#30 トシゴロのジョシ
【前回のあらすじ】
春奈と怜名は野球部の応援に球場へとやってきたが、ルールを知らない春奈はちんぷんかんぷん。長身エースの石崎が隣のクラスにいることすら知らない様子。すると、石崎が陸上部の1年生・愛と交際していることを聞き春奈たちはビックリ。試合進行そっちのけで、春奈たちは恋の話に夢中になってしまう。
球場から高校までの帰途、休養日ということもありふたりは秋田の駅ビルに立ち寄ることにした。
「ひぃ…暑かった…」
「ねぇ、クレープかなんか食べようよ」
クレープと色とりどりのドリンクを抱え席に着くと、ふたりはだらん、と崩れ落ちた。
「ところでさ」
「まなちのことなんだけど」
と、同時に言葉を発すると、春奈は怜名と顔を見合わせて笑った。
「ビックリだよね!」
「てかさ、いつのまに告って付き合ったの!?あのふたり…」
「入学してまだ半年もないのに野球部のエースをゲットするとか…ツワモノすぎない?」
すると、ふたりが愛の話で盛り上がっているまさにそこに、
「あ」
うちわを片手に、愛たち数人がフードコートの前を通り過ぎるではないか!
「ちょっ…まなち!」
「春奈、わたしまなちのこと呼んでくる!ちょっと待ってて!」
愛は、同じく秋田学院中学校から内部進学で入部した矢田真理と和田垣美穂のふたりを連れて、やはり寮に戻る前に一息いれようと駅ビルに立ち寄ったようだ。
「えー、ちょっと、さえじとれなっちがいるとか超ウケるんですけど」
そういって、ケラケラと笑う愛をふたりで見つめると春奈が口を開いた。
「てぇかさぁ、わたしたちもめっちゃビックリなんだけど!」
「まなち、いつの間に付き合ってたの!?」
ふたりが興味津々という顔で愛に聞くと、愛はこともなげに答えた。
「え、飛雄馬?入学式の次の週だけど?」
「えっ、マジで!?」
「え、マリミホ、ふたりとも知ってた!?」
怜名は、常にふたりでいることから学年の中で「マリミホ」と呼ばれている真理と美穂に聞くと、真理が口を開いた。
「知るわけないない!気づいたらもう付き合ってたよね、愛と飛雄馬」
「告るとか付き合ったとかもナシだよ、もう次の日から普通に話にも出てくるからマジびっくりだよね」
美穂が、大きな目をさらに見開いてびっくりするしぐさをして見せた。
「…強すぎじゃない?まなち」
「え?そうかな。好きだって思ったら、すぐ告んないとチャンスないからさ」
「ほへぇ」
恋愛強者の愛の話に、思わず春奈は間抜けな溜息をもらす。すると、
「つかさぁ、わたしの話はいいんだけど、そもそもふたりはどうなん?」
「えっ?」
まさかの愛からの逆指名にふたりは一瞬固まったが、すぐ愛に問い直した。
「え、わたしの話!?」
「ないないない!全然ないよ」
必死に否定するふたりをジトッとした目つきで見ると、愛は言った。
「ホントかなぁ?トシゴロの女子が男子の事気にならないわけないし」
「や、本当に全然考えていなか…あ」
春奈は必死に自分のことを否定していたが、ふと横を見て絶句してしまった。怜名が、顔を真っ赤にして下を向いている。
「え、怜名」
「なぁんでもないって!好きな人とかまさかいるわけ」
「…わかりやすすぎじゃない?」
呆れて、愛が怜名にツッコミを入れた。真理と美穂が横から会話に加わる。
「れなっちゃん、誰の事好きなの?」
「ふたりともD組でしょ…?あ、サッカー部の小曽根くんとか!」
春奈たちのD組には、女子人気の高いサッカー部の小曽根雄太という生徒がいる。怜名は顔を真っ赤にしたまま、首をブンブンと左右に振った。
「あ、怜名さ、軽音のあの人誰だっけ、えーと、森下くん」
春奈は軽音楽部でヴォーカルとギターを担当している森下伸也という生徒の名前を挙げたが、またも怜名は首を横に振った。興奮しているのか、息も絶え絶えに怜名が釘をさす。
「もう、探るの、ホントやめてほしいんですけどぉ!」
怜名は手を振って否定したが、愛はおかまいなしだ。ふたり名前が出たところで考え込む様子を見せる。
「これはもしや…年上の先輩とか…それとも男子部!?」
「おおおおおぉぅ!」
マリミホが声をそろえて怜名を茶化すと、怜名の顔は茹でダコの如く真っ赤になった。
「怜名、わかりやすいね…」
「そ、そういう春奈は、どうなの!?」
必死に話題を逸らそうとする怜名が、春奈に矛先を向けた。
「確かに、こんなお人形さんみたいにカワイイ子、わたしだったら放っておかないな」
そういって、愛は春奈の顔を至近距離で見まわす。
「んー…?んー…!まなち、近すぎるし!ふーっ、ふーっ」
あまりに間近で眺め回されて春奈も別の意味で興奮したのか、ふらふらと怜名にしなだれかかった。
「まさか、さえじ、女の子好きなん?」
「いや、そうじゃないけど、まなち、ほんと近すぎるから…そんな至近距離で見つめないで…ふーっ、ふーっ」
「さえじ、愛これで石崎くんのことオトシたんだよ、きっと」
真理がいたずらっぽく笑った。
「そんな具体的なテクニックは内緒ですから!…あっ」
愛は、何かをふと思い出したようで、話を続けた。
「そういえばさ、秋穂、あの子も彼氏いるって」
「えええええ!?」
あまりの大爆弾発言に、春奈と怜名はその場に崩れ落ちた。
「え、彼氏?おるけど?」
寮に戻って秋穂の部屋に直行したふたりは、あまりにも秋穂がすんなりと彼氏の存在をカミングアウトしたためか、再び不思議なポーズで崩れ落ちた。
「なんで教えてくれないの!?」
「ていうか秋穂、あんなに練習の虫なのに、いつの間に彼氏なんて…!」
「え、中学の時からだけん、よう言わんわ」
「中学ううぅ!?」
「え、今彼氏どこにいるの!?」
「今は福岡の高校におるけど、遠距離やけん、寂しいわぁー…エーン」
そういって秋穂が露骨な泣きまねをし始めると、怜名がデコピンで秋穂に攻撃を加えた。
「痛っ、何しよん」
「へへへ、でも遠距離だと、彼の浮気とか心配じゃない?」
「心配いらん、あいつの弱み握っとるけん、浮気したら罰与える約束しとる」
「ふーん、罰で彼に何するのかなー」
怜名がそういうと、なぜか秋穂は顔を真っ赤にして下を向いてしまった。
「えーっ秋穂、彼と何するの!?教えて教えて!」
「黙っとけ!それよりアンタらの好きな男を教えんかい!」
「わたしの話はいいから、秋穂の話聞きたいー!」
「えー、じゃあうちらの部屋来て話そうよー」
女子たちの恋の話は、そうすぐに終わりそうにはないようだ。
<To be continued.>




