師事するスライム
微笑する目の前の少女の問いに答えを示した後、今度はスライムの方から問いを投げる。
「あの、あなたは一体なんだ」
「ん? ああ、そうでしたね。ボクは……、そうですね」
少女は一瞬だけ悩み、それから意を決したように
「ボクはダンタリオンといいます」
「!!」
その名にスライムは驚いた。
ダンタリオンという名を彼は知っている。
その昔、この世に大量の魔物を生み出す切欠ともいえる『亜門解放』を行った、真祖の悪魔の一体の、その名がダンタリオンという。
それは魔物の世の中では神話のように語り継がれている話で、辺境の地のスライムですらもその話は知っていた。
ただ、目の前の彼女が本物のダンタリオンなわけはない。
騙りに違いないとスライムは思う。
何故ならばダンタリオンを含めた真祖は、初代勇者のパーティーに尽く打ち倒されて、この『人の世界』を追われて、魔の統べる魔界の果てへと放逐された。
だからこそ目の前の彼女が、本物のダンタリオンなわけはなかった。
だが、それでも目の前の少女は、圧倒的な力を有している。
真祖を騙るに相応しいほどに。
(この者は、我々魔物にとっての神を自称した。ということはきっとその心は俺たち魔物に寄っているはず)
スライムは考え、思わぬチャンスの到来に震え上がる。
(ならば勇者を打ち倒す、という目的意識は共有できるかもしれない)
ぷるぷると震えて、その内側に宿る眼球がぐるぐると回る。
(勇者は俺が殺したい。殺したいけど今の俺では絶対に勇者には勝てない……、ならこの人に師事して俺を強くしてもらおう)
スライムは突然に湧き上がった好機を掴むために必死に思考を巡らすが、一つのことを見落としていた。
スライムは最弱で、本来ならば勇者を打倒する為の戦いでは足でまといにしかならず、育て上げるだけ完全に時間の無駄だ。
そんなスライムを育成するようなものがいるとすれば、それこそただの物好きである。
「あの、あなたにお願いがある。俺を強くしてほしい」
ぷにゅりとスライムは頭を垂れるように身を潰して懇願する。
「ええ、構いませんよ」
それにダンタリオンは即答し、くすりと笑う。
そう、ダンタリオンはただの物好きなのだろう。
スライムという最弱で将来性の見込めないような低級の魔物に、その時間を注ぎ込むことを事も無げに了承したのである。
スライムは歓喜に震えるように元の状態に戻った。
「ただ、その代わりボクの命令は絶対ということを心得てください。ボクがやれと言ったことは必ずやるように、そうすれば君に闘えるだけの力を与えましょう」
そんなことは当たり前だ。
むしろ、そんな当然のことをわざわざ口に出すダンタリオンに疑問すら抱く。
「分かりました」
スライムは頷き、答える。とダンタリオンは満足げに頷き返す。
「よろしい」
と。




