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嘴病
房州の某という家の血筋は、揃って大きく鋭い猛禽の嘴を持つ。
生まれた頃は尋常の口であるのだが、十を数える時分から唇が腫れ、やがて硬質化して嘴になるのだという。
これは昔日、かの家が鳥の番を打ち殺した障りなのだ古老は語る。
鳥は、青と緑に光る羽を持つ、誰も知らない種類のものだったそうである。
体躯は大人が両腕を広げたほどもあり、山中に睦むこの夫婦鳥を見た者は皆、山神がその使いであろうと信じて疑わなかった。
が、某は異なった。
猟で口を糊するこの家の者にとって、美麗なる鳥は財貨としてしか映らなかった。
故にある夜、忍び寄ってひと撃ちした。
弾は確かに鳥を貫いた。が、後には屍どころか羽の一枚とて見当たらず、得たものは斯様な祟りのみだったのだという。
鳥の力の衰えか、はたまた寛恕か、嘴は年々縮み、唇に戻りつつあるとも伝え聞く。




