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エルフ耳は可愛い

「でも、何ていうか、私のことでたくさんご迷惑おかけして申し訳ないんですけど、でも、なんか、嬉しいです」

「ん? まぁそうだね。旅行みたいなものだしね」


 今後、手紙をやり取りして来年の春ごろに出て、ナディアの故郷へ半年かけて向かう。それに合わせてのこまごまとしたことも説明すると、ナディアはそんな風にはにかんだ。

 可愛い。そんなに喜んでくれるなら、故郷ではゆっくり、なんて言わずに道程もゆっくりして新婚旅行を堪能するのもいいかもしれない。

 と鼻の下を伸ばしながら頷くヴァイオレットに、ナディアは違いますよとくすくす笑う。


「私が嬉しいのは、マスターが大切なお仕事をわざわざ休んで、私の為にそこまでしてくれるのが、嬉しいんです」

「そんなのは当たり前だしねぇ」


 にこにこ笑顔でそう言ってくれるけれど、ヴァイオレットとしては当たり前すぎる。確かに遠いから簡単なことではないし、いつでも実家に帰っていいよとは言えないけど、だからこそ最初くらいはちゃんと挨拶して認めてもらって、できれば式にも来てもらいたい。

 ヴァイオレットは、ナディアが一生一緒にいてくれるならとても幸せだ。もうそれは決まっている。だからこそ、ナディアにも世界一幸せな花嫁になってほしい。それだけだ。


「マスター……ふふ、もう、そう言うところ、ますます好きです」

「ありがとう。そう思ってもらえるよう、これからも頑張るよ」

「も、もう。これ以上私をときめかせて、どうするんですか?」


 ヴァイオレットの答えに、ナディアはにやけた頬に両手をあててヴァイオレットにもたれてきた。可愛い。肩を抱いて頭に自分の頭をあてた状態で軽く抱きしめる。


「そうだなぁ。どうしようかなぁ」

「きゃ、マスターのえっちぃ」


 頭に頬ずりするようにふざけると、ナディアはそんな風に言いながら自分からヴァイオレットの胸元に飛び込まんばかりにすり寄ってくる。


「あ、そういう事言うと、こうだっ」

「ふぇ?」


 何だか楽しくなってきたので、ヴァイオレットはそのままナディアの肩にまわしている右手をそのまま抱き込むようにして草の上に転がり、わしゃわしゃと頭をなでて左手で胴体をくすぐる。


「きゃぁはは! ま、マスター! はは! もう!」

「んふ! あはは! な、ナディアちょっ、ははっ、あははははっ!」


 無防備にくすぐられて笑い出したナディアだけど、すぐに反撃しだした。躊躇なく脇腹に滑り込んできて、素肌を撫であげる。そのくすぐったさにたまらず身をよじるけど、今度はナディアが抱き着いてくる。

 しばらく静かな森にヴァイオレットの笑い声がひびき、息も絶え絶えになったところでナディアが手を止めて、震えるヴァイオレットの背中を優しく撫でる。


「大丈夫ですか? マスター?」

「ふ、う、うぅん、うん、はぁ、ナディアは、くすぐりっこでも強いんだねぇ」

「ふふふ、私、何でも得意なんですよ」


 どや顔可愛い。と思ったところで気が付く。

 ヴァイオレットは今、地面にうつぶせに肘をついている状態だ。そして隣でナディアも肘をついて半分ヴァイオレットにのりあがるようにして片手で撫でてくれている。当然距離は近い。顔と顔は肩のある15センチほどしか離れていない。

 そこでヴァイオレットは愛しさと悪戯心が溢れて、そっと横向けになりながらナディアの肩の上から手を通してナディアの右手を背中からおろさせて、腰あたりまで下ろしたところで手をナディアの腰に回して抱き寄せる。


「? ます、た…!?」


 そして素早く顔を寄せて軽く頬にキスをした。もちろん学習しているので、魔力を送ったりしない。一瞬触れるだけのじゃれるキスだ。

 一瞬で顔を離すと、ナディアは目を白黒させて、ゆっくりと自身の頬に手をあて、にこっと笑って見せるヴァイオレットの笑顔を見つめ、キスをしてから5秒後、火が付いたように真っ赤になった。


「うひゃぁ!? ま、まままますたー! い、いま、き、キスしました!?」

「うん。ナディアはほっぺもすべすべでキスしただけで気持ちいいね」

「ううう、な、なんでそんな急にしちゃうんですかっ」


 特に逃げたりしていないし、恥ずかしがっているだけで拒否反応はない。なので問題ないようだけど、ナディアは何故かうぐぐ、とでも言いだしそうなほど悔しそうな文句のありそうな顔をしている。顔は真っ赤なのに。


「そんなに言わなくても。魔力とか送ってないし、痛くもないしそんなにえっちでもないでしょ?」

「そ、それは、そんなことはなくはないんですけど、そうじゃなくてぇ、二人きりだしいいですけど、でも、心の準備って言うか、雰囲気がなかったって言うか、初めてなのに一瞬で全然わからなかったですし、もー、とにかくもー! 私全然わかんなかったです、ずるいですよ!」

「わかったわかった。じゃあ、ナディアがわかるように、何回もしよう。それでいいね?」


 駄々をこねる子供のようなナディアが可愛くて、にやにやしながらヴァイオレットはそう提案する。ナディアはヴァイオレットをしばらく見てから、ゆっくりと手をおろす。


「……もっと、マスターから言ってください」

「ん?」

「私からじゃ、嫌です」


 じっと見つめてくる。その瞳は、何度見ても美しい。それにしばし見とれてから、ナディアの真意に気が付く。なるほど。キスするのはいいけれど、ナディアからの要請で仕方なくするのではなくて、ヴァイオレットからしてほしいと。

 さっきの悔し顔も合わせて、とてもわかりにくくて面倒くさい乙女心だ。なんて可愛いんだろう。自分からと言うには恥ずかしく、それでもヴァイオレットを求める心がそう言わせているのだ。なんていじらしいのか。思わずナディアの頭をなでなでしてしまう。


「うん、そうだね、私がしたいから、もっとナディアの頬にキスをする。いいね?」

「……はい、いいですよ」


 うっとりしてそっと目を閉じるナディア。そのまま唇にキスをしたくなるけれど、それはさすがにまずいので、何とか理性を動員して頬にキスをする。

 頬にあたるとやわらかい。温かさまでは感じないはずだが、体全体が熱くなってきた。テンションがあがり、唇をはなして、またくっつける。犬が鼻先をくっつけるように、頬のあちこちにキスをする。


「んふふ」


 くすぐったいのか、ナディアが声をあげる。目は閉じたままだ、ぎゅっと体を抱きしめ、その勢いで今度は耳にキスをする。


「んひゃっ、マスター、もう、すぐ変なところにキスしようとして、ふざけるのやめてくださいよぉ」


 目を開けたナディアは、めっ、と言いながらヴァイオレットの腕の中で抱きしめられたままの体勢でぽんぽんと肩をたたいた。


「ふざけてないよ。ナディアのどこもかしこも可愛いからね。耳もちょんってとがってて、可愛いよ」


 背中に回している右手を緩めて、ナディアの肩辺りから手を伸ばして後ろから耳の先をはじくように触る。

 お! 思ったより柔らかい。キスをしたのは耳の穴の上なので何も思わなかったけれど、耳先が柔らかいのは意外だ。


 そのままつまんでみる。軟骨らしきものが入っているのはわかるが、自分の耳に比べてもかなり柔らかい。くるくると紙を丸めるように抵抗なく曲がる。


「ちょ、ちょっとマスター、完全にふざけてるじゃないですか」

「あ、ごめん、つい。痛いとかくすぐったいとかある?」

「ないですけど、キスの気分じゃなくなりました。ちょっと退いてください」

「えー、そんなこと言わずに」


 言いながら今度は伸ばして、くいくい、と軽く引っ張る。ふにゃ、とした感触が触ってて心地よい。縁には少しだけ段差のような感触があって、ちゃんと表と裏が分かれているのが手触りだけでわかる。


「もう! そんなに遊ぶなら、私だってマスターの耳触りますからね、って、え、かたい?」

「あ、ちょっと、さすがに耳は優しくして」

「あ、ごめんなさい、え、ていうか本当に、かたくないですか?」


 ナディアが割とぐにぐに遠慮なくヴァイオレットの耳をつかんでひっぱるので、普通に痛い。注意すると謝って引っ張るのをやめたナディアだったが、耳を指で挟んで全体の硬さを確かめるようにしているのだけどそれも結構強い。

 なんだか、さっきナディアが冷めたのが少しわかった。


「普通だと思うけど。そんなに硬い? 軟骨だし曲がるし、指とかよりは柔らかいでしょ?」

「それはそうかもですけど、えー、でも不思議です。小さい耳なのになんでかたいんですか?」


 不思議そうに尋ねられた。全く分からないけど、ナディアに聞かれたら仕方ない。なにかしら答えを出さなければいけない。ヴァイオレット自身も気にはなっているので、少し考えてみる。


 まず、そもそも同じ二足歩行の形状なのだから耳の形が丸い方がより自然で、ナディアのようなエルフ型の方が謎だ。だけどそれは言っても仕方ないのでスルーするとしよう。

 そこまでではないが、ナディアのエルフ耳は長い。単純に考えると、大きいものになるほど、重量が増えるのだから、それを支える骨はより太くなりそうなものだ。すくなくとも骨が柔らかなくなるのは理屈が合わない気がする。

 だがそれでは柔らかい理由にはならない。全体的に丈夫なエルフなのでそこは全く問題ないと無視できるとしよう。


 だとしたら耳が柔らかいことで得られるメリットは何だろう。ナディアの耳をふにふに仕返しながらとりあえず口を開いてみる。


「私からしたら、こっちの耳が普通と言うか、むしろナディアの方が謎なんだけどね。そうだね、例えば長い分、髪なんかが引っかかったりしても大丈夫なように、ひっかかっても耳が柔らかければすぐ外れるようになっているのかもしれないね」

「んー。逆に言うと、マスターとかは髪とか引っかからないからかたくても大丈夫ってことなんですかね。でも寝る時とか、かたいと気にならないんですか?」

「全然ならないけど。そうか。そう言う問題もあるのかもね。寝転がるときに押しつぶしても大丈夫なようにと言う可能性はあるね」

「こうやって目に見えて違いがあると、面白いですねぇ」

「そうだね」


 結論は出ていないけど、とりあえずの提案で納得してもらえたようだ。



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