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セイレーンは狼と終わりをうたう  作者: 梨鳥 
狼と歌声と遠吠えと愛と喉骨
115/143

薔薇を散らしたベッド、撤回

新章になります。

お楽しみいただけますように!!

 ああ、この身を誇りに思わずにいられようか?

 空、地、海、風、月光……そういうものの中、彗星の尾を引いて、誰のものでもない賛歌を遠吠えに変え駆け抜ければ、歓喜を振りまき自由が零れるこの身を。

 誇らしくって仕方がない。

 いつだって胸の中が熱い。

 この世界に焼き付いていたい。ずっと。


* * * * * * * * * 


 夕日が海の中へ沈み始めたけれど、ハミエルは戻って来なかった。

 きっと仲間と話が弾んでいるんだろう、とアシュレイは楽観的だったが、ライラは少し心配していた。

 

「ハミエルはあたし以外にツンとしてるから、イジメられてないといいけど」

「へ、いじめられるタマかよ」

「でも、大きな狼がたくさんいたし……」

「大丈夫だよ。同胞同士で争わないって言ってたじゃないか」


 だといいけど。

 ライラはアシュレイの言葉に頷いて、沈む夕日を眺めた。曇り空のお陰様で、空の繊細な色彩の移り変わりは見れないけれど、てっぺんの方は暗くなっていた。


「夜になっちゃう」

「早く何処かへ行って、ライラとベッドに入りたいよ」

「何処かって?」

「この世にはカナロールと君のいた街しか無いっての? ふらふらしてれば村や街がたくさんあるよ」


 そう言うアシュレイに、ライラは、ゆんと尾を振って見せた。

 ついでに頭の上の狼の耳も、ピンピン動かして見せる。


「尻尾と耳があンのよ? どうやって村や町をうろつくの」

「頭巾付きのマントがいるね。僕だけが中身を見られるって最高」

「マントかぁ……邪魔そう」

「可愛いのを探そうね」


 ワクワクして言うアシュレイの顔を、ライラは覗き込んだ。

 

「ねぇ、アシュレイ」

「はい?」

「あたし、アンタをカナロールへ追い返す気でいたの」


 恵まれた生き方があるのだし、自分にはそれを与えてあげる事が出来ないから……。


 アシュレイは目玉をくるんと動かして、目を細めた。

 彼はおかしくて堪らない冗談を、葬式中に聞いてしまったみたいに唇を歪めた。


「そんな事出来ると思ってたんだ。一体どうしようとしていたのか、知りたいもんだね」

「……道端で歌って、路銀を稼いだりする様な生活になるんだよ?」

「良いね。そうだ、何処かで楽器を調達しよう。僕が奏で、君が歌う。……良いなぁ」


 良い、良い。と言って、悦に浸るアシュレイに、ライラはしつこく食い下がる。


「良いの? 大金持ちじゃなくなるんだよ? あんた、やつれちゃうかも」

「カナロールへ戻る方が、やつれちゃうよ。それに僕は元々野生児だよ。勘を取り戻せばその辺の草だって喰える。仕事で旅だって何度もしてるし……僕から見たら、旅慣れてない君の方が心配だね!」

「あたしは耳と尻尾が――――」


 ライラが自分の中の最大の不安を口にしようとすると、アシュレイが手で制した。

 最高にイラついた先の、穏やかな笑顔をしている。「今更かよぉぉぉ!」と、爆発しなかったのは多分、置いていかれたくないからだ。置いていかれたくない。ちゃんと行儀よくする!!


「僕の話を聞いてた? 僕は君の耳と尻尾に何の抵抗もない。君の耳と尻尾は控えめに言って凄く可愛い」

「……」

「僕は、マザコンじゃない事を君に証明しなければいけない。君はそれを見届ける。だから、一緒に行動しなければいけない」


 どんな旅の目的だ、と、自分で突っ込みたくなるのを押さえてアシュレイが言うと、ライラは小さく頷いた。尻尾を振っているのが見えて、彼は心底ホッとした。


「……凄く、不安だったんだ。良いのかなって」

「ライラ……」


 愛しさと、なんだか申し訳ない気持ちに突かれて、アシュレイはライラを抱きしめた。

 耳をしゅんとさせて、大人しく胸の中におさまったライラに、少し物足りなさを感じている自分がおかしかった。


「あ、あのさ、前にバラを散らしたベッドで愛を確かめ合うって約束したよね」

「……約束はしてないと思う」

「僕はしたんだよ。でも、撤回してもいいかな!?」

「な、なにが? 何の話?」


 急にソワソワし出したアシュレイに、ライラは耳をぴんと立てて警戒した。

 身を逸らせた彼女を放すまいと、アシュレイはグッと腕に力を込める。


「ほ、ほら、花はその辺にたくさん咲いてるし、なんなら君は花みたいだし……!! ね!?」

「ハミエルが来たらどうすんのよ!!」

「あ、あ、それはつまり来なかったらへぶぃっ!?」


 ライラが張り倒すよりも先に、アシュレイは後ろから来た何かに薙ぎ払われて吹っ飛んだ。

 アシュレイは地面を二回ほどバウンドして倒れ込むと、泥だらけの顔でよろよろと起き上がり、自分を吹っ飛ばした相手を見ると、これ以上ない程憎々し気に顔を歪めた。


「くそっ! 狼め!!」

『どっちが』


 汚物を見る冷たい眼差しで言ったのは、小さな銀色の狼だった。一見ハミエルと見間違えそうだが、昨夜ハミエルと一緒にいた狼だ。その証拠に、ハミエルの様に殺気立っていない。アシュレイは運が良い。さっきの攻撃がハミエルだったら、きっと頭ごともげていた事だろう。

 小さな狼は、後ろに何頭かの大きな狼を引きつれて来ていた。

 どの狼も、厭そうにアシュレイを見ている。封魔師が嫌いなのもあるが、なんか見苦しいんだろう。


「ハミエルは?」


 ライラが服を整えながら聞くと、小さな狼はちょっと目を見張って彼女を見た。

 ライラに耳や尻尾が生えているので、目を引かれたのだろう。しかし直ぐに合点がいったと言いたげに鼻の頭に少し皺を寄せた。


『……お前がそうなるのと引き換えに、魔力を消耗してぶっ倒れてる』

「え!?」

『半身だろう、お前達は』

「ハミエルは何処にいるの!?」 


 ライラが聞くと、小さな狼はクイッ、と北の空へ鼻先を向けた。

 空はすっかり暗くなり、薄雲の向こうで月が輝き始めていた。


『……連れてってやる。長もお前を呼んでいる』


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