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#25 狭き門

【前回のあらすじ】

マサヨさんに叱られる怜名と秋穂だったが、かつてあかりが同じように内緒で深夜練習を行っていたことを知る。しかし、マサヨさんは休息と計画の大事さをふたりに説く。この日の件を契機に、急激に仲を深めたふたり。やがて、選抜テスト当日を迎えるが、怜名は本城に詰め寄る悠来の姿を見つける。

 悠来は厳しい表情で本城を見つめながら、何事かを大きな身振りで伝えているようだった。ところが、当の本城は首を捻ったり、頭を掻いたりと落ちつかない様子で悠来の話を聞いている。しまいには悠来は地べたにへたりこんで、泣きながら何かを喚くように主張しはじめた。困り果てた様子の本城は、やはりしゃがみこむと悠来に何事か二言、三言と話をすると悠来はようやく笑顔を見せた。

 本城は困惑と安堵の両方の表情を浮かべて、頬を掻くしぐさを見せた。

 すると、本城から去っていく悠来は、片方の足を気にして引きずっている。それを見ていた怜名は、その姿に違和感を覚えた。

 (悠来先輩?…うーん…まぁいいか、レースに集中しよ…)


 乾いたピストルの音を合図にスタートした3年生の後半組の選考は、少し調子を落とした住吉真衣を佐藤愛花が終盤でかわしトップでゴール。また、A班のボーダーライン上にいる相浦翼が前回の順位を上回ってゴールした。怜名は、愛花の元へと向かった。

「愛花先輩、おめでとうございます!」

「ありがとう!でも、まだ1年2年もあるから、不安は不安だけどね。よかった」

 テストで初めてトップでゴールした愛花は、ほっとした表情を見せた。

 そして、これからは2年生前半組のテストとなる。2年生がバラバラと集まってくる中、怜名はあることに気づいた。

(あれ…?悠来先輩がいない…!)

 悠来は前半の組にエントリーされているはずだった。ところが、その悠来の姿はない。怜名が目を細めて見渡すと、悠来は萌那香の後ろでストップウォッチを持って待機しているではないか。悠来はタイムでいえば、A班に入れるか入れないかの瀬戸際だ。一体なぜ…。だが、

(別に…いいか)

 話しかけたら、どんな言いがかりをつけられるか分かったものではないと、怜名は悠来から視線を外した。気にするのはそこではない。


 肝心のレースは、波乱含みの展開となった。

 結局、悠来は参加せず棄権扱いとなった。さらに、これまで2年生メンバーの中心でもあった芳野菜緒が前回の記録より30秒近くタイムを落とす結果となり、代わってこれまで一度もA班経験のなかった加藤夏海がタイムを伸ばし、菜緒と逆転する形で一歩リードした。

 A班に選抜されるメンバーは15人だ。一年生に春奈たちが控えることを考えれば、菜緒のA班入りは極めて難しい状況となった。菜緒はグランドの隅へと歩いてゆき、厳しい状況で俯いている。


 怜名はスタート付近へ歩いていくと、タイムが掲示されているボードを眺めていた。

 現時点の15番目にいる菜緒のタイムは10分14秒だ。だが、現時点で自分より速い1年生は4人いる。春奈、秋穂、佑莉、愛…。

 つまり、さらに4人を上回れるだけの結果を最低でも残さなければいけない。そう考えると、


 苑田そのだ 未穂みほ 9分 57秒

 近藤こんどう 有希ゆき 9分 57秒

 加藤かとう 夏海なつみ 9分 57秒

 相浦あいうら  つばさ 10分 00秒


 9分56秒でゴールできれば、可能性としてはかなり高くなるが、たった1秒遅れるだけで横に上級生が3人も並ぶ状況となる。10分フラットどころか、A班入りへの最低ノルマは9分56秒。前回の記録から8秒縮めなければいけないことになる。

 再び、怜名の表情が硬く険しくなった。


(どうする…どうする…どうしよう…?)


 前半と後半の振り分けは、持ちタイム順にジグザグに配分される。そのため、自分の前後のタイムの生徒は別の組に振り分けられるため、もともとの記録が分散している場合は他人の走りをあまりあてにできないことになる。

 怜名の前には、A班入りがほぼ間違いない佑莉。後ろには、ベストタイムが20秒以上違う荻島礼香がいる。佑莉につけばオーバーペース、礼香のタイムではA班入りが絶望的な状況だ。あまりの悩みぶりに、怜名は口唇をすぼめてすねたような顔つきをした。すると、

「怜名―!」

 声の方を向くと、秋穂が同じ1年生の三本木涼子と全力の変顔を見せているではないか。

 怜名はプッと吹き出すと、2人を見て笑いながら突っ込んだ。

「もう…バカ」

 2人は舌をチロッと出すと、ガッツポーズで応援するしぐさを見せた。

(ありがと)

 そう心でつぶやくと、怜名はスタートラインへ向かった。


 スタートラインには既に春奈がスタンバイしていた。徐々に集まってくる他の生徒の様子を気にする様子は一切なく、前方のどこか一点を見据えているようだ。

(あの時の…春奈だ)

 あかり、秋穂と争い、全速力のスパートで大逃げした時の残像が脳裏をよぎる。

 しかし、今日は春奈を気にしていてはいけない。

 怜名も、両手で軽く頬を叩くと、深呼吸を2回繰り返しスタートラインへ向かう。

 萌那香がスタートラインの1年生に向かい、叫んだ。

「それじゃあ、1年前半行くよ。位置について!」

 それぞれが、スタートの体勢を取る。


 パアン!

 耳をつんざくようなピストル音を合図に、やはり最初は春奈が一気に飛び出していった。どうしても、春奈の背中を追いたい衝動に駆られる。しかし、

(そんなことしたら、終わっちゃう)

 とはいえ、スピードを意識的に上げなければ選抜入りは厳しい。春奈からややあって続く佑莉の後ろに控え、多少オーバーペース気味だが追走の体勢に入る。


 秋穂は、涼子と一緒に戦況を見つめていた。

「れなっち、ゆりりんについてって大丈夫かな」

 心配する涼子に、秋穂はニッコリとして答える。

「大丈夫やない、ムキにならんかったら」

「ムキになる?」

 不思議な顔をする涼子に、秋穂は続けた。

「そう。あの子、大人しそうに見えて、実はめっちゃムキになんのよ。ほいで、頭カーッとして、スピード上げすぎて最後にバテてしまいよん」

「れなっち、そんなムキになるん?」

「めっちゃなるよ。ビックリしたもん。…逆に、ムキにならんかったら、意外とええとこまで行くと思うよ」


<To be continued.>

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