猫囃子
地方へ出張した折のことだ。
宿泊先の民宿で眠っていたら、窓の外から祭囃子が聞こえて目が醒めた。笛、鉦、太鼓、いずれの音色も通りよく、祭りの心地を搔き立てるには適任の調べである。
が、枕もとの時計が示すのは午前三時少し前。本来なら草木もぐっすり眠る頃合いだ。
流石に文句を述べてやろうと、音に最も近い窓を開けて身を乗り出した。
宿の部屋は二階である。そこから見下ろす先にいたのは猫たちだった。
街灯もなく薄暗い路地に、十数匹の猫が同心円を描くように座し、音曲を奏でていた。
一匹が口を大きく開け広げする。そこから流れ出るのは鳴き声ではなく、ひゃらひゃらとした篠笛の音だ。
もう一匹が腹を叩けば鉦が鳴り、合わせて別々の猫が腹鼓を打てば、大太鼓、締太鼓の拍子が響く。自らの尾を奏でるのもいて、これは知らない、哀切な弦楽器の音色を発した。
夢、幻のような光景に目を擦っていたら、だっとそこへ何者かが走り込んできた。
驚くほど俊敏なそれは、バケツを抱えた老婆だった。彼女は猫たちに水をぶちまけながら、ひどい訛りで何か怒鳴った。多分、「またお前らか!」的な意味だと思う。
凄まじい剣幕を浴び、猫たちは四方へ逃げ散った。それこそ蜘蛛の子を散らすようなありさまだった。
次いで老婆はこちらを見上げ、また訛りの強い声で何か言った。
おそらく、「お前も早く寝ろ」的な意味と思われたので、首を竦めて寝床に戻った。




