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魔力の練習 膝

 ナディアの足の甲は手の甲よりは魔力感受性が低いことが分かった。本当はここからさらにぎりぎりまで魔力量を増やしたいけど、とても嫌がっている。

 まだ大丈夫そうだけど、本当に無理やりして嫌われたら困る。ここは好奇心よりもナディアの意思を優先すべきだろう。


「わかった、じゃあ、足先にキスするのはやめるよ。ごめんね、無理強いして」

「う、い、いえ。わかってくれたならいいです。その、き、気持ちいいのは本当ですし。じゃあ、そろそろ」

「うん、折角だし、次は膝にキスしてもいい?」

「え!? な、なんでそうなるんですか?」


 少し上げた足のおかげで、スカートは少しだけあがっていて可愛い膝頭が見えていて、ヴァイオレットには触って触ってと誘っているようにしか見えなかった。なのでヴァイオレットとしては当たり前の要求だったのだけど、驚かれた。


「もちろん、ナディアの膝が可愛いからだよ」

「ちょっと意味が分からないです、あ、ちょ」


 軽く、まず普通に口づける。一瞬だけ口づけると、びくっとあからさまに膝下が持ち上がった。膝を掴んでいるナディアの両手がこわばるのが見えた。可愛い。

 すべすべの綺麗な膝だ。膝立ちなんかしたことないとでも言うような色素沈着のない、少しだけ丸みのあるまだ少女と女性の間にあるような肉付き。この距離で見ても毛穴があるのかないのかはっきりしないような滑らかな肌。何だか見ていると、美味しそうにすら思えてくる。


「本当に、綺麗な膝だね。もちろん膝だけじゃないけど、でも、全部、食べたくなっちゃうくらい、可愛いね」

「っ、ま、ますたぁ、もう、ほんとに、駄目ですってばぁ」

「まぁまぁ、一回試すだけだから」

「だめ、ほんとに」


 ナディアの声が震えていた。だけどそれが可愛くて、たまらなく愛おしくて、ヴァイオレットはそっと唇を落として、魔力を送った。


「!?」

「わっ!?」


 途端に、ナディアに突き飛ばされた。尻餅をつくヴァイオレットを見下ろして睨み付けるのも一瞬で、ナディアはすぐに駆けだした。

 廊下を曲がってすぐにバタン! と音がしてトイレに行ったのを何となく思って、それで、遅れて気が付いた。


 あ、今、トイレ行きたくなってあれだけ嫌がっていたのか、と。


「っ」


 えー! 今、トイレ我慢してる状態で強いていたのか!? だとしたら、引き留めたヴァイオレットの態度は鬼畜過ぎる!? えー、でも。でもそれ言ってくれても、いや恥ずかしいか。いやしかし、最初に転んでからそこまで時間たっていないのに、急にぎりぎりになるだろうか。

 もしかして魔力を送ったのが何らかの刺激になったのだろうか。今まではそんなことはなかったはずだ。今までの別れてからの時間を監視したわけではないが、明らかにトイレに行くのとは反応が違った。

 となるとやはり下半身に魔力を送ったのが悪かったのだろうか。ヴァイオレットにスカトロ趣味はないので、ナディアの糞尿に性的興奮する趣味はない。


 ない、が、ヴァイオレットが無理強いしたことにより尿意を催して我慢していたのだと思うと、多少は興奮する。……ナディアにさんざん言われていたのは生まれてきた文化感覚の違いかと思ってスルーしていたが、意外と自分は本当に変態かもしれない、とヴァイオレットは自覚した。


 そもそもがこの世界で性交は口づけなのだから、それ以外の身体接触に性的意味づけはないのだろう。だから背中を流すなどと軽く言える。逆に、口付けて魔力を送る行為が性行為そのものなのでそれを口以外に行うのは理解の範疇外であり変態と思っているのだろう。

 だがそれはナディアの感覚であり、あくまで二人でつくっていく関係なのだからナディアの感覚だけではなくヴァイオレットの感覚も踏まえて、ナディアに拒否されないならいいだろうと思っていた。


 いや今も思っているが、元の感覚でも変態になる範囲に足を突っ込んでいくのはどうなのだろう。この世界はもとより、他の世界の常識を踏まえてすらアブノーマルな関係になっていくのは問題があるのでは? それこそナディアが言ったように前世を言い訳に使っているようなものだ。


「……ま、いっか」


 しかしどう考えても、ナディアは可愛い。可愛すぎる。どんな状態でも可愛いし、どんな部位でも可愛いし、魅力的でないところはない。普通の気持ちでももちろん可愛がれるけれど、性的な意味でも全対応できる自信がある。

 なのでもう、しょうがないだろう。なんせこんなにも可愛い恋人がいるのだから、ちょっとくらい平凡の範疇を超えて興奮してしまうのも仕方ないだろう。これは全世界の常識を超えてなお仕方ない。


「……マスター」

「ん! な、ナディア、ごめんね! 本当にごめんね! もう足に魔力送ったりしないから!」


 仕方ないがそれを謝らないかと言ったらもちろん別である。

 強引に無茶ブリしたヴァイオレットにあんなに健気に我慢してくれて、申し訳なくならないはずがない。興奮するからと言って、繰り返すつもりはない。それがなくともナディアのどこのどんな反応にだって興奮できるのだから、ナディアが笑顔でうけいれてくれる範囲で十分だ。

 そう、大事なのは変態か否かではない。ナディアがOKを出すかどうかだ!


「な、なんですか、急に殊勝な態度になって」


 そそくさと気まずそうに戻ってきたナディアに、振り向くなり膝をついたまま謝罪したヴァイオレット。そんなヴァイオレットにナディアはやや引きながら、右手でくるくると自分の髪先をいじって視線をそらして気まずそうにしながら、そんな怒ってますアピールをしてきた。

 恥じらっているだけで怒っているわけではないとわかってはいるが、ここで対応を間違うと本気で怒らせてしまうだろうことはわかっているので、ヴァイオレットはなぁなぁにせず真剣な顔のままそっとナディアの手をとる。


「うん、ちょっと強引にしすぎたかなって、反省してるんだ。ナディアが可愛いからついやり過ぎてしまうけど、ナディアに嫌われたら、死んでも死にきれないからさ」

「んっ、き、嫌いとか、そんなわけないってわかってて言うの、絶対ずるいですよ」

「うん、わかってる。私はナディアが大好きで、ナディアも私を大好きで、簡単に嫌いに何てならないって、わかってる。だけど時々は不安になるよ。大好きだからこそ、ね」

「んんんんーっ、真面目っ、好きっ、ああっ、もうっ。怒れなくなるじゃないですかぁ」


 頬に右手をあてて首どころか体全体を傾げながら文句を言うナディアが可愛すぎる。我慢できずににやけてしまう。誤魔化すように2、3回瞬きしてから言う。


「できれば怒ってほしくないな。って言ったら、怒るかな?」

「……可愛いまで備えるのほんとずるい」

「え? あ、ありがとう……」


 急に可愛いとか言われた。ナディアに可愛いと前に言われたことはあるが、自分ではそう思わないし、何しろ可愛さを煮詰めたようなナディアに言われると照れくさすぎる。


「う……まぁ、別にですね、マスター。私、別に怒っているわけではないんですよ」

「え、そうだったんだ、よかった」


 今怒れなくなる、とか言ってたのは、怒っているし怒りたいのに怒れなくなると言うことでは? と思ったヴァイオレットだったがそこにはツッコまない。

 素直に微笑んでよかったと相槌をうつヴァイオレットに、ナディアは手を下ろして両手を合わせてもじもじしつつ、はにかむ。


「は、はい。そうなんです。だって、その。マスターが私にしたことは、私もマスターにしていいってことですもんね」

「ん、うん、もちろんだよ」


 殆ど反射で応えながら、え、もしかしてこれからおしっこを漏らすまで何かされるのでは? とヴァイオレットは汗がわいてくるのを感じる。もしナディアの趣味がそうだと言うなら、拒否はできないししたくないが、正直年上としてさすがに抵抗はある。


「じゃあ、掃除が終わったら、ゆっくりしましょうね」

「はい」


 今更だが掃除の途中であった。さすがナディア。ちゃんと本筋を忘れない有能さ。

 ヴァイオレットはどうなるのかと思いつつも、しっかりと掃除をした。ぴかぴかになるくらいにワックスもかけた。これでしばらく掃除はいらないくらいだ。


「ふぅ、お疲れさま、ナディア」

「はい。お疲れさまです。マスターのお陰でピカピカですね」


 片づけも終えていつもの席について並んでお茶を飲む。頑張った分疲労を感じるヴァイオレットだが、さすがのナディアは平然とお茶を用意してくれた。


「ナディアのおかげだよ。私一人だったらやらないもん。私は手伝っただけだよ」

「ふふ、謙虚なんですから。さて、じゃあ、マスター、足、だしてください」

「ん、ちょ、直球だね。ちょっと待ってね」


 わかっていたがストレートな要求に戸惑いつつ、ヴァイオレットはズボンのすそを折り返してさらに折り返してとめくっていき、生地が重なり分厚くなって膝下で止まった。


「ごめん、えっと、半ズボンに着替えてきてもいい?」


 いい年なので外出着の半ズボンはない。七分丈はあるが足元が狭まっていてより折り返しにくいはずだ。だが寝間着には夏用の半袖半ズボンがある。外ならともかく室内なので多少ちぐはぐで見た目が悪くても、ナディアの要望に応えるのが優先だろう。

 そんなヴァイオレットの提案に、ナディアは片手をあげてふって否定しかけて、はっとした顔になって上げかけた手を顎にあてる。


「あ、いえ……いえ、スカートに着替えましょう」

「え、いや、着替えましょうと言われても、スカート持ってないよ?」

「え!? 何でですか!?」

「えぇ、そんな驚かれても。スカート履いているの見せたことないでしょ」

「だから見たいんじゃないですか!」


 急に怒られた。さっきのですらはっきり怒らなかったのにここで怒るのか。若い子の沸点はわからないなぁ。とやや現実逃避をしてから、ヴァイオレットは頭を掻く。


「えーっと、じゃあ、買いに行こうか」

「! 私に選ばせていただけると、そういう事ですね!」

「い、いいけど、テンション高くないですか? 大丈夫? 落ち着いて?」

「大丈夫です、落ち着いてます。私はマスターを最高に可愛くします」


 え、やだ。と思ったが鼻息荒く瞳を輝かせてやる気に満ちているナディアを拒否できるはずがない。ヴァイオレットは頬をひきつらせながら、お手柔らかに、と力なくお願いするのが精いっぱいだった。


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