シエラは制服を着崩したい
朝風呂を堪能し、制服に着替える親子二人。
リチャードは着替えをしていてズボンやベルトに何やら魔法が掛かっているのを感じた。
それはシエラも同じようで、いつも履いているレギンスの上にスカートを履こうと手に取った際に首を傾げている。
「ああ、リチャードの制服には疲労軽減の魔法が、シエラちゃんの制服には対物理、対魔法防御の魔法が掛かってるのよ」
アイリスが作った朝食を食べながら、リチャードが制服に掛かっている魔法の事を気にして聞くと、アイリスはさもありなんと答えた。
アイリスの話ではギルド職員の制服には一律で疲労軽減の魔法が付与されているとの事だった。
シエラの制服もそうだ。
未来ある大事な子供を守る為、新入生の制服には防犯の意味も込め各種防御魔法が付与されているのだそうだ。
ただ、シエラの制服の魔法に関しては一年で効果が切れるように設定されているらしい。
「なんで?」
アイリスの話を聞いていたシエラが朝食のベーコンエッグトーストを噛りながら首を傾げた。
リチャードは「ふむ、なるほど」と何か分かったように顎に手を当てて頷き、シエラに「これも勉強の為」と答えは言わずにシエラに考えさせる。
「……ん~。あ~。……え~? 防御魔法に頼るのが駄目だからか?」
「正解、だと思うが。お母さんの答えはどうかな?」
「半分正解かな。制服の魔法に頼っちゃうと防御する技術や、回避の為の技術と勘が鈍るからという事で、戦闘スタイルが定着するまでの一年で一旦魔法の効果が切れるようにするの。もう一つの理由は魔法が更新出来るから。戦闘スタイルに合わせた付与魔法の練習に使ってもらうために効果が切れるようにしているわ」
「付与魔法……どんなのがあるんだろう」
「それは今日から学べば良いさ」
「ん。頑張る」
朝食を食べ終え、三人で食器を洗って片付けた後、通学の時間をリビングの掛け時計が報せるまで団欒する。
慣れない制服の上着にモジモジソワソワしているシエラの様子が可愛くて、リチャードとアイリスは顔を見合わせて微笑んでいた。
「首元のリボン緩めちゃ駄目か?」
「少しくらいなら構わないよ。緩めちゃ駄目なんて校則は無いからね」
「え~。可愛いのにい?」
「まあそれには同意だが、嫌がるのを強制するのは良くない。
服装も個性だ、まあ流石に前全開は駄目だぞ? 男の子が目のやり場に困るから」
リチャードから許しが出たのでリボンを緩め、ついでにブレザー型の制服の前のボタンを外したシエラが中のシャツのボタンも緩めようとしたのを見て、流石にリチャードが止めた。
シエラは不服そうだが止められては仕方ない、と中のシャツのボタンは留める。
しかし、首元が苦しいのが嫌なのか、上から2つ程はボタンは外したままだった。
「なんで前開けてたら男の子が困るんだ? 俺昨日の入学式の時、今より薄着だったけど」
「うーむ。これは難しい質問だ。そうだなあ、見えてる、よりは、見えそうな方が男は――」
「ちょっと! 娘になんでもかんでも教えないの! ほら、時間よ時間! 行くわよ二人共!」
「まあシエラにもいつか分かるさ」
「分からなくて良いわよ、チラリズムなんて」
「おい。答えを言うなアイリス」
「ちらりずむ?」
「何でもない、何でもないわ。
さあ行くわよ、リチャードは鞄と剣、シエラちゃんは剣と銃持って。
忘れ物は無い? ハンカチ持った? お昼は学校の食堂でちゃんと食べるのよ?」
自分のポーチを持ちながらアイリスがリチャードとシエラに言うと、二人はそれに従い自分の荷物を持ち、三人揃って家を出た。
途中までは三人一緒に歩き、大通りの十字路で「行ってきます」と「行ってらっしゃい」を交互に交わし、シエラとリチャードはアイリスに、アイリスは二人に手を振る。
アイリスはギルドの方へ、リチャードとシエラは学校の方へと歩き出した。
朝日が高く登り、街を明るく照らし出す。
今日も良い天気になりそうだ。
リチャードとシエラ、そしてアイリスの頭上には透き通るような青い空が広がっていた。




