手合わせの後に
手合わせを終えたシエラは「ありがとうトールス兄ちゃん、また手合わせしてね」とトールスに礼を述べ、頭を下げると疲れた様子でトールスから離れた。
まだ交流会は終わらない。
再びトールスの周りに生徒達の壁が出来上がっていく。
その壁に背を向け、何処か休憩出来る場所に座ろうと歩き出した。
そのシエラの前に一人の生徒が立った。
シエラの前にトールスと立合ったリント少年だった。
そのリントの表情は何か苦いものでも噛んだかの様に歪んでいる。
「何?」
何も言わずに立ち塞がるリントにシエラは首を傾げて聞く。
「失礼、私は――」
「リントでしょ? 聞いてた」
「そう。リント・ツー・アルストル。
まずは先の剣聖様との立合いお見事でした」
「ん。ありがとう」
シエラに貴族流の礼で頭を下げるリント。
そんなリントをシエラは無下にすることもなく、ペコっと頭を下げ返礼する。
「シュタイナー様のご息女である貴女は、やはり冒険者を目指すんですね」
「そうだけど、何?」
「私は将来騎士になるために励んできた。
頑張った。努力した。しかし、今日トールス様と君の手合わせを見て、身の程を知ったし、実力の差に絶望した」
「そう? 悪くない動きだったけどな」
「……君に言われてもな」
「私は学校に入る前から親父とおかあ……ギルドマスターに色々教えてもらったから」
「だろうね。私とて家庭教師に魔法や剣術は習っていたが。
その二人程の実力が先生にあるはずもない。
……率直に聞かせて欲しい、トールス様と立合い、何を感じた? 私は少し、自分の夢に陰りを見た。
私ごときが剣聖に至れるのかと」
「何を感じた?」
リントの質問にシエラは顎に手を当て先程の立合いを振り返る。
あの時こうした方が良かった、あの回避の時反撃出来たのでは? と反省すべき点は山程思い浮かぶが、恐らく目の前の少年が聞きたいのはそういった事では無いとは流石のシエラでも理解していた。
「俺は楽しかった。今はまだ勝てる気は全然しないけど、いつか一本取る」
「……君は凄いな、まだ子供なのに」
「貴方だってまだ子供でしょ? 親父が言ってた、俺達子供は可能性の塊だ、夢は諦めなければいつか叶うって。諦めなければ可能性は消えないって」
「そうだろうか。私も諦めなければいつかあの頂に辿り着けるだろうか」
「ん。大丈夫、諦めなければいつかは届く」
「あれだけ戦える君に言われると真実味があるね。
ありがとうシエラさん。騎士になりいつか剣聖へと至る夢。捨てずに済みそうだよ」
「ん。頑張って。俺もEXランクの冒険者になるから」
「ハハ。それは剣聖よりも難しい夢だね。
でも、そうだな。私が言うのもなんだが、まあお互い頑張ろう。
では私はもう少しトールス様から話を聞いてくるよ。
ありがとうシエラさん。ではまた」
リントは去り際、シエラの手を取るとその手の甲に口付けをしてシエラの元を去っていった。
貴族にとっての挨拶のような物だ。
が、シエラがそんな事を知るよしもない。
シエラは口付けされた手の甲を制服で拭くと、校庭を囲う芝生の場所まで行くとその上に胡座で座り込み、交流会の様子を眺めていた。
「ちょっと貴女! さっきアルストル様と何をしていたの!」
「もーなんなんだよ。休ませてよ」
貴族の息子、リントは顔立ちが整った金髪のいわゆるイケメン。
家柄良し、性格良し、顔良し、実力もある。
故に女生徒にファンが存在している事をシエラは知る事になる。
そのファン達がシエラを取り囲んだ。
「見ていたわよ! さっきアルストル様と仲良さげに話していたでしょ!?
それに、別れ際に、キ、キスまで!」
「あーもー、うるさいなあ。アイツとはさっき初めて話しただけでなんにも無いよ」
「あ、あ、アイツゥ!? アルストル様に対してなんて無礼な!」
「なあ、俺疲れてるから。ちょっと静かにしてくれない?」
恋する乙女達のボルテージは上がっていく。
しかし、最終的に騒ぎを聞きつけてやって来た教官によってその場は鎮められることになった。




