第38話 どエルフさんと隠し通路
「ようやく着いた。ここが【子息たちの部屋】か」
「地図にあったようになんにもない場所ね」
廃墟の宮殿を踏破し、ようやく地図にあった目的の場所へとたどり着いた男戦士一行。
たどり着いたそこは、女エルフの言葉にある通り、何もない行き止まり。
部屋と言われるのもしっくりこない、だだっぴろい空間であった。
ふんふん、と、鼻と耳と尻尾を揺らして、あたりを観察するワンコ教授。
なにかありそうか、と、男戦士が尋ねると、むむむ、と、彼女は難しい顔をした。
「何かあるかと言われれば、ありそう。ただ、何かまでは分からないぞ」
「教授でも分からないことはあるんですね」
というよりも、犬でもという感じだが。
くんくん、と、鼻を鳴らしてあたりを嗅ぎまわるワンコ教授をしり目に、戦士一行はふぅとため息を吐いたのだった。
「しかし、本当に部屋という感じではないな」
「廊下の行き止まりって感じよね」
「ですね――おや?」
何かに気付いた女修道士。彼女の視線は部屋の行き止まり、彼らが立っている部屋の入り口の正面、その壁に向けられていた。
なんでしょうか、と、女修道士がそこに近づいてかがむ。
石を敷き詰め、その隙間にコンクリートを流し込んだ、よくある感じの床。
しかし、そのコンクリートの一部、色が変わっているのに彼女は気が付いたのだ。
「これ、なんで色が変わっているんでしょう」
「日が照ってる訳でもないし。単純に、後から補修したとかかしら」
「床をですか? どうして下に何もないはずの床が、補修しなくてはいけない状態になるんでしょう」
いつの間にかワンコ教授も合流してそこに視線を注いでいた。
沈黙の中、まず口火を切ったのは、女修道士であった。
「あくまで教会の例ですが、こういう風に床の色味が違っているところには、たいてい抜け道があるんです」
「抜け道?」
「戦火に巻き込まれた時に脱出するためのものです。もしかして、ここもそうなのではと、ふと思ったのですが」
なるほど、あり得るかもしれない、と、男戦士。
彼は背中に背負っていたナップザックを下すと、その中から短刀を取り出した。
それをコンクリート部へと差し込んで、少しずつ少しずつ、彼はそれを掘り出していく。
ある程度、そのコンクリートを掘り出した時だ。
ごとりと音を立てて、男戦士の前に広がっていた床が抜け、目の前にだだっ広い穴が現れた。
湿った風が女エルフの髪をくすぐる。
「これは、本当にコーネリアの言う通りかもしれないわね」
「なんでもない部屋と見せかけて、抜け道だったとは」
「けど、妙ではないか? この都がなんらかの原因で滅んだのであれば、ここは使われているべきだろう?」
何気なくそんな疑問を放り込んだのは男戦士だった。
たしかに、と、その場の人間が黙り込む。
あるいはこれを使うまでもなく滅びたということも考えられるが。
「思うに、この空洞は、抜け道ではなく、何か別の目的があって作られたものではないか」
「というと?」
「おそらく、この場所につけられた名前はその隠喩なんだ。子息たちの部屋。つまり、自分の子供のために用意された部屋ということ――」
ごくり、と、女エルフが息をのむ。
それを見届けて、男戦士は真剣な眼差しで口を開いた。
「つまりここは《《息子と遊ぶためのアイテム》》を収納した場所。《《エロ魔導書の倉庫》》だったんだよ!!」
「「なっ、なんだってぇー!!」」
「って、んなわけ、あるか!! このバカちん!!」
べしり、と、男戦士の頭をたたく女エルフ。その時だ。
「ブモォオオオオオっ!! ブモ、ブルフゥウウウウッ!!」
ほの暗い洞穴の奥から、謎の雄たけびが響いてきたのは――。




