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どエルフさん  作者: kattern@GCN文庫さまより5/20新刊発売
第一部第三章 獣人娘と砂漠の遺跡
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第37話 どエルフさんとタンス

「ティト。ここほら、タンスがあるわよ」

「でかしたモーラさん」


 遺跡の中、埃と砂塵にまみれた木製のタンスを前にして、エルフが声を弾ませた。


 魔法遺物はこういう、タンスの中だとかに眠っていることが多い。

 廃墟を進みつつも、今までこれといった発見に恵まれなかった男戦士パーティは、そのはじめての成果ににわかに色めきだった。


 もちろん、その中に、魔法遺物が入っているかは、開けてみないと分からないのだが。


「ケティ、開けてみても構わないか?」

「任せるが、扱いには気を付けるんだぞ。それも重要な遺跡の出土品だから」


 わかった、と、男戦士。


 両開きになっているタンスの棚。

 その扉を、彼はおそるおそると手前へと引いた。


 積もっていた埃を静かに落としてタンスが開く。

 中に入っていたのは、色褪せずに良好な状態を保っている女性用の服であった。


 夜会用だろうか、黒い絹のレース地のそれは、胸元がばっさりとはだけていて、着用者もいないのにどきりとした気分になる。


「わぁ、素敵なドレス」

「これは年代モノだぞ。ここまで保存状態のよいドレス、なかなか出てこない。当時の富裕層の知るうえで重要な資料だ」

「じゃあこれはケティの取り分だな」


 あっさりと、それをワンコ教授に譲ったティト。

 隣に立っていたエルフ娘にそれを渡すと、次に、両開きの戸の下にある引き出しに手をかけた。


 するり、と、まるで抵抗なく手前へとスライドするそれ。


「ほう、こちらは宝飾品か」

「ちょっと、すごい、なにこれ!! もうこれを売り払うだけでそこそこのお金になるじゃない!!」

「聖者の伝説になぞらった意匠のものもありますね。聖遺物としての価値もありそうです」


 では、これもワンコ教授の取り分だな、と、男戦士。

 当然これには女エルフから疑問の声があがった。


「モーラさん。俺たちに必要なのは魔法遺物だ。宝飾品なんて手に入れても仕方ないだろう」

「それはそうだけれど」


 冷静に考えれば、このような宝飾品がいくつあっても、魔法遺物一つにその価値は遠く及ばない。

 魔法の施された剣やロッド、ローブといったものは、それこそ普通に市場には出回らないものばかりだ。

 こんなものに構っている場合ではないのだ。


「けど、一つくらいもらってもいいじゃないの。ねぇ、コーネリア」

「人間の価値は身に着けている衣服で決まらないのですよモーラさん」

「コーネリアまで。いいわよ、分かったわよ」


 つまらなさそうな顔をする女エルフ。

 達観している女修道士と違って、彼女は衣服にも宝飾にも、女として未練があるらしかった。

 少し申し訳なさそうに顔を曇らせる男戦士。

 続いて、彼はもう一つ下――いちばん下にある引き出しを引いた。


 ことり、と、ほぼほぼ何も入っていないその引き出しの中に、転がった丸い棒。

 それは明らかに、その――ほどよい太さと丸みを帯びた、ありがたい形状のものだった。


 これは、と、男戦士、女エルフ、女修道士の間に沈黙が走る。


「おぉ、それは魔法遺物、【暴れん棒】だぞ!! 古代文明で流行した装飾品だぞ!!」


 一人、これがどういう用途のものか、分かっていないワンコ教授が声をあげる。


【魔法アイテム「暴れん棒」:魔力を供給することにより激しく暴れるおもちゃ。身に着けると、集中力-1の代わりに高揚状態なる】


「ど、どこに装備するっていうんだ」

「お、男の人はどうやって装備するんでしょうか」

「そ、そもそもあのサイズだと装備できる人が限られるんじゃ」


 みんな、どうしたんだ、と、首をかしげるワンコ教授。

 彼女の視線から目をそらしつつ、男戦士はそっとそれを手に取った。


「まぁ、うん、約束の通りマジックアイテムだ、これは、俺たちの取り分で問題ないな」

「構わないぞ。結構それはほかの遺跡からも発見されてるから、価値は低いんだ」


「ちょっとティト!! なに言ってるのよ、そんなのこそいらないでしょう!!」


 洋服に宝飾品と、気になっていたものをすべて、ワンコ教授に譲られた上、こんなものをもらったことが腑に落ちない女エルフは声を荒げた。


 しかし。

 なぜだか、男戦士はやさしく彼女に微笑み返すと、手にしているそれを、隣に立つエルフ娘へと向けたのだった。


「分かっているさモーラさん。君の気持くらい」

「ティト?」


「装備したいんだろう。さっきから、ものほしそうな眼をして。貴族の装飾品だものな、気になるのはしかたないさ」

「いや、そうだけど、そうなんだけれど」


 それじゃないのよ、と、女エルフ。

 目の前に出されたそれをまじまじと見つめてしまった彼女は、顔を真っ赤にして目を背けると、うわぁあぁ、と、うめき声をあげてその場にうずくまったのだった。

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