第18話 増員
「さて、作戦まであと10分を切ったな・・・」
僕達は咲の家族と一緒に早めの昼食を済ませ、リビングでくつろいでいると、誠治が腕時計で時間を確認して席を立った。
「どうかしましたか?」
「ヘリが来るのを確認しに行くんだよ。貴宏君も来るかい?」
「行きたいです!お父さん、僕も行ってきて良い?」
「わたしも行きたい!」
僕が父に確認すると、咲が目を輝かせてねだった。
「そうだな、こんな機会はそう無いだろうし皆んなで行ってみるか・・・」
「そうですね、自分も興味ありますし、咲もああ言ってますし行きましょうか!」
父達も少し浮ついた感じで席を立つ。
「まぁ、見たらテンション上がりますよ!滅茶苦茶五月蝿いですけどね・・・」
誠治は僕達に頷き、玄関に向かう。
「おじちゃん、抱っこして!」
咲は外に出るなり誠治に駆け寄ると、両手を広げて彼に言った。
「おじちゃんで良いのかい?」
「おじちゃん大きいから、お空が近くなる!」
誠治がしゃがみ咲に問い掛けると、咲は笑顔で答えた。
「そうか、じゃあ肩車をしてあげよう!」
誠治は咲の頭を優しく撫でると、抱き上げて肩に座らせた。
咲が笑いながら嬉しそうにしているのを見て、僕はちょっと羨ましかった。
「娘が我が儘を言ってすみません・・・」
「大丈夫ですよ、子供に我が儘を言って貰えるのは嬉しいですからね!うちの子供達は上の娘が貴宏君と同じくらいなんですが、あまり我が儘を言う子じゃないですし、下の子達はまだ産まれたばかりなので我が儘を言う歳じゃありませんから、こういうのは正直嬉しいですよ!」
申し訳なさそうに頭を下げて謝る咲の両親に、誠治は嬉しそうな表情で答える。
「お前も肩車してやろうか?」
僕が咲達を見ていると、背後から父が話し掛けてきた。
父は少しニヤケている。
「別に良いよ、からかわないでよお父さん!」
僕は恥ずかしくなり、顔を赤くして断ると、父は笑いながら僕の頭を撫でた。
「じゃあ、公園に行きましょうか。あそこなら周りに建物も無いですし、よく見えると思いますよ!」
誠治はそう言うと、咲を肩車したまま歩き出した。
咲は誠治の肩の上ではしゃぎ、咲の両親は娘が落ちないか心配そうにしながら後をついて行く。
「おっ、丁度来たみたいですね・・・相変わらず時間通りだ」
僕達が公園に着くのとほぼ同時に、遠くから音が聞こえてきた。
その音のする方向を見ると、豆粒大の物3つ空を飛んでいる。
それらはバタバタと音を立てながら近づき、あっと言う間に僕達の上を通り過ぎた。
「おお!カッコイイですね!?」
「こんな低空で飛ぶのは初めて見たが、かなり五月蝿いな!」
父達は上空で旋回するヘリを見ている。
咲は耳を塞いでいるが、その表情はとても楽しそうだ。
「ヒューイもいるじゃないか・・・直前に作戦変更でもあったのか?」
テンションの上がっている僕達とは裏腹に、誠治は怪訝そうにしている。
それと同時に、いかにも攻撃ヘリに見える2機に付いていたスピーカーから大音量で音楽が流れ出した。
吹奏楽だろうか、軽快なイントロが聞こえてくる。
「軍艦マーチか、いかにもって感じだな・・・」
父は苦笑しながら呟く。
スピーカーから音楽が流れ出すと、残りの1機が僕達の頭上に戻って来た。
「皆んな、着陸するみたいだから離れましょう・・・」
誠治に促され、僕達はヘリの邪魔にならない位置まで下がって待った。
ヘリの降下と共に、ローターが空を切る音と凄まじい風が巻き起こる。
ゆっくりと着陸したヘリの扉が開き、中から3人の隊員が降りてくる。
男性2人と女性が1人だ。
男性隊員の1人は、身長が誠治と同じくらいの大柄な人でもう1人は普通くらいの身長だ。
女性隊員は比較的小柄で、可愛い印象を受ける人だ。
大柄な隊員が荷物を降ろしてヘリに指示を出すと、ヘリはそのまま離陸し、飛び去って行った。
「作戦変更は聞いてなかったが?」
ヘリが離陸するのを待って、咲を肩から降ろした誠治が隊員達に近づいて問い掛ける。
大柄な隊員は誠治の方を振り返ると、にこやかに笑った。
「来ちゃった!」
「来ちゃった!じゃねーよ!?厳つい男のテヘペロなんて気色悪いわ!!」
誠治を見た隊員が舌を出して笑うと、誠治が怒鳴りながらその隊員を小突いた。
他の隊員は、そのやりとりを呆れたように見ている。
「いやぁ、サプライズですよサプライズ!まぁ酒井ニ佐に頼まれて急に決まったってのもありますけど、何より住民の方々を救助するまでの護衛が、井沢さん1人だけだと大変ですからね!それに、皆さんとも打ち合わせをしないといけませんからね!」
「櫻木さん、そうならそうと前以て連絡してくださいよ・・・何かあったのかと思って心配したじゃないですか!」
誠治はため息をついて呆れたように櫻木に言った。
「井沢さん、お久しぶりです。噂は聞いていますが、お元気そうで何よりです」
誠治と櫻木のやりとりを見ていた女性隊員が、誠治に近づき笑顔で頭を下げた。
「玉置さん久しぶりだね!それにしても相変わらず小さいね・・・もしかして縮んだ?ちゃんと栄養摂ってる?」
「縮んでません。井沢さんと櫻木一尉が大き過ぎるんですよ・・・あと、今のハラスメント発言は美希さんに報告します」
玉置はジト目で誠治を睨む。
「ひいっ!待って玉置さん!?それは勘弁して!また口をきいてくれなくなるから!!」
「まったく・・・久しぶりに会ったのに酷いじゃないですか!私だって身長が小さいの気にしてるんですよ!?」
誠治は玉置に謝り、シュンとしている。
「まぁまぁ、その位にしてあげましょうよ玉置ニ尉・・・。井沢さん、お久しぶりと言うほどでは無いですが元気でしたか?」
もう1人の男性隊員が玉置を宥め、誠治に挨拶をした。
身長は平均的で痩せ型の、親しみやす印象の男性だ。
「ありがとう・・・助かったよ永野さん!」
「相変わらず言わなくて良い事を言ってしまうみたいで安心しましたよ」
誠治は永野に言われて申し訳なさそうに赤面した。
「井沢、その方達はお前の知り合いの隊員なのか?」
見かねた父が誠治に問い掛ける。
「あ・・・紹介しないとですね!身長の高い人が櫻木一尉、もう1人の男性隊員が永野ニ尉、女性隊員が玉置ニ尉です。櫻木さんと永野さんとは、よく一緒に仕事をするんですよ!」
「初めまして、陸上自衛隊の櫻木です。井沢さんには、四国に避難してこられた時に大変お世話になりました・・・。今回我々は、皆さんの救助をするまでの間、ここを守るために来ました」
櫻木は父に敬礼をすると、手を差し出した。
父はその手を握り、握手をする。
「初めまして、私は杉田と申します。井沢君は大学時代の後輩で、今回救助に来たのが彼で驚きましたよ・・・。こんな場所ではなんですので、良かったら私の家に来てください」
父は3人とそれぞれ握手をし、彼等を家に案内した。




