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#14 ドリームレースへの誘い

【前回のあらすじ】

あかりの指示のもと朝の集団走に臨む春奈たちだったが、スタートして間もなくあかりは集団の後方に回り、春奈は集団をリードするように指示を受ける。すると、先頭を走る春奈を追い抜こうとする者がいた。その生徒とは、同じ1年生の秋穂。春奈は、ペースを無視して飛ばす秋穂を慌てて追いかけた。

 秋穂はあかりへの返答とは裏腹に、どんどんスピードを上げていく。


「なんじゃ、アンタ来ないんか?後ろはまだ来んけん。早よ行こわい!」

「もう!待ってって言ってるでしょ!」


 秋穂に待つ様子はない。挑発か。あかりに叱られると思ったものの、秋穂の執拗な誘いに根負けしたのか、春奈も再びスピードを上げる。

「もう、梁川先輩に怒られるって!」

「ここにいる全員はライバルじゃけ。つまり、先輩もライバルだけん、一生懸命やらんのはいけん」

 ゴールの方を見つめながら、秋穂はそう答える。春奈は根負けした様子で、

「わかった。そうと決まったら負けないから。勝ちたいんでしょ?…残りの距離、勝負しようよ」

 そう返すと、グッと踏み込んでスピードを上げた。

「そうな!」

 秋穂もニヤリと笑うと、再びスピードを上げた。


 あかりは後方から2人の様子を見つめていた。観念したのか、2人についていこうとするメンバーはいない。

「キミたちはどうするの?あのふたりについていこうとする人は?」

 他のメンバーは下を向いてしまった。

(これは時間かかりそうな…記録会までにタイム伸びるかな…)


「ねぇ、ところでなんで、そんなにわたしと競おうとするの?」

 ふたりとも呼吸が荒くなるぐらいのペースで飛ばしていた。とは言え、ひたすら続くゆるやかな上り坂に体力は奪われつつあった。平然と飛ばしていた秋穂も少し呼吸が乱れている。

「アンタに負けたない…3年間でアンタのタイム抜いて勝つ」

「か、勝つって…」

 初日の練習中にいきなり宣戦布告されては堪ったものではない。そもそも、中学ではろくにレースも出ていない状態の春奈にはライバルというライバルが周囲に存在しなかった。面喰いつつも、自分のことをライバル認定する秋穂に少し興味が湧いた。

(なんか、面白い子)


 折り返し地点の駐車場に到達したふたりは、あかりからこってり絞られる羽目になった。

「ペースメーカー失格。…途中から後ろの流れ無視したでしょ」

 あかりの険しい表情に、春奈はシュンとしてしまった。一方、

「すみません。冴島さんがあまりに速かったので!」

 そういって秋穂はまた、白い歯を見せてニヤリとして見せた。


「え、ちょっ!」

「余計な言葉を交わさない!」

 そういうと、背の高いあかりはふたりを小脇に抱えて、奥へ連れていく振りを見せる。他の1年生たちは、先輩のただならぬ様子にゴクリと唾を飲み込んだ。

「え、わわっ、ごめんなさい!」

「うわぁ、何しよん!?」

 慌てるふたりの耳元で、あかりは囁いた。

「面白そうなことやってたじゃん。そういうの、先輩も混ぜてほしいな。自主練の時間になったら、3人でタイム競ってみる?トラックで」

「ええーっ!本当で…!?」

 春奈が大きな声を出そうとすると、抱えていた手で春奈の口元をグッと抑えて、わざとらしい大きな声で話した。

「とにかく!駅伝は集団のスポーツ。寮生活もそう。すべては規律の中で動いてる。だから、スタンドプレーは慎んでほしい」

「…はい。すみませんでした…」

 春奈が落ち込んだ表情を見せると、再びあかりは振り向いて小声で囁いた。

「じゃあ、タイムトライアル決定。自主練の18時にトラック集合!」

 そういうと、他の1年生たちの方へと戻っていった。

「いきなりキャプテンとタイムトライアルとか…緊張するね。高島さ…」

 秋穂に声をかけようとすると、秋穂ももう集団のほうへと戻っていく。

「あ、ちょ、高島さん…」

「秋穂でええ。戻るみたいだけん、あっち行こわい。それより自主練、楽しみにしとるけん、帰りは先輩の言うこと聞こや」

「あっ…うん」

 どこかマイペースな秋穂に、さっそく春奈は翻弄されていた。


「だ、大丈夫?春奈ちゃん」

 朝練が終わり寮に戻ると、怜名が心配そうな表情で春奈を迎えた。

「えっ?何が?」

 何事もなかったかのような春奈に、怜名はポカーンとした表情を浮かべた。

「え、あ、朝の悠来先輩とのこともあったし、何回か梁川先輩とも話してなかった?それと、あ、えーと…高島さん」

「ああー…あの先輩何かよくわからないけど、梁川先輩と秋穂ちゃんは特に何も」

「『秋穂ちゃん』!?もう高島さんとしゃべったの?」

「うん。すごい変わったキャラだけど、面白い子だった」

「え、そうなの!?」

「えっ、どういうこと?」

 怜名が大きな目をさらに見開いて驚く様子に、春奈も驚いて聞き返す。

「高島さん、入寮してからずっとふたりで黙々と練習してて。他の子の輪の中にも入らずに、やることやったらすぐに部屋に戻っちゃう感じだったけど」

 自分に見せたキャラクターとの乖離が大きく、信じがたいが、少なくも怜名が抱いた印象とはまったく別人のような佇まいのようだった。


「っていうか、まだわたし、他の1年生もほとんどしゃべれてないんだよね」

「ああ…そっか…中学からの内進組はみんな仲良くしてるみたいだけど、よそから来てる子とはあんまり話してないみたいだし、私もまだこれからかな」

「そうか…」

「とりあえず、東京から来てる丹羽みるほちゃんっていう1年生がいるから、後で行ってみる?お昼と午後練までは1年生は寮内で自由時間だっていうし」

「そうだね、他の子のことも知っておきたいし」


<To be continued.>

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