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#13 好敵手

【前回のあらすじ】

初めての朝練に臨む春奈だったが、2年生の悠来に足を踏んだと因縁をつけられてしまう。しかし、先輩部員が仲裁に入ったことで事なきを得る。本城からの訓示が終わると、1年生はキャプテンについて練習するように指示を受ける。そのキャプテンとは、先ほど春奈を助けてくれたあかりだった。


 本城のそれとは違う緊張感が、1年生に流れる。梁川あかりが続けて口を開いた。


「今日から本格的な練習が始まると思うんで、わからないことがあれば気軽に聞いてもらえれば」


(…気軽に、って言っても…)

 決して表情や態度が怖いということはないが、チームを引っ張っている者の風格、のようなものを感じて春奈は息を飲んだ。すでに、あかりにまつわる話は本城から聞いていた。


「2年生からキャプテン…ですか?」

「そうだ。2年生というより、実質でいえば1年生の後半からは自主的に練習をリードして、上級生からも一目置かれていた、が正しいな」


 以前秋田学院へ訪れた際、集団走の一番前を颯爽と走る姿を目撃した時に本城からあかりの本領を聞かされていた。実力もさることながら、そのキャプテンシーも高く評価され、事実上1年生のうちからキャプテンとしての役割はあかりが担っていたという。

「高校生といえどもまだ子供だ…そんな子供たちの中に、一人だけ大人が混ざっている。それが梁川だな。どこがすごいと思う?」

「えっ。…皆さんを引っ張っていく姿が、とても格好良いと思います」

「そうだ。キャプテンらしく、皆を牽引するのが梁川の持ち味でもある。だが、それだけじゃない」

「?」

「梁川がすごいのは、皆の見えない所なんだ」

 そういうと、本城は練習に戻っていった。


(見えない所…?)


「みんな分かってると思うけど、一般の道に出ての練習になるから、交通に気を付けるだけじゃなく。学校の外に出たら、学院生の代表という気持ちをもって練習に臨んでください。いいかな?」

「はい!」

 同じ高校生とはとても思えぬ、まるでコーチのような毅然とした態度に1年生の背筋は一様にピーンと伸びた。

「体操と個人のウォーミングアップが終わったら、すぐスタートするから、準備ができたら私のところに集まって」

 そう言われて、1年生は準備体操の列に加わった。


「それじゃあ、用意…ハイッ!」

 あかりが手をパァンと叩くのを合図に、隊列は動き出す。グランドの後方にある裏門から、あかりと一年生たちは外周コースへと歩を進める。

 直線に出た瞬間だった。先頭を走るあかりの背中が、ぐっと前に出るとそのままメンバーたちから数メートルのところに抜けた。あかりが叫ぶ。

「ちょっとスピード上げるよ!ついておいで!」

 そう言うと、ゆるやかな登りが続く道へと入っていく。


(ええっ!?)

 ギョッとした表情を浮かべて、春奈は続いていく。数百メートルしか走っていないにも関わらず、集団はすでに縦長になろうとしていた。初日に集団から遅れるわけにはいかないと、他のメンバーも続くがペースの切り替えについてこれず、後方の数人はやや遅れているように見える。あかりがぼやくようにつぶやいた。


「しょうがないなぁ…。キミ!」

「っはいッ!」


 突如話を振られた春奈は、慌てて答える。

「私は列の最後方に回って、後ろから追い込むからキミはこの集団をリードして。この先2キロぐらいまっすぐ行くと、運動公園の駐車場があるから。そこまで行ったら一旦待機。よろしく!」

 そう言い残すと、あかりは先頭を外れて最後尾に回っていった。

(え、ウソ、どうしよう?…とりあえず行くしかないか…)

 突然のご指名に慌てた春奈だったが、あかりが作ったペースを崩さずに道を進んでいく。ふと後ろを振り向くと、怜名は後方から集団を追うように走っているが、すでに息があがり始めている。それを見たあかりが怜名の横につき、何事かを二、三言話すと背中をポーンと叩いた。怜名の次は、これまた最後方にいる生徒の様子を伺いながら声かけを行っている。

(あかり先輩、すごい気配り…)


 春奈はあかりの様子に関心してほーっとため息を漏らした。次の瞬間、背後に気配を感じた。振り向くと、ひとりの生徒が春奈を抜こうと横についている。その生徒は呆れ顔をすると、春奈に呼びかけた。

「アンタ、ボケーッと何しよんの?チャッチャッと走っとかんかい、抜いちゃろか?」


「えっ、えっ」

「ほじゃけん、そなぁチンタラ走っとったら抜きよるけど、かまんか?」

 そういうと、春奈が答えるよりも早く、その生徒は春奈の前に出た。

「運動公園の駐車場まで行ったらええんじゃろ?」

「ああ、ちょっと、待って!」

 慌てて春奈もその生徒を追いかけるように続く。もう、後方の生徒たちが続いているかを確認する余裕はない。数メートル先の背中を追う。

 ようやく横に並ぶと、さらにその生徒が続ける。


「アンタ、冴島春奈じゃろ?」

「そうだけど…あなたは?」

「秋穂」

「えっ?」

「秋穂。高島秋穂たかしまあきほ。よろしゅう」

「よ…よろしく」


 高島秋穂と名乗るその生徒は、それだけ言葉を交わすとまたさらにペースを上げようとする。

「あぁ、ちょっと待って、もう待ってってば!」


 上り坂はまだ続いていくようだ。傾斜も少し強くなった気がする。ペースを上げての走りは楽ではない。秋穂を追いかけようとすると、後方からあかりの声が聞こえる。


「ちょっと先頭、飛ばしすぎ!全体のペース考えて!」

「分かりましたぁ~」

 秋穂は大きな声であかりに答えると、春奈の方を向いてニヤリと笑った。


<To be continued.>

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