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#121 偶然の再会

「はぁ……」


 愛がわざとらしく溜息をつく。


「どうしたん?」


 秋穂が訊くと、愛はうんざりとした表情で答えた。


「だってさ、最近は県立だって海外行くんだよ? 秋田西はオーストラリアって言ってたし……なのにさ」


 そこまで言うと、愛は視線の先にある黄金色に輝く舎利殿――金閣寺をジトッと見つめて頭を抱えた。


「なんで私立のウチら(秋田学院)の修学旅行が奈良・京都なわけーー!?」


 秋穂がまあまあと愛を宥める。春奈は手に持ったデジタルカメラで舎利殿をパシャパシャと撮っている。愛の言う通り、秋田学院の修学旅行は数十年前からお決まりの奈良〜京都だ。秋穂も肩をすくめてぼやいた。


「しかも、ホテルのすぐそばにいつもの宿舎もあったしな……」


 全国女子高校駅伝で遠征する際に利用する旅館は、実はホテルの目と鼻の先にあったという。初見の京都であれば楽しめたのかもしれないが、すでに何度も京都を訪れている愛や秋穂にしてみれば、新鮮味に欠ける――というのが本音だろう。と、そこへ春奈が戻ってきた。


「そろそろ、八坂神社に移動しようよ」


 写真が趣味の春奈はニコニコしているが、対象的に秋穂と愛は少し疲れ気味のようだ。移動しようとする春奈を愛が呼び止めた。


「移動する前にさ……ちょっと、何か食べない? ホテルの朝ごはん早くて、お腹空いちゃったんだよね」


 そう言うと、愛からはグルグルと空腹のサインが聞こえた。




「「えっ、別れちゃったの!?」」


 驚く春奈と秋穂に、愛は遠い目をしながら答えた。愛のリクエストに応える形で、春奈たち一行は有名な茶店に入り、抹茶スイーツを味わっていた。


「うん、去年の冬」


「しかも結構前だけん……よう気づかんかった」


「な、なんでまた?」


 春奈たちをよそに、愛は少し不機嫌そうに髪を毛繕いしている。愛には、入学直後から交際している石崎飛雄馬(いしざきひゅうま)という野球部のエースがいたが、いつの間にか別れていたという。


「多分、秋のドラフト会議でプロ野球行くんだよね、あいつ。練習にスカウトとかも見に来てて、天狗になってンだよね……別れた。別の学校の女と影でコソコソやってるみたいだし、もういいやって」


「ああ……」


 そう言いながら、春奈は思わず秋穂の方を見てしまった。秋穂は秋穂で、中学時代から付き合っているという遠距離恋愛のボーイフレンドがいるという。すると、春奈の視線に気づいた秋穂が、聞かれてもいないのにやはり不機嫌そうに口を開く。


「連絡もよう取っとらんけん、自然消滅じゃ」


「や、秋穂ちゃん、何も聞いて……」


 口を滑らせたことに気づいて、秋穂は顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。愛は愛で飛雄馬の言動を思い出して不機嫌になったのか、茶店の一角に不穏な空気が流れる。春奈はどうにか空気を変えようと、あわあわとしながら行程の書かれたノートを広げた。


「あっあのさ、京都来たから寄りたいところがあるんだけど、いいかな!? とっ、途中にまなちの好きなスイーツとか、秋穂ちゃん食べたいって言ってたランチのお店とかあるから!」


「えっ、まじ!? さえじ、行こ行こ!? どこにあるの!?」




 東京・麻布十番の一角にある豪邸では、MADが頭を悩ませていた。手元には、JULIAが置いていった膨大な量の書類がある。


(……助けたい、か)




 MADが小さく溜息をつく。つい先日、大きなリビングの一角で行われた会議で、JULIAが熱弁していた姿をMADは思い出していた。資料を手に熱っぽく語りかけるJULIAを、女性マネージャーが呆れたような表情で諭す。


「……JULIAさぁ、この前発表があったでしょ? どんなに頑張ったとはいえ、今回のあなたのフォーメーションは2列目。センターはMARIA。そう決まったはずよ。いくら自分がセンターになりたいからって、MADさんに曲を書いてほしいなんてそんな、あなた自分が何を言ってるのか分かって――」


 マネージャーを遮るように、JULIAはさらに手に持っていた資料をバンと机に置くと、鬼気迫る表情で口を開いた。


「わたしは、自分がセンターになりたいとか、自分が目立ちたいなんて、そんな浅墓(あさはか)な理由でMADさんに曲を書いてほしいなんて言うわけがありません」


「浅墓……!?」


 担当タレントに浅墓呼ばわりされ、思わずマネージャーも気色ばむ。MADが間に割って入るように双方を諭すと、JULIAの肩に両手を置いた。


「気持ちはよく分かった。JULIA、曲を書いてほしいというのは、よほどの理由があると思ってる。どうしてそう思ったのか理由を聞かせてくれないか」


 緊張と興奮で睨みつけるような目をしていたJULIAは、ひとつ深呼吸をすると表情を少しだけ緩めて言った。


「どうしても、応援したい――助けたい人がいるんです」




「なるほど、さえじらしいわ」


 思わず愛が苦笑いを漏らした。愛、秋穂の希望する店に立ち寄った末に春奈がやって来たのは、西京極総合運動公園陸上競技場。春奈らしいチョイスに、秋穂と愛は思わず笑みを浮かべたが、春奈は至って大真面目だ。競技場は休日で閉鎖されていたが、入口のほうへつかつかと歩み寄ると、春奈は競技場に向かって深々と頭を下げて一礼した。頭を上げると、春奈は笑顔を見せた。


「どうしても……半年後にここに戻ってきたいから……みんなで優勝したいから……そのために、わたしはまずレースに戻らなきゃだけど」


 春奈の言葉に、秋穂は深々と頷いた。秋穂も、この西京極には並々ならぬ思い入れがある。昨年のレース、5区終盤まで桜島女子のキャプテン・本田(ほんだ)まきなと並走していた秋穂は、この西京極総合運動公園に入るまさにそのタイミングでまきなにスパートを許し、初優勝を逃した。ゲートの奥に見えるトラックを眺めながら、春奈に語りかけた。


「……優勝したいな」


「……うん」


 愛も同じく、二人の言葉に大きく頷いた。すると、後ろから春奈たちに駆け寄る足音が聞こえ、思わず三人は後ろを振り向いた。


「ハルナ!」


「あっ!」




 春奈は笑みを浮かべて両手を広げると、その人影は春奈にぐっと抱きついた。


「シラ! 久しぶりじゃの?」


 秋穂もすぐに駆け寄る。シラ・キビイ・カマシ。山形県の酒田国際高校の留学生で、春奈たちとは東北総体や都大路など、幾度となく好勝負を繰り広げた選手のひとりだ。シラは春奈の頭を撫でると、安心した様子でため息をついた。


「ハルナ、ゲンキ、トテモヨカッタ」


「会えて嬉しい! もしかして、シラも修学旅行?」


 シラはにっこりと頷いた。やはり、シラが西京極へ行きたいと言い出し、急遽予定を変えてやってきたという話を他の部員から聞いた愛はにんまりと笑った。


「もう、さえじとシラちゃんの運命じゃない? みんな、呼び合うんだね」


 春奈も笑みが止まらない。酒田国際は、昨年の全国女子高校駅伝への出場をわずかの差で逃し、県代表の座を望海大山形に譲った。春奈は手を取って力強く握ると、シラの目をじっと見つめた。


「シラ、今年は絶対にまたここで会おうね。約束だよ」


「モチロン! ワタシ、ゼッタイガンバル。マタ、ココデハルナニアエル」


 秋穂、愛もその輪に加わると、酒田国際の部員たちもやはりやって来て、お互いに健闘を誓う握手を交わした。


「シラ、みんな、お互い頑張ろうね!」




 日は、いつの間にか暮れ始めていた。JULIAの資料を広げながら歌詞を書いては消し、歌書いては消しを繰り返していたMADは、ふと手元のキーボードを打ち始める。


 ”冴島春奈 リハビリ 理由”


 検索結果を開いたMADは、そこに書かれていた内容に思わず顔を歪めた。



<To be continued.>

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