グレイハウンドの名前
花畑に敷物を広げ、アイテムボックスから取り出した毛布に包まり、リチャードとシエラは一夜を明かした。
リチャードにしてみれば、夜のうちにグレイハウンドが自分達の側から離れるなら止める事も無いと思っていたが、結局グレイハウンドは朝まで2人のもとを離れなかった。
そして翌朝。
リチャードは森へと向かうと窯の底を魔法で窪ませ、窯を崩してグレイハウンドの遺骨と遺灰を森の地面に埋めた。
この時、リチャードについて来ていたグレイハウンドが遠吠えをするが、返答はどこからも返ってこない。
「行こう」
手を組んで祈っていたシエラに言うと、リチャードは森の外へ向かって行く。その後を寂しそうに度々振り返りながらグレイハウンドが付いて来た。
どうやらリチャードとシエラについて行く決心はしているようだ。
「近くに水場があれば体を洗ってやりたいが、街道沿いの川くらいしか無いか」
「魔法で洗えない?」
「ふむ、聞いてみるか。狼君、君の体に付着した血を洗い流したいんだが、私達の魔法で洗っても構わないかい?」
リチャードの問いに、グレイハウンドが縦に首を振った。
了解が得られたので森を出たところでリチャードとシエラは水魔法で水球を作り出し、それをグレイハウンドの上から落とした。
水で洗っただけだが、グレイハウンドの血はシエラの浄化能力も作用したのか、綺麗に落ちていった。
するとどうだろうか、グレイハウンドが体に付いた水滴を落とそうと体を震わせると灰色の体毛が陽の光を反射して銀色に輝いていた。
「まるで希少種のシルバーハウンドだな。実に綺麗だ」
「狼さんキラキラしてる」
「まあお陰様で我々は水浸しになったが」
無警戒だった為に起こった事故みたいな物だ。
グレイハウンドが体を震わせて水滴を落とした為、雨に降られたように近くにいた親子2人の服を濡らした。
「仕方ない、里で貰った服に着替えるか」
「俺、あのワンピースやなんだけどなあ」
「上着も貰ってある。濡れた服で歩き回るのは嫌だろう? 乾くまでは我慢してくれ」
「……ん。分かった」
申し訳無さそうに耳を畳み頭を下げるグレイハウンドの前でリチャードはまずシエラを着替えさせ、その後に自分も服を養成所の教官用の制服からエルフの里で貰った旅装に着替えた。
赤を基調に黒いラインの入ったコートも上に着用すると、リチャードは地図を広げ、太陽の位置と影の向きから大体の方角を割り出し、方向を定めるとシエラと手を繋ぎ歩き始めた。
そのシエラの隣よりやや後方にはグレイハウンドもついて来ている。
「さて、では君の名前を決めようか狼君」
そう言いながら、リチャードは少し振り返ってグレイハウンドに微笑んで見せた。
「シエラは何か良い名前考えたかい?」
「うーん。ポチ?」
「お、確か神話に登場する神獣フェンリルの名前だったか。ふむ、悪く無いな。どうだい狼君、ポチでは駄目かい?」
リチャードの問いにグレイハウンドは首を横に振った。どうやら嫌らしい。
「おや、気に入らなかったかい? ふーむ、色に因むとそのままグレイだが。それは安直過ぎるか。アッシュ、も悪くは無いが。名前を与える以上は我々は家族になるわけだし」
「ママ喜ぶかなあ?」
「さあどうかな。驚きはしそうだがね。家族、家族か。確か他の大陸では家族の事をロジナと言っていたな」
「ロジナ?」
「ロヂナと書いた気もするが忘れてしまったよ。どうだい狼君。ロジナという名では駄目かな?」
グレイハウンドは今度は尻尾を振って「ワフ」と返事をするように吠えた。どうやらロジナという名前を気に入ってくれたようだ。
「ふむ。では今日から君はロジナだ。道のりは長いが、よろしく頼むよ」




