表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 鵜狩三善


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/1000

ささやくもの

「居るね」

「うん、居るね」

「今夜も居るね」


 ドア越しに聞こえてくる、子供のような高い声。


「居るね」

「居るね」

「残念だね」


 そう囁き交わして、やがて静かになる。

 私は家族と折り合いが悪いから、最初は悪戯だと思った。部屋から出ない私を揶揄(やゆ)して、そんな会話を聞かせるのだと。

 でも囁きの最中に不意を打ってドアを開けても、うちの馬鹿犬がきょとんとするばかりだった。大型犬のくせに家の中で飼われている、甘え切って邪魔で邪魔で仕方のない犬だが、当然これが喋るはずもない。

 それによくよく考えてみれば、家電もろくに扱えないくらい耄碌(もうろく)している父母に、私でもどうやっているのか見当のつかない、こんな手の込んだ悪戯を仕組めようはずもない。


 であるならば、これは心霊現象というものだろう。

 けれど私にどうこうする意図はなかった。

 向うは私が部屋に居るのを確認して、それを残念だと言う。それだけの事なのだ。ならば勝手に残念がらせておけばいい。私は私でいつものように、したいようにするだけだ。

 かくて私は変わらず部屋に引き篭もり、親に食事を運ばせては当り散らし、やはり邪魔くさく寄って来る犬を蹴飛ばしては追い払った。

 夜更けに声が聞こえる時だけ鬱陶(うっとう)しくその存在を思い出したが、それ以上は特に気にもしなかった。



 秋口になって温泉旅行に行くと伝えられたので、当然ながら不参加を表明した。すると母は煩わしくも私に、馬鹿犬の世話を押し付けようとする。当然ながらこれも拒絶した。

 結局ペット同伴が可能な宿泊先を探しての旅にしたらしい。無駄金を使うものだ。

 食費としてそれなりの額をふんだくったので、私は自由を満喫する事にした。自分だけの家というのは、実に開放感に溢れている。


 やがて、夜が来た。

 いつも通りパソコンのモニターに向かっていると、またいつもの囁き声がした。


「居ないね」

「うん、居ないね」

「今日は居ないね」


 ──え?


 違う。

 いつもと内容が違う。

 本能的な何かが警鐘を鳴らした。わっと肌に粟が生じた。

 しかし私が何をする暇もなく、囁きは続く。


「居ないね」

「居ないね」

「今夜、犬は居ないね」


 嬉しそうな声。声。声。

 ノブの回る音はしなかった。

 けれどそれはもう、ドア越しに聞こえるのではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ