#125 無限大の熱狂
トライアルを終え部屋へと戻った春奈は、机の上にある封筒を開く。確かにそこには『APEX RECORD, INC』の名が刻まれている。そして、その横には「MAD」のサインが記されていた。傍で見つめるみるほは、息をのんで春奈の手元を見つめている。春奈は、震える手で恐る恐る封を切った。すると、その中には真紅のチケットが5枚と、1通の手紙が認められていた。
「ゴクッ」
みるほが固唾をのむ音が聞こえる。春奈は、その手紙をゆっくりと開いて読み上げる。
「冴島春奈様。私のプロデュースするユニット、ルナ=インフィニティをいつも愛していただきありがとうございます。今回、夏のライブツアーを秋田でも行うことになり、ぜひ春奈様にもお越しいただきたくご招待さしあげる次第です。ぜひ、お仲間の皆さんとご一緒に、秋田県立体育館へとお越しください――LUNA∞プロデューサー・MAD MATSUDOこと松戸政任……」
手紙を読み終えた春奈は、一瞬の静寂の後叫んだ。
「「えええええ!?」」
みるほも、春奈以上に驚いたようだった。春奈は思わずみるほの手を握った。
「みっ、みるほちゃん、こ、これ、偽物じゃないよね!? 本当のツアーチケットだよね!? すごい!!」
みるほは慌てて手元の携帯電話でライブツアーのサイトを見ると、手元のチケットをしげしげと見比べて叫んだ。
「間違いないよ!『LUNA∞ SHINING SUMMER TOUR 2004』――これ、今回のツアーロゴだもん!っていうか、プロデューサーから直々に招待なんて……春奈ちゃん、すごくない!?」
みるほは興奮して、MADからの手紙を食い入るように見つめていた。春奈はふと何かに気づくと、携帯電話を手にとってメールを開いた。
『そろそろ届いたかな? プロデューサーさんにお願いして、今度秋田でするツアーのチケットを送りました。よかったら、みんなで見に来てほしいな!』
メールの主は、JULIAだった。春奈もしばらく画面を笑顔で見つめていたが、ハッとすると壁にかけたカレンダーを凝視して、大きくうなずいた。
「みるほちゃん、オッケー! この日、休養日だから行けるよ!」
「やった! あっでも、残り3人、誰誘おっか!?」
「うーん……でもこれ、さすがにひかるさんたちにも伝えたほうが……世界のMADからの招待状だし……」
その日から数週間後の日曜日、秋田県立体育館には春奈、みるほの他にひかる、エミー、そして真輝の姿があった。
「っていうか、春奈、本当にわたしたちまで来ちゃっていいのかな?」
さすがのひかるも恐縮気味だ。ひかるやエミーからすれば、MAD松戸といえば、アイドルプロデューサーというよりも、数多の大物アーティストをプロデュースし、ヒット曲を連発した超大物プロデューサーだ。エミーは、みるほが用意したグッズを手にワクワクを押さえきれない様子の春奈を見て思わず苦笑いした。
「っていうか、超大物プロデューサーから直々に招待が来ちゃう春奈ちゃんって、スゴイ子だよね、ひかるさん……」
そう話していたひかるたちは、真輝の方を向いて訊ねた。
「っていうか、コハルもルナ=インフィニティのファンなの?」
真輝はひかるが言い終わる前に、食い気味に口を開いた。
「冴島先輩が雑誌でお話されているのを見て、わたしも聴いてみようと思ってファンになりましたっ! ちなみに、わたしの推しはAMYさんですっ!!」
鼻息荒く語る真輝に、ひかるも思わず苦笑いだ。
「コハル……キミって子は本当に、何から何まで春奈リスペクトだね……」
関係者入口に通された春奈たちはバックステージ・パスを胸に提げると大きな控室へと通された。緊張気味の5人が椅子に腰を掛けると、視線の先にあった白い緞帳が落ち、春奈たちの目前にはきらびやかな衣装を纏った16名の少女が現れた。あまりに突然のことに驚いて春奈たちが言葉を失っていると、その横に立っていた長身の男――MAD松戸その人が、両手を広げて春奈たちに声をかける。
「ようこそ、秋田県立体育館へ!」
MADが言うと、グループのキャプテン・ALICEが声を上げ、メンバーがそれに続く。
「せーの、わたしたち」
「「ルナ=インフィニティです!!」」
メンバーたちは一斉に、親指と人差し指を使い三日月をかたどったポーズを取った。口をぽかーんと開けていた春奈たちは我に返り、声を上げて拍手を送る。その声に、メンバーたちが一斉に頭を下げると、春奈は思わず声を漏らした。
「きれい……!」
「秋田学院女子陸上部の皆さん、ようこそわたしたちのライブへおいでくださいました。今日はぜひ、ライブをじっくり楽しんでいただければと思います」
MADが語りかけると、春奈たちは深々と頭を下げる。すると、ひかるが口を開いた。
「有難うございます。このような場にお招きいただきとても光栄です。しかし、どうしてわたしたち――というより、春奈をご招待いただけたのでしょうか?」
「それはですね」
経緯を知らないひかるに、MADが口を開く。すると、春奈はJULIAと目があった。JULIAは春奈に向かってニッコリと微笑んで手をパタパタと振った。
(JULIAちゃん……ありがとう!)
「なるほどね、春奈が手術したことをJULIAさんが知ってたんだね」
事の次第をMADから聞かされたひかるが、感心したようにうなずいた。春奈の横では、推しのNOELLEと久しぶりに再会したみるほや、初めてAMYと対面した真輝がうっとりとしながらツアーパンフレットを眺めていた。
「まさか、ライブに呼んでもらえるなんて……夢みたいです」
目を輝かせて語る春奈は、すでにうちわやサイリウムなど、JULIA仕様ともいうべきいでたちで準備万端だ。普段は絶対に見ることのできないバックステージの様子を目にして、ひかるやエミーも興奮した様子だ。すると、会場が徐々に暗転し、開演前のSEが体育館の中に大きく鳴り響く。みるほたちはすっと立ち上がり、まさに臨戦態勢といった様子だ。春奈は、ひかるとエミーに立つように促すと、ニヤリと笑みを浮かべた。
「ひかるさんとエミーさんも、目を離さないでくださいね。ルナ=インフィニティのライブ、本当にすごいんですから」
観客の手拍子に合わせて、メンバーたちがひとりずつステージへと現れる。
<To be continued.>




