魚釣り
釣りを始めて数分後、まず初めに手ごたえがあったのはシエラの釣り竿だった。
突然の引きにどうしていいか分からずにあたふたしていると「次に引かれたらそれに合わせて竿を一気に引くんだ」とリチャードに言われたのでシエラは言われるままに言われたことを実行する。
すると、やや小ぶりではあるが鮎に似た魚をシエラは釣り上げることに成功した。
初めての釣果に手繰り寄せた糸の先にぶら下がる魚とリチャードを交互に見るシエラは声こそ出していなかったがとても嬉しそうだ。
「やったなシエラ、はじめてにしてもう釣り上げるとは。
私たちも負けてられんな」
「これが釣り。楽しい」
「それはよかった、連れて来た甲斐があったというものだ。
ああそうだ、バケツを――」
と、興奮気味のシエラを尻目に荷物の近くに置いていたバケツを取りに行ったリチャード。
そのリチャードの耳に「あ、きた!」とアイリスの声も聞こえてきた。
女性陣が早くも二匹の釣果を挙げたので「結構食いつきが良いな、穴場なのか?」と思いながらバケツを持って二人の待つ岩場まで戻った。
「シエラ、アイリスの真似をして針を取るんだ出来るかい?」
「ぬるぬるしてるから難しそう、でも頑張る」
「こうよシエラちゃん。この後食べるから可哀そうも何もないけど、無理に引っ張るんじゃなくてこうしてクイッと、こうよ。出来るかしら?」
「ん。くいっとして……くいっとして、こう。おお、とれた」
水を汲んだバケツの上で魚から疑似餌の針を外し、シエラとアイリスが釣った魚を中に入れる。
もう一匹釣れれば焼いて喰うか、とリチャードも意気揚々と釣り糸を川に垂らすためにさっきまで座っていた場所に腰を下ろした。
しかし、そこから数分待てどリチャードの竿にヒットなし。
場所の問題か? と思い至ったリチャードが立ち上がって場所を変えようとしたその時だった。
「あ、またきた」
「こっちも来たわ!」
とシエラとアイリスが二匹目を釣り上げる。
「なん、だと……どういうことだ何故私だけ釣れんのだ」
「あっれえ、リチャード坊やどうしたの? まだ一匹も釣れないのかしらあ?」
「貴様、調子に乗りおってからに、見ていろ今に私にもアタリが来るさ」
と言って場所を変え、釣り糸を垂らすこと数分。
「釣れた」
「あ、私も釣れたわ」
最初の場所から動いていないシエラとアイリスに三度の釣果があった。
この辺りでリチャードが魔法を使おうとするが、誰もいないこの場所でそんな事をしようものなら魔力の流れに敏感なエルフであるアイリスにバレない訳もない。
「リック、ズルはダメよズルは」
「っく、馬鹿な私が釣果0の坊主だと」
「親父、俺のあげるよ?」
「だ、大丈夫だもうすぐ釣れるさ、多分な」
そしてそこからまた数分後、どこにそんなに魚がいるのか、再び女性陣に釣果があった。
少しばかり諦めの色が見えてきたリチャードだったが、ここでリチャードのお手製の竿にも手ごたえがあった。
「ふふふ、神は私を見捨てなかったようだな!」と歓喜に打ち震えながらアタリに合わせて竿を引くリチャード。
釣れたのは、最初にシエラが釣り上げたやや小ぶりな魚よりも更に小さな魚。
稚魚ではない稚魚ではないが、流石に小さすぎるのでリチャードは大きくため息をつくと魚から針を外して川に逃がした。
「ふう、仕方あるまい今日はこの辺にしておいてやろう」
「親父泣いてる?」
「いや、雨だよ」
「雨降ってないよ?
待ってて親父、親父の分も釣ってあげるからな」
「うぐ、あ、ありがとうシエラ」
二人の座る岩場に戻り、そっと釣り竿を置いて俯くリチャードに無邪気な子供の言葉の刃物がリチャードの心に深い傷を与える。
その様子をアイリスはニヤニヤしながら見ていた。
「慰めてあげましょうか?」
「頭でも撫でてくれるのかい? 出会った頃とは違うんだ、子供の前では勘弁してくれ」




