からない。


 だが、四方を見渡しても、漂着するような島など見当たらない大海原。

 こんな場所で、海に落ちれば、たちまち波濤の中に命は消える。


 そんなことは、わざわざ考えるまでもないことだった。


 よもや、出発前に店主が渡した【セイレーンの泪】。その加護などまるでなかった。いっそフラグと言ってもいいだろう。


 女エルフは死んだ。

 もう、いないのだ。


 セイレーンの泪の代わりに、甲板に男騎士の泪が落ちる。

 夕闇に朱色を帯びたその冷たい滾りは、しとどに彼の足元を濡らした。


「……おい、ティト、泣くんじゃねぇ!! 死んだと決まった訳じゃねえ!!」


「……けど、エロス!! 俺は、俺はまた、大切な人を守れなくて!!」


「……くっ、この馬鹿野郎!!」


 こんな時に、男騎士を励ますのが魔剣エロスである。

 しかしながら同じように、かつて愛しき相手を失った男には、痛いほどに持ち主の心が分かった。手に取るように、その喪失の痛みが感じられた。


 埋めることができない心の虚。


 もはや、男騎士たちに、できることは何もなかった。

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