ラルフの事を忘れていた話
ちょっとおまけっぽい話です。
短いです。
飛ばして頂いても問題ありません。
結ばれた糸を解く時、結び目の固さを確かめる。そうして、出来るか出来ないか考える。
カインの後に続いて彼の屋敷へ戻って行くダイアナの姿を確認して、アシュレイは思う。
―――無理だ。誰にも解けやしないのに。
けれど、止めなかった。
だって、彼の傍に、誰かがいてくれるのだと思うと嬉しくて。
そして、ようやくきっと、何かが動き出すと思うと、胸の重荷が取り払われる様な気がして。
アシュレイは薄暗く笑んで「まぁ、頑張ってよ」と呟いた。
それから心の中で、新しい『三人』に謝った。
いち抜けた!
さあ! ライラの所へ! 図らずとも二人っきりタイムじゃないかグッシッシ、などと思っていると、海岸へ続く道の先から、荒れ狂った茶色い馬が彼目がけて突進して来ていた。
「……あっ、う、わわわっ! ラ、ラルフ!?」
嵐の中使いっぱしりにされたラルフは、漆黒の炎(茶色なのに)と化していた。前方に見つけたアシュレイに向い高く嘶くと、猛然と駆けて来た。
「す、すっかり忘れてた!!」
置いてきぼりを喰らったラルフは、もう馬じゃないくらい怒っている。ヒヒンじゃ言い足りない! そんなんじゃ済まないのだ!
馬は強い。このまま突進されたら、アシュレイなんかパインだ。
―――殺られる!
アシュレイはゾッとして、横道に逸れて逃げ出したが、何と言う機動力、小回りの良さだろう、ラルフは「突進して来るなんか大きい生き物とかは、急に止まれない」の常識を怒りでもって打ち破り、直角に曲がって見せた。
「ひええぇ!? っ……あべしっ!?」
すぐに追いつかれ、悠然と横に並んだラルフからの強烈なヘッドアタックをバシンと受け吹っ飛ばされて、アシュレイは民家の壁に叩きつけられズルズルと座り込んだ。
「っ~~~ぐぁあ……」
ぶるる、と、熱い嘶きがすぐ間近の頭上で聞こえ、アシュレイは呻きながら恐る恐るそちらを見上げる。
狂気に燃える瞳が、アシュレイを見据えていた。
逞しい前足が、ドン、とアシュレイの頭に乗せられた。
『ぶるるるっ(お前なに置いてっとんじゃコラ)』
「ラ、ラフル……ゴメン。だって、しょうがないじゃないか!?」
『ごふーるるるっ(ビックリしたわっ! 俺の出番無いの本気でビックリしたわ! ライラたんとの絡みすらなくて本気で存在価値自信殺されたわクソが!)』
「だって、だって君は泳げないし飛べないし……っ」
『ひひぃーんっ(お前だってだろうが!!)』
「ど、どうどう……ラルフ……」
『ぶるわっしゃーっ(この……っジャガイモが!!)』
震え上がってラルフを宥めるアシュレイに、鼻息も荒くラルフが大きな顔を近づけた。唇がまくれ上がり、巨大な歯が食い縛られている。根菜など甘噛みでイケるその歯を見て、アシュレイは「殺さないで……」と戦慄いた。
そうするもしないも、ラルフ次第であり、アシュレイの今後の彼への対応次第だった。
誰だって(馬だって)蔑ろにされたら厭なのである。




