自分が一番
「私ね、ずっと思ってたの。私は自分が一番かわいいんだ、って」
久しぶりに遊びにおいでよと招かれたタワーマンションの一室で、彼女はそう切り出した。
部屋の内装は、建物の外見と同じく豪勢だった。過度に華美ではないが、金銭がかけられて行き届いている。確か、宝くじだか旦那さんからの慰謝料だかで大金を得て贖ったのだと聞いたような記憶があった。
「親は私のための働きアリで、友達や恋人は私を飾るアクセサリー。ここまで極端ではないけれど、大体そんな具合に、ね」
自嘲めく物言いに、ただ軽く頷いて先を促す。
正直を述べると、私と彼女の仲は深いものではない。時折、思い出したように時候の挨拶をする。それから、他愛もない愚痴をこぼし合う。その程度の間柄だ。
けれどこれくらい希薄な関係の相手の方が、話しやすい事柄もある。
今日呼び出されたのも、親しい相手には聞かせられない類の話をするためだろう。そう察するから、私は意図して沈黙を保つ。
「私に、本当は子供がいたって言ったら信じる?」
「出産祝いを送った記憶はないけれど?」
「ううん、もらったわ。消えてなくなってしまったけれど」
ゆっくりと首を横に振ってから、彼女は続けた。
「そう、消えてしまったのよ。あの子自身も、あの子に関するものも。多分、私の記憶以外、全部」
嘆息して、彼女は長い髪をかき上げた。自分が一番と言明するだけあって、手入れの行き届いた、絹糸のような髪をしていた。
「旦那と別れた時にね、気がついたの。私のここから先は、色褪せるばかりなんだって。だから毎日考えてた。どうにか今、綺麗なままで、これ以醜くならずに美しく死ぬ方法を。そうしたら、悪魔が来たの」
「……悪魔?」
あまりに突拍子もない言葉にオウム返すと、彼女は小さく笑った。
「そ、悪魔。推定だけどね。まあともかく、その悪魔は言ったのよ。『お前の一番大事なものと引き換えに、ひとつ願いを叶えてやろう』」
恐ろしげに声を作ってから、ありきたりよね、と呟いた彼女に、ありきたりだね、と同意を返す。
「でもそこで私、気がついたの。これはいい機会だって。すごくいい機会だなって。ついでに親としての責任も果たせる。だから言ったの。『この子が一生遊んで暮らせるくらいのお金をちょうだい』ってね」
もう一度、深いため息とついて、彼女は部屋を見回した。
私と彼女以外はいない、一人暮らしには広すぎる空間を。
「……私ね、ずっと思っていたの。私は、自分が一番かわいいんだ、って」




