小さなスナイパー
シエラとリチャードが入学して一週間。この世界での六日が過ぎたころ。
リチャードが教官を担当をしているAクラスの生徒たちは遂に街の外での実戦訓練を行う事となった。
とはいえ、相手にするのはリーフスライム。
街近辺どころか、この世界のスライム種最弱の個体である。
「出発前に伝えた通りだ。
ノルマは一人三匹、森の方には行くなよ?
ギルドから貰った情報によると現在リーフスライムは大量発生中らしいので、ノルマ達成後は時間まで狩りの練習だ。
情けは掛けるなよ? 放っておくとこの辺りの草が全部食べられて荒れ地になってしまうからな。
パーティを組むも良し、ソロで狩るのも良し、判断は各自で行うように。
では気をつけてな。始め!」
「「「はい!」」」
リチャードの説明を聞いた少年少女たちは元気に返事をすると、街の外の街道から川の間の草原に散り散りに散開して各々リーフスライムを狩り始めた。
魔物の中どころか同族である他のスライムの中でも最弱のスライムとはいえ相手は魔物。
万が一ということも考えられる為、今日はリチャードだけでなく他の教員もこの実戦訓練に同行している。
敵対していなければのそのそと緩慢な動きのリーフスライムだが、一度敵対するとピョンピョン飛び跳ね敵に体当たりするのがこのリーフスライム。
一人が攻撃を開始すると連動しているかのように近くのスライムも飛び跳ねるので、生徒たちはワーキャー言いながら狩りをしていた。
ある者は友と連携し、剣で、ある者はなかなか当たらない魔法でスライムを追い立てるが、やはり初の実戦ということもあってか苦戦しているようだった。
「1、2、3、4。1、2、3、4。……3、でいいかな」
苦戦するAクラスの生徒の中でただ一人、シエラだけが開始地点から動かずに魔導銃を片手で地面と平行になるよう構えて何やら数を数えている。
初めて戦う魔物はまず観察せよ。
父であるリチャードの言葉を忠実に守り、シエラはリーフスライムの飛び跳ねるタイミングを体感で計っていたのだ。
「シュタイナー君、君は行かないのかい?」
「ん。これで終わるから……行かない」
リチャードに同行していた別の教官がシエラに話しかけると同時、シエラは魔導銃から魔力で編んだ弾丸を高速で射出。
放たれた魔力の弾丸は放った先で跳んだスライム二匹の核を正確に、しかもたて続けに打ち抜きスライムを絶命させた。
「おお! 惜しい! あと一匹だったねえ」
「いや、終わったよ?」
シエラが放った二匹目を打ち抜いた弾丸は弧を描き、曲がった先で跳んだスライムの核を撃ち抜いた。
それを確認することなくシエラはその場に胡坐をかいて座る。
一方でリチャードの同僚である教官はスライム三匹を一射で打ち抜いたシエラと離れた位置で息絶えたスライムを見て唖然としていた。
「あの、シュタイナー先生。娘さんなんですが」
「ああはい、どうしました?」
「ノルマ終了しました」
「わかりました、シエラには他の生徒の手伝いをするよう言います」
シエラが最速でノルマを達成した事を教えるため、開始位置から移動した教員が生徒の評価や改善点を持参したノートに記入していたリチャードに言うと、リチャードは耳に手を当て魔法を発動した。
伝達系魔法で一番最初に覚える魔法。
近中距離で通話する為の魔法だ。
「シエラ、ノルマを達成したそうだね」
「ん。終わった」
「そこからでいい、苦戦している子達を手伝ってあげなさい。
くれぐれも倒してしまわないようにな?」
「ん。分かった、手伝う」
教員が振り返って後方のシエラを見てみれば、シエラも耳に手を当てているのが見えた。
そのシエラが耳から手を離すと胡坐をかいて座ったままライフルを構え、一発、また一発と魔力で編んだ弾丸を放つ。
逃げようとするスライムの退路に、攻撃する為に跳ねようとしたスライムの鼻先に、シエラはリチャードのオーダー通り援護の弾丸を撃ち込む。
その様子を見ていた教員は冷や汗をにじませた。
「これが数年足らずでSランク冒険者を5人育てた育成術、シュタイナー先生はご自分の娘さんを次の英雄にするおつもりなんですね?」
「それがあの子の夢ですから、なんて言いますがね。
本当はあの子がどんどん勝手に成長しているだけです。
教えたことを何でも吸収するんですよ。まるで水につけた海綿みたいにね。ほんと、天才ってのはああいうのを言うのかもしれませんね」
言いながら、リチャードは退屈そうにクラスメイトの援護を行うシエラを見て微笑んだのだった。




