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ナディア視点 世界で一番

 ヴァイオレットはナディアが本棚より周りを気にして、見回し聞き耳をたてて、周囲に人がいないことを確認していても、ちっともぴんと来ていない。そんな真面目すぎるヴァイオレットに苦笑しながら、もう我慢の限界だったので、ちょうどいいところにあった隙間にヴァイオレットを詰め込んでキスをした。


「……な、ナディア、まずいよ。図書館で」


 至極まっとうな指摘だけど、ヴァイオレットはナディアに押されるまま、キスされるまま、何一つ拒絶する様子はない。

 そんなので止められるはずがない。そもそも、ヴァイオレットが立場上率先してこんなことをすると言えるとは思えない。その真っ赤になって潤んだ瞳で、忙しく心臓を動かしながらどんなに拒否されたって、本心だなんてちっとも思わない。


 だからナディアは、心のままにキスをする。その為に、言葉の上でくらい、いくらでもナディアが悪いことにしてくれて構わない。


「マスターは抵抗してもいいですよ」

「え?」

「私が、無理やりするだけですから」


 ヴァイオレットを下げて鼻先にキスをする。思っている以上に自分も興奮しているのか、強くつかんでしまったけど、それでもヴァイオレットは抵抗らしい抵抗せず、むしろ従順に黙って自分の胸をおさえた。

 ナディアはその姿に、さっき妄想した学生時代の今より幼気な頃のヴァイオレットを重ねて、何とも言えない興奮が湧き上がってきて耳にキスをした。

 ヴァイオレットの耳はエルフと違って、丸くて、つるっとした感じがなんだか美味しそうで、たまらず舐めて味見をする。


 ヴァイオレットは途端にびくりと体を震わせて、か細い声でとめようと懇願してくる。だけどそんなの、声を我慢しながら腕の中で喘がれて、真っ赤になっていてそれでもただ身を小さくするだけの弱気な態度で、やめられるはずがない。

 ナディアはますます熱心に舐めて、ついに耳の穴に舌をいれて魔力も注いでしまう。


 ヴァイオレットには手にキスをして魔力を流しても反応が薄かったので、魔力の無駄は控えて我慢してきたけれど、今日はもう、我慢が出来なかった。

 こんなところで、とナディアだって思う。さすがに最初からここまでする気はなかった。魔力まで流すのはやりすぎだ。


 だけどヴァイオレットがあまりに可愛いから、思いが溢れて魔力になってしまうのだ。もちろん、ヴァイオレットが見られないようには気を付けている。興奮するのと同時に、耳だけは周りの音をしっかり拾えるよう意識している。こちらに人が近づいて来ればすぐにわかるように気を付ける。

 それだけは、ヴァイオレットの為に守らないといけない。だけど見られなければ、ヴァイオレットから手を繋ごうと言ってきたくらいなのだ。つまり、ばれなければセーフだ。


 ついにヴァイオレットが力を抜いてしまうので、支えながらも舐めると、たまった唾で音がなる。ナディアの唾が、ヴァイオレットの耳に水たまりをつくっているのだと思うと、と高ぶってくる。


「や、やめて」


 とヴァイオレットが言葉ばかりの制止をするけど、力は入っていないし、何より、その瞳が語っている。もっとして、と。

 なのにヴァイオレットは、やめようとさらに言うのだ。その真面目で堅いところも好きだけど、そんなに可愛い顔ばかりされると、ついついからかいたくなってしまう。

 だからもう一度、耳にキスをした。すると不意打ちだったのもあるだろうけど、ヴァイオレットは予想以上にイイ反応をした。


「んんん」


 どうやらヴァイオレットは、恥ずかしくってドキドキして緊張状態になっているせいで、いつもより敏感になってしまっているらしい。

 それは当たり前のようにも感じるけど、ヴァイオレットにとってはその指摘はますます恥ずかしいらしく、これ以上ないほど真っ赤な顔になっていて、ナディアはその可愛すぎるヴァイオレットをもうやめるなんてできるはずもなく、本能のままヴァイオレットに口づけて魔力を注いだ。

 溢れる思いを全てぶつけ、ヴァイオレットがセリカなんかを意識できないようになるまで、べろべろにした。









「図書館ってすごいよね。あれだけの本が読み放題なんだから」

「確かにね」


 家に帰ったからもセリカは興奮したようにそう言っている。よほど気にいったらしい。お昼は外に出たけど、セリカの希望もあり再度図書館に戻って本を手にしていたのに、まだまだ物足りないようだ。

 そんなに何を一生懸命になることがあるのか、仕事でもないのに、とナディアは考えてしまいがちだけど、その間、存分にいつもと違うヴァイオレットを味わえたのだから良しとする。


「よかったら、また明日からも行くといいよ。あの部屋は借りられなくても、一人でも利用はできるし」

「いいんですか!?」

「もちろん」


 ヴァイオレットの提案にセリカはとても嬉しそうだ。それはいいのだけど、しかしちょっと優しすぎる気がする。客人扱いをしているのだろうけど、お仕事もないし、そもそもいつまでいるかも決めていない。すごく甘やかしている気がする。そのおかげでセリカも順調にヴァイオレットに懐いている。


「じゃあ、そろそろ夕食の用意を始めようか」

「あ、マスター。私しますよ。今日はお疲れでしょうから、部屋でゆっくりしていてください」

「いや……あ、う、うん。じゃあ、お言葉に甘えて、そうしてもらおうかな」


 ナディアの提案にヴァイオレットは顔をあげて否定しようとして、ナディアと目が合うと目じりを赤くしながら目をそらした。

 さっきから目が合わないと思ったけど、わざとされていたらしい。そんなに意識されると、ナディアも思い出してしまいそうだ。あの、可愛いヴァイオレットのことを。


 思わず出てくる唾を呑み込み、平静を装って頷く。


「はい、どうぞ」

「? 私も手伝うよ。何もなくお世話になるのは申し訳ないしね」

「セリカは当然だから」

「じゃ、じゃあ、悪いけど。あとでね」


 セリカは気づいていないようだ。ヴァイオレットが居間からでて自室に向かったのをみて、ナディアを振り向く。


「夕食は何を予定しているの?」

「昨日用意していたでしょ。ハンバーグだよ。今日は煮込みにするの。あとシチュー。冷えてきているし」

「いいね。それにしても、ナディアも立派な家人だね」

「……ふふふ、まぁね」


 こんなことは仕事でもあるので当たり前だけど、褒められて悪い気はしない。昔は散々、日々のあれこれにやかましく注意してきたセリカから見ても文句なしなら、もはや完璧な家人と言ってもいいのだろう。


 エルフは家庭において役割分担をし、家事を主にして家を守る家人と、家をでて生活を守る狩人にわかれる。と言ってももちろん、役割分担は厳密なものではなく、現在では皆が狩りをするわけではなく二人とも家庭内でできる手仕事でやっている場合も普通にあり、あくまで過去からの伝統的呼び名でわけているだけだが。

 少なくとも、家人、と褒められたと言うことは、家事全般を完璧で家を管理できていると言うことだ。ナディアの現状は家人と同じような役割なので、そうセリカが言うのは適正だろう。


 ヴァイオレットが完璧すぎかつ、何をしても褒めてくれすぎるので、客観的にみてどのくらいできているのかあまり自信のない時もあったけど、セリカが言うなら間違いないのだろう。


「……ナディア、幸せそうだね」

「うん、もちろん」

「そっか。私もお役御免だね」

「う、うん……まぁ、セリカはほら、すごくいい人だし? きっとすぐ、次の相手が見つかるよ」


 ナディアが悪いとも思わない。許嫁制度は相手がいれば拒否できるのが通例だ。とは言え一方的に断り、セリカは現状結婚相手のいない状態だ。その状態で幸せいっぱいなのを見せつけるのはちょっと、あまりよくなかったかも? とナディアはセリカを見ないように調理をすすめる。


「そう、かな。ありがとう。でも、ヴァイオレットみたいな素敵な人、他にいるかなぁ」

「!?」


 セリカを見る。うっとりとしたような顔で、突然振り向いたナディアに不思議そうな顔をしている。無意識で言ったのだろうか。

 今の発言はどう考えても、ヴァイオレットが好きだとしか受け取れない。本人の自覚はともかく、結婚相手にヴァイオレットのような人がいいと言っているのは明確だ。


 ヴァイオレットみたいな人が、他にいるか? いるわけがない。ヴァイオレットはこの世界で一番素敵な王子様でありお姫様なのだから。だいたいなに、さっきの顔は。頬をちょっと赤くして、思い出していたみたいな遠い目までして、完全に恋する顔ではないか。

 ヴァイオレットのような人は他にいないのだから、ヴァイオレットみたいな素敵な人と結婚したいと言うなら、それはヴァイオレットを狙っているに他ならない。


「セリカ、よく聞いて」

「ん? なに?」

「私、セリカのこと好きだよ。口うるさいと思ったりもしたし全然恋愛感情ではないけど、家族として、大事な人だと思ってる」

「あ、改まって何? ふふ。私だって、ナディアのことは好きだし、大事な家族だと思ってるよ」


 でなきゃ、こんなところまで来ないでしょ。と軽口をたたくように言ってくれる。うんうん。そこまでは同じ気持ちのようでよかった。

 ナディアは気持ちを落ち着けるために、大きく呼吸をしてゆっくりとセリカに体ごとむく。


 家族だと思っている。だけど、それとヴァイオレットのことは全く別の話だ。もしヴァイオレットから他にも好きな人がいるからどうしても、と言うならまた話は変わってくるけれど、ヴァイオレットがナディアだけを見てくれているのに、他の人がちょっかいを出してくるなんてことは見逃せるわけがない。

 セリカであろうと許せないし、もしそうだと言うなら、もう戦争だ。ヴァイオレットの為なら、戦う覚悟はいつだってできている。どんなに家人になろうと、ナディアの心は狩人なのだ。血を見ることに躊躇いはない。


 だけどまだ本人に自覚がないなら、そうならないよう、釘をさすところからはじめよう。セリカがヴァイオレットを好きにならなければ、ナディアとセリカは昔から仲のいい家族同然でいられるのだから。


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[一言] 笑いとは、本来(ずごごごごごご
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