#64 決戦前夜
結局、真衣はやはりインフルエンザA型と診断され、マサヨさん付き添いのもと入院を余儀なくされることとなった。
入院が決まった後、真衣は落ち込んだ様子であかりに電話を掛けた。咳と、のどの腫れによって枯れた声が痛々しい。病室では、マサヨさんががっくりと肩を落とす真衣に付き添っている。
「あかり…ホンマごめん…まさかインフルになるなんて…グスッ」
電話口で涙を流す真衣を、必死に慰める。
「体調はしょうがないよ。真衣の気持ちもわかる。わたしたち頑張ってくるから…真衣も見守っててほしい」
あかりの言葉に、真衣は泣きながら静かにうなずいた。
まだ夜も明けきらぬ翌朝、ようやく一連の騒ぎの収束した高校の正門前には、4台もの観光バスが並んでいた。伝令・応援を含む生徒たちに教職員、有志で応援に駆け付けた父母。吹奏楽部やチアリーディング部も応援に駆け付け、100人を余裕で超える人数だ。
自粛の影響で、本来校舎に掲げられる横断幕や事前の出陣式などは省かれ些か寂しい出発となったが、それでも春奈は迫りくる決戦への興奮と、秋穂と怜名がそばにいる喜びでずっと笑顔を浮かべていた。
一行は、2便に分かれ秋田空港から大阪国際空港へと向かうこととなった。春奈は、一美と隣り合わせとなり、秋穂と怜名は別の便への搭乗となるため、一旦空港で別れしばらく待機することになった。
先に春奈たちを乗せた便は、勢いよく空へと飛び出していった。
ポーン
シートベルト着用ランプが消えると、一美が手元のリュックを開けて何かを探している。
「はい、サエコこれ」
一美が、例によってホチキス止めの資料を春奈に手渡した。萌那香と彩夏、そしてみるほが2日がかりでまとめたという他校の分析シートだ。片面印刷とはいえ、相当のボリュームだ。あまりの分量に、春奈は目の前がクラクラする思いだった。
「サエコ1区だから、他の学校のエースと軒並みぶつかるね」
東京代表の八王子実業は、いわずもがなエースの天が1区に登場すると言われている。初出場となる拓洋大学弘前の2年生エース・星川美月は、9月の東北地方新人戦でも一度顔を合わせている。後方からぐいぐいと追い上げ、最終的には春奈や秋穂、酒田国際のシラ・カマシに続くタイムでゴールしている実力者だ。出場校一覧を眺めながら、春奈がつぶやく。
「関西とか、普段当たらない学校の選手、全然わからないです」
資料を慌ただしく繰りながら、一美が答えた。
「去年でいうとサエコもたぶん知ってる姫路女学館が強かったけど、片田さん卒業したから今年はどうかな…エントリー予想で一番いいタイムなのが、鹿児島の桜島女子。全員、3,000mのベストが9分30以内だから、確実に上位に来るね。…警戒ってことで」
資料の巻末には、スポーツ紙や専門誌のスクラップ記事がある。記事には、注目の選手が一覧で挙げられている。
『昨年Vの仙台共和大高、留学生ジオンゴで旋風巻き起こす』
『初優勝狙う東広島、留学生ムンガイが新記録狙う』
『浪華女子ムワンギが鮮烈デビュー』
「…留学生の記事ばっかりですね」
春奈がため息をつくと、一美が窓の外を眺めながらつぶやいた。
「そう。この人たち、たぶん全員2区だから、サエコで貯金作っておかないと、高島ちゃんが結構きつくなるからね。ひとつよろしくね、区間賞ってことで」
普段なら照れ笑いするところだが、春奈は大きくうなずくと、大きく息を吐いた。
春奈たちから1時間ほど遅れて、秋穂や怜名を乗せた飛行機も空路へと飛び立った。
「グーッ…ガー…グー…ガッ…ガーーー…」
「ちょっと秋穂!うるさい!」
怜名は、前の席で心地よく寝ている秋穂の肩を叩いた。まだ、離陸して十分程度にも関わらず秋穂は夢の中のようだ。起こされた秋穂は、ムッとした表情で後ろを振り返る。
「何しとん…人が寝とる時に…」
「何しとんじゃないよ。いびき」
「…えっ!?ウチが?」
「えっ、じゃないよ。すごいいびきだよ」
自覚症状がなかったらしく、秋穂が驚いた表情を見せた。怜名が頬をふくらませると、横からみるほが何かを秋穂に手渡した。
「これ、鼻に貼るテープ。いびきかかなくなるって」
「みるほ、何でこんなもん持っとるん?」
「マネージャーたるもの、準備万端にしておかないとね。っていうか秋穂ちゃん、もしかして鼻の調子よくなくない?」
「あっ、あぁ、鼻づまり気味だけん、呼吸がつらい時あるなぁ…よう分かったな?」
「へへん。みんなの体調管理もマネージャーの大事な仕事ですから」
「みるほ、さっすが!」
マネージャーの仕事が板についてきたようで、怜名の声にみるほは笑顔を見せた。
大阪国際空港に到着した一行は、慌ただしくリムジンバスへと乗り込み京都へと向かった。監督会議は一時からだ。そうゆっくりとはしていられない。バスの座席に身を沈めた岩瀬は、大きく息をついた。
「先生、大丈夫ですか?」
すぐ後ろの座席に座ったあかりが、岩瀬にペットボトルを手渡す。岩瀬はゴクゴクと音を立てて水を飲み干すと、やはりもう一度息をついてあかりに答えた。
「いやはや、慣れないことというのは、いつでも大変ですね」
慣れないことといえば、あかりたち部員も同様だ。普段の遠征では部活のジャージを着て移動するのが決まりだが、今回は制服での移動ということもあって、あかりは座席で窮屈そうに身体を動かした。
「早く、現地着かないかな。さっさと着替えちゃいたいんだよね…」
春奈は、寝てはいないものの疲れたのか、バスの中で目を閉じて休んでいた。機内で読んだ資料のことを思い出しながら、春奈はのちほど再会するであろう天のことを考えていた。
悠来の退学処分が発表されたその日の夜、すぐさま天からの着信があった。
「…本当に…なんとお詫びをしていいのか…ごめんね」
事態をまだ飲み込めていないながら、開口一番天は春奈に詫びた。
「いえ、そんな、天さんの謝ることじゃ…」
「そうはいかないよ。双子の妹がやったことだから、わたしは謝らないといけない…」
「悠来さんは、戻ってきましたか」
電話口に一瞬の沈黙があった後、力ない天の声が聞こえてきた。
「戻ってきて部屋にいるみたいだけど…わたしは…顔を合わせたくないかな」
「…そうですか…」
言葉を選びながら話す天の様子に春奈は何も言えなくなり、その日は挨拶だけして電話を切った。空港に降り立ったタイミングで春奈は天に電話を掛けたものの、留守番電話サービスへと繋がってしまった。
(天さん…気にしてなければいいんだけど)
天のことを考えるうち、周囲の音が遠のいて春奈は眠りについた。
開会式の行われる京都市体育館は、競技場と同じ西京極総合運動公園の中にある。一行はここからほど近い宿泊先の宿に荷物を置いて着替えると、全員集合して体育館へとやってきていた。周囲にはすでに、全国各地からやって来た他校の姿も見える。
春奈は、秋穂とともに周囲をキョロキョロと見渡していた。
「もう、誰か来てるかな」
「これだけもうおんのやったら、誰か来とるじゃろ…あっ、あれ」
「あっ!」
2人は、知った顔を見つけたのかサッと駆け出した。
「シラー!」
鮮やかなブルーにイエローのジャージに身を包んだ、ドレッドヘアーの姿が見える。東北地方新人戦で熱戦を繰り広げた、酒田国際高校のシラ・カマシがそこにはいた。
「ハロー、ハルナ!」
「ハロー、元気だった?日本語、上手になった?」
「ワタシ、ゲンキ。ハルナモ、モットゲンキネ」
前回話した時にはまだ片言だった日本語も、少しの間で随分と馴れたようで、にこやかに会話ができるようになっていた。秋穂のこともしっかりと覚えているようで、ボディランゲージを交えながら何かを話しているようだ。
春奈は、英語でシラに聞いた。
『コンディションはどう?調整上手く行ってる?』
するとシラは、肩をすくめて答えた。
『少し前に風邪を引いたから、決して本調子ではないけど…でも、ベストを尽くして頑張る』
春奈が、秋穂に会話を訳して伝えると、秋穂はニヤリとして言った。
「オッケーじゃ。並んで走ることがあれば、ベスト尽くして頑張ろうな」
そして、右手の拳をシラと突き合わせた。シラも笑顔で答える。
「オーケイ!」
春奈たちが待機場所に戻ると、怜名が駆け寄ってきた。
「どうしたの?」
「さっき、悠来先輩のお姉さん…天さん来てたよ」
どうやら春奈たちがシラのところへ行っている間に、天がやってきていたらしい。怜名は、あかりたちの方を指して言った。
「天さん、ずっと頭を下げてて、あかり先輩と淳子先輩が頭を上げてっていってもずっと下向いて泣いてた…」
「そっか…天さん…」
悠来と同学年の一美や有希とは初対面の天は、2人にも挨拶をしたが一美たちが押し黙ってしまい、会話にならなかったという。
「一美先輩も有希先輩も、天さんが悪いわけじゃないってわかってるとは思うけど…」
怜名は、もう顔を合わすことのない悠来のことを思い出して複雑な表情を見せた。
全国から男女合わせてのべ百近いチームの集まる開会式。体育館には、色とりどりのジャージを着た高校生がひしめき合っている。春奈は最初こそ目を見開いてわくわくした表情で式に臨んでいたが、高体連の会長挨拶が長引くとさすがに眠くなったのか、時折うつらうつらしはじめた。それに気づいた有希が、肘で春奈の脇腹をつつく。
「冴島さん…そろそろ、阿波野先輩の出番だよ」
「ほぇ…阿波野先輩?」
「ほら、選手宣誓。先輩、あそこにスタンバってるの見える?」
有希が小さく指さした先には、太希が緊張した様子で待っている。すると、ようやく高体連会長の長い長い挨拶が終わった。太希は、肩を2、3回ぐるぐると回すと、マイクスタンドのある中央部へと歩き出した。すると、
「続いて、京都府知事、京都市長によります歓迎の言葉です――」
フライングだ。もう中央の通路に進み出ようとしていた太希は、慌てて顔を真っ赤にしてさきほどの場所へ戻る。気づいた会場からは失笑が起きた。
「あーあ…」
思わず、有希は頭を抱えて反り返った。春奈も茫然と太希のことを眺めている。
「阿波野先輩、耳まで真っ赤ですね…」
ようやく関係者挨拶も終わり、仕切り直しで太希が中央へとやってきた。司会者に促されると、一拍おいて会場によく響く大きな声を張り上げた。
「宣誓――私たち選手一同は、きょうこの舞台に立てる喜びと、家族、指導者、教職員、友人、そしてチームメイト、地域の皆様、すべての方々への感謝を忘れることなく、全国高校駅伝という、この最高の舞台で、汗と涙にまみれながら、積み上げた練習の成果を、全力疾走という形で、この都大路に刻み、熱い戦いを繰り広げることを…誓います――選手代表。秋田学院高等学校、阿波野太希――」
会場から万雷の拍手が響く。春奈も、闘志が胸の奥に熱くこみ上げるのを感じていた。改めて会場をぐるりと見まわして、心の中でつぶやく。
(とうとう来た…決戦の舞台!)
式典が終わり会場の外へ出ると、春奈は何かを見つけて大げさなほど驚いた。
「あ、お、お母さん!?」
京都にやってきた琴美が、岩瀬と2人で話し込んでいる。琴美は、岩瀬に頭を下げて話を切り上げるとさっさと荷物から一眼レフを取り出して言った。
「やあやあ、期待の1年生。みんなで撮ってあげるから、呼んでおいで」
その言葉に、春奈があかりたちを呼び集める。
「えっ、春奈のお母さんもう来てるの?初めまして!」
あかりたちが、深々と頭を下げる。
「あっ、春奈のお母さん!お久しぶりです!いつもありがとうございます!」
入学式以来となる怜名も、心なしか嬉しそうだ。その横から秋穂が進み出て琴美に頭を下げた。
「初めまして…!…えー…高島秋穂です…春奈の同級生です」
なぜか、赤面する秋穂を見て琴美が言う。
「初めまして、あなたが高島さんね。春奈からよく聞いてるわ。いつもうちの泣き虫娘の相手してくれてありがとうね」
「もう、お母さん、余計なこと言わないで!みんな集まったから、撮影よろしくね」
「はいはい、そう急がない。じゃあ、みんなこっち向いて。あ、先生もどうぞ真ん中に」
そういって岩瀬を中央に招き入れると、琴美がファインダーをのぞいた。
「みんな緊張してるかな?じゃあ、わたしがカウントダウンするから、みんなもそれに合わせて声出してちょうだい。いきますよ?さーん。にーぃ。いーーーーーーー…」
「いー……!?」
「はいまだだよみんな頑張ってー?いー…」
琴美のカウントダウンはなかなか終わらない。息が続かなくなって、皆の顔に笑いが浮かんだその瞬間、
シャシャシャシャシャ!シャシャシャシャ!
シャッターをものすごい勢いで切る音が聞こえる。琴美がしてやったり、という表情で顔をあげた。
「はいオッケー!みなさん、いい笑顔だね」
「え、お母さんちょっと見せて見せて!」
あかり達も、重なるようにして琴美のカメラのディスプレイを除き込む。琴美のねらい通り、岩瀬を含む全員が満面の笑みで映っている。
「エーッ、すごい!春奈のお母さん、さすがプロですね!」
淳子や一美たちが、感嘆の声をあげた。琴美が胸を張る。
「そういってもらえると、カメラマン冥利につきるってもんだね。明日は競技場で見ているから、みんな全力で頑張ってね」
そういうと、春奈の肩をたたく。
「明日、頑張るんだよ。でさ、一つあんたにお願いがあるんだけど…」
「なに?」
春奈が訊ねると、琴美はポケットから小さな写真を取り出した。
「…お父さん!」
それは、幼少期に春奈が父の浩太郎、そして琴美とスタジオで撮影した写真だった。貿易業を営んでいた浩太郎は海外出張が多く、日本とアメリカを行き来することが多かった。それ以外の地域にも頻繁に出張していたため、春奈と浩太郎が一緒に写っている写真は数少ない。琴美は、一つため息をつくと春奈を見た。
「この写真を、お守りの中に入れて走ってくれないかな。お父さんに、あんたが走っているところを見せたくてね」
琴美は、駅伝を観たその足で新神戸に向かい、浩太郎の眠る墓へ報告するという。浩太郎は背が高く色黒で、笑顔から覗く白い歯が印象的だ。春奈は、しばし沈黙した後に大きく頷き、琴美に答えた。
「うん!明日、お父さんと一緒に走ってくるよ」
「春奈…よろしくね。明日はがんばるんだよ」
琴美は春奈を抱き寄せると、二度三度と頭を撫でた。
春奈たちは式を終えると、伝令などで同行するメンバーと合流し旅館へとチェックインした。夕方の食事の時間も過ぎ、あとは身体を休めるだけだ。学年ごとに入浴の時間となり、春奈たち1年生は最後に大浴場へと向かった。
身体を洗い終えた春奈は、即座に大きな湯舟に身を沈めた。
「ハアアアァ…♡ いいお湯加減」
「春奈、うっとりしすぎでしょ」
「だって、お風呂好きなんだもん」
怜名の突っ込みに、春奈は口をとがらせて答えた。春奈のお風呂好きはつとに部内でも有名なようで、毎日の入浴時間も限界ギリギリまで湯につかっているという。
「アメリカに住んでた時って、基本シャワーだからあったかいお湯につかれることってないんだよね。だから、たまにおばあちゃん家に帰ってくるときは、毎回温泉連れてってもらってたんだ」
「好きすぎ!…じゃあ、今度の春休み、箱根の温泉でもいっしょに行かない?」
「いいね!行こ行こ!」
春奈と怜名が盛り上がっているところに、秋穂たちがやってきた。
「温泉の話もええけんど、せっかくみんなおるけん、キャプテン、何か…ひとこと言っとかんかい?決意表明的な…」
「へっ?わっ、わたし?」
「いいじゃん、さえじ、何か一言聞かせてよ」
愛も、秋穂に便乗してきた。こうなると他のメンバーも止まらない。そのうち、浴室内に部員たちのよく揃った声が響く。
「春奈!春奈!春奈!春奈!」
「…もう…、しょうがないなぁ」
春奈は苦笑いすると、浴槽の中央へと進んだ。突然の“フリ”に、少し考えるような様子だったが、ゆっくりと口を開いた。
「えー。…何言おう…今日まで…いろいろなことがあって、大変だったけど。なんとか、ここまで来れました。拍手!」
イエーイ、という声とともに拍手が起こる。春奈が続ける。
「わたし…、前からみんな知っている通り、こうやって何か人をまとめたりとか得意じゃないけど、明日はこの1年やってきたことの…まとめというか、成果発表みたいな日だと思っていて」
春奈の言葉に、部員たちが表情を引き締める。
「本番のレースに出れるのは、ひとチーム5人。それに、補欠が3人。でも、駅伝はこれだけじゃなくて、伝令のメンバーもいれば、もちろん応援に回るメンバーもいる。マネージャーの人たちは、レースの集計以外にも当日のお弁当の用意だとか、走り終わったメンバーのケアだとか…走れるか走れないかは関係なくって、みんなで一丸となって明日のレースを迎えたいなって」
その言葉に、部員たちが思い思いにうなずき合う。
「いつも言うからまた言ってるよって思うかもしれないけど、わたし、みんなと一緒にこの部活にいれて本当に良かったと思ってる。だから、明日は、悔いが残らないように精いっぱい、頑張りましょう!」
部員たちの拍手が、大浴場を覆う。と、話を聞いていた怜名が何かを思いついたらしく、春奈に言った。
「みんなで、えいえいおーみたいなのやらない?」
「えー、恥ずかしいよ」
「やろうよやろうよ!それでさ、みんなで一致団結して明日に臨もう」
みるほたちも乗り気だ。もう、やらない、という選択肢はない。意を決して、春奈は息を大きく吸った。
「じゃあ…、わたしが頑張るぞ!って言ったら、みんなオーッって言ってくれるかな。それじゃ…明日は、みんなで優勝目指して一致団結、頑張ろう!オーッ!」
そういって、春奈は勢いよく拳を突き上げ立ち上がった。すると、部員たちの間に一瞬の沈黙が流れた。当然ながら、湯につかっていた春奈は何も身にまとうものはない。皆、視線の先の春奈を見つめながらおずおずと手を挙げた。
「お、おおおーっ…」
「え、な、ちょ、ちょっとどこ見てるの!」
慌てる春奈に、怜名が眉間にしわを寄せながら答える。
「いや、春奈、立ち上がるから…てか、春奈、すご…」
「えっ、えっ!?」
怜名の言葉に、他の部員たちも大きくうなずく。
「まじまじと見たことないから気づかなったけど、春奈…あの…」
すると、みるみるうちに春奈は顔を真っ赤にして叫んだ。
「きゃあああああ!」
春奈は慌てて湯の中に沈む。その一部始終をぽかーんとして眺めていた部員たちは、一斉に笑い始めた。
「もう、何がおかしいの、ちょ、ちょっと、恥ずかしい…」
「いや、春奈らしいなって、ハハハハハ…」
「ハハハハ!春奈のそういうお茶目なとこ、好きだよ」
「頼りにしとるよ、キャプテン…でも裸で立ち上がったら、風邪ひいてまうわい、ハハハ」
「もう!恥ずかしいってば!やめてー」
そういって他の部員たちが風呂を出る中、春奈はしばらく恥ずかしさから立ち上がれずにいた。
決戦前夜は、朗らかな笑い声の中更けていった。
<To be continued.>




