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足元不注意
道路を通したいので持ち山を売ってくれという話が来た。
いやあそこは到底売れないと断ったのだが、新しい市議だが県議だかが熱心らしく、諦めずにしつこい。
いい加減面倒になって、カレンダーで移動日を確かめた。
実際を見れば、道路なぞ作っても踏み壊されるばかりだと理解できるだろう。
日時を告げ、「この日この時刻にご本人が山に入って、まだいけると思うなら商談に応じる」と伝えて、当日の立ち入り許可を出した。
指定日の午後になって、警察がうちへやって来た。
件の政治家だか政治屋だかが、山でぺしゃんこになったという。車ごと1cmほどの厚みにまでプレスされて、遺体は回収できなかったそうだ。
脅かすだけのつもりだったのに、可哀想なことをした。
「運が悪かったですね。あれは、足元を見ずに歩くから」
見ないというより、気づかないの方が正しいか。
人が虫を踏むようなものだ。車を踏みつけたその感触すら、あれは感知していまい。
「ですなあ」
担当の警官も地元の生まれだから、呟きに心得顔で頷いた。
一応、前方不注意による事故として片付けるそうである。




