第701話 ど女エルフさんとST〇RM
「どういうこと!! いや、助けが来てくれたのは素直に嬉しいけれども!! 嬉しいけれどもこの展開はどういうこと!!」
「だぞ!! イケメンがいっぱいなんだぞ!!」
「アレは東の島国の海賊系アイドルグループST〇RM。今や、東の島国を代表するようなアイドルユニットの彼らが、どうしてこんなところに」
船の縁から顔を出して、タグボートの男たちを確認する女エルフたち。
まったく予想もしていなかった助っ人。
縁はあるにはあるけれど、どうしてそこまでしてくれるのかが分からない。
そもそも今の今までそんな情報など、少しも入って来なかった。
突然の助太刀。
モノの道理というか、今に至るまでの経緯がさっぱりと分からない女エルフたちは、揃いも揃って混乱した。
しかし、そんな中で冷静な影が一つ――。
「ふふっ、どうやら間に合ったようですね」
「……リーケット!!」
そう、この手の謀略は男騎士パーティの中に置いて右に出るものはいない。
この世界の宗教勢力。
その頂点に立つ女。
法王である。
イケメンたちの口から出たT〇SHI〇の助太刀についても、かつて彼女が交渉を担当した。同じように、今回のST〇RMも彼女が動いたのだ。
彼女の権謀術数と頭のキレに関しては、これまでの旅路でよく把握している。
女エルフはすぐにことの次第を察した。
察した上で――。
「どうすんのよ!! これ!!」
ピンチを打開するチャンスだというのに、その策にケチをつけた。
いや、ここですんなりと受け入れてしまっては、いろいろとまずかった。
確かに助力は嬉しいが、それにしたってそれを受けてしまうと、肖像権とかそういうのが非常にやっかいなことになりそうで躊躇われた。
それでなくても。
「嵐ですよ嵐。こんな悪天候の中にも関わらず、駆け付けてくれるなんて、ベイビーフェイスの癖して熱い人たちですね。流石です、ST〇RM」
「名詞の使い方がちょいちょい危うい!! 一般名詞で現象としてのそれと、固有名詞としてのそれをもうちょっと切り分けて使ってお願い!!」
「なにを言っているんですか。こんなに嵐だというのに。すごいじゃないですか」
「だから言い方!!」
いろんな所に迷惑がかかる一般名詞と固有名詞が混在して織りなすひやひや感。
隠せているのに隠せていないのは、この作品のご愛敬だが、このシチュエーションで彼らが現れるのは非常にまずかった。
どうしてそんなアイドルグループ名にしたのか。
ファーストシングルのせいなのか。
それとも、その名の通り、業界に旋風を巻き起こして欲しかったのか。
ファンでない筆者には分からない。(ぉぃ)
けれども、まさか嵐の中でパロったキャラが出てくると、こんなにデリケートな扱いをしなくちゃいけなくなるだなんてどうして誰が思っただろうか。
「出さなきゃいいだけの話じゃない!!」
天に向かってキレる女エルフ。
そんなメタい台詞を言っても、嵐はやまないし、彼らも止まらない。
あ、なんか旨い事言えた感じがありますね。(錯乱)
「とにかく、ここは俺たちに任せてください!!」
「海賊アイドルの名に懸けて!! 絶対に負けませんから!!」
「こっちも五人、あっちも五人。勝負は五分五分」
「いっちょやってやりますか」
「……行くぜ!!」
「行かないで!! お願いだからヤバいもんにヤバいもんをぶつけて相殺するような、そういう感じの展開はやめて!!」
「なんだか今回の章に入ってから、展開の荒さに拍車がかかって来たというか、ヤバさに拍車がかかって来たといいますか」
そのヤバさを導いたのはお前だろうが。
何をのんきなことを言っているのかと、鬼の形相を法王に向ける女エルフ。
そんな彼女の背中で、五人のイケメンアイドルを向けた手漕ぎ船は、嵐の中をあり得ないスピードで疾駆し始めたのだった。
流石に海賊系アイドルを名乗るだけはある。
その操船能力は折り紙付きだ。
すぐさまなんか羊だかヤギだか、有蹄類っぽいシルエットの船首を持った船に乗り込んだ五人組は、同じく海賊五人組とどったんばったん大騒ぎ。
最後は見事、一人一殺の精神でし遂げると、サムズアップで嵐の海へと消えた。
そう。
彼らは犠牲になったのだ――。
話の都合の――。
「……すがすがしい、本当に夏の嵐のような奴らでした」
「だぞ」
「嵐みたいな人たちでしたね」
「……だから、紛らわしい言い方するのやめてお願いだから」




