ナディア視点 告白とプレゼント
本日、ついにナディアはヴァイオレットに告白した。本当はナディアもヴァイオレットが最初にしてくれたみたいに、さらっと、なんでもないみたいに、当たり前みたいに言うつもりだった。
お互いに両思いで、お互いに結婚の意思があるのは明白なのだ。必要以上に不安になることもないのだから、と。だけど改まるどうしても気恥ずかしくて、結局土壇場に紛れて言い逃げする形で伝えた。
そんな意気地のないナディアと違い、ヴァイオレットはちゃんと告白しなおしてくれた。それもプレゼントをそえて。もう本当に、素敵としか言いようがない。何度目かわからないくらい惚れ直した。
その際に、ナディアにはよくわからないけど人間じゃないとか言われた。多少違って子供が産めなくても、そんなのは稀に病気とか虚弱で産めない人もいるらしいし、全然問題ないのに何を躊躇っていたのかわからない。
初めから大人とか寿命がわからないとか言われても、今こうして目の前にいるヴァイオレットがそのまま答えだ。今この瞬間、生きている。愛してくれている。そして何よりナディアが愛している。
五体満足でちゃんと働いて生活して、子供だってナディアに授けてくれることはできるのだ。それ以上に何が必要なのか、ナディアにはわからない。
むしろこんなに素敵で魅力的すぎる人が普通の人間だった方が驚きかも知れないので、やっぱり特別な人だったのか! という平凡な感想しか出てこない。
だから全く問題なかった。ただ問題があるとしたら、そもそもお嫁さんとして求められていたと言うのが勘違いだったと言うことだ。
最初から完全にヴァイオレットに求婚されている体で過ごして来た。好かれている前提で、焦らしたりもったいぶったり、拗ねたり文句を言ったりしてきた。そして好かれていると信じたからこそ、堂々と告白できた。
それが全部、勘違いだったのだ。ホムンクルスとかよくわかんないことより、この方がよっぽどナディアにとっては衝撃だった。
今日初めてその勘違いに気づいたと言うことだし、仕方ないとは思うけど、恥ずかしい。めちゃくちゃ恥ずかしい。絶対両想いと確信して告白して、プロポーズの返事はOKですよみたいに言って、プロポーズされてなかったのだ。こんなに恥ずかしいことが世にあるのか。
もちろんヴァイオレットは悪くない。悪いのは勘違いして伝えたルロイである。ヴァイオレットに失礼な態度とるし、もうあの人嫌い。
事実として両思いなのだし、必要以上に気にしても仕方ないし、気にすることでヴァイオレットも気に病むだろうから気にしないようにしたい。
そのようにするつもりだ。だけどこうして、寝る前の段になって、暗闇の中天井を見ると、どうしても羞恥の感情で叫びたくなる。
「っ、―――!!」
さっき散々叫んで発散したつもりだけど、勝手に脳内で今までのヴァイオレットとのやり取りが思い出されて、そのすべてが羞恥につながって、たまらずナディアは全力で口を押さえながらベットの上をごろごろした。
ああ、恥ずかしい。恥ずかしすぎる。今までの全部なかったことにしたい。
いやでもその今までがあったから、別に結婚するつもりじゃなかったヴァイオレットもナディアと同じ思いになってくれたわけだから、あれでよかったと言えばよかったのだけど。
そう、そもそもそんなつもりじゃなかったヴァイオレットとナディアが誤解の上で出会って両想いになっているのだから、むしろめちゃくちゃ強力な運命の力だと思うし、これはこれですごいと思う。
やっぱりナディアとヴァイオレットは結ばれる運命だったのだと、より強く確信できる。できるけど、やっぱり恥ずかしい。ナディアが勘違い女だから結ばれる運命ってちょっとひどくない? もちろん結果的にヴァイオレットと一緒に居られるのだから幸せには違いないけど、もうちょっとくらいしおらしいと言うか、素敵な物語的な流れでもいいじゃないか。勘違い女の話とか、物語で聞いたことない。
「う、うう……」
でも、と思うのだ。そんな勘違い女丸出しのナディアの今までの応答をもって、ヴァイオレットはナディアを好きになってくれたのだ。
今こうして両想いになったのだ。ならむしろ不幸中の幸い? あー、でも恥ずかしいには変わりない。
「……はぁ」
ヴァイオレットと正式に恋人になれて、もちろん幸せだ。だけどこうして羞恥に苛まれないよう、純粋に喜びだけを感じるには、もう少し時間が必要だ。
ナディアはそう思いながら、ベットでごろごろしながらそのまま朝を迎えた。
○
ヴァイオレットと二人きりで恋人として振る舞うと、どうしてもその間は幸せ過ぎて他のことを忘れるので、結果一人に戻るとやっぱり恥ずかしい……となってしまう。だけどその時間が長く続けばさすがになれていった。
そうしてナディアが落ち着いて、勘違い女だったけどしょうがない。それはそれでヴァイオレットと結ばれるために必要な流れだったのだと受け入れて、羞恥に苛まれないようになるまで3日を必要とした。
自身でも思ったより早く納得できた。なによりヴァイオレットと今までと変わらない日常を、恋人の距離で過ごしたのが大きい。
ヴァイオレットも仕事に復帰したので、顔を合わせているのは朝晩の間だけだけど、それがちょうどよく、考える時間やヴァイオレットの恋人としての自覚をする時間になってくれたのだ。
真面目にお仕事してくださいとお願いすると、またナディアがこの家にきた時みたいにしばらく集中してお仕事をしていた。
ナディアに合わせてお休みをとってくれるのも嬉しいけど、やっぱりヴァイオレットが休みを考えないほど熱中して真面目にお仕事をしている姿は格好良くて好きだ。それにお仕事が続くほど、お休みが嬉しいではないか。
そして2週間と少々。ヴァイオレットが毎日お仕事をしてから、今日は恋人になって最初の休日、すなわちいちゃいちゃできる日である。
こうしていちゃいちゃする日とそうでない日が決まっているのは、今考えてもメリハリがきいていてとてもいい制度だ。
と考えてからナディアはあれ? と首を傾げた。
最初からヴァイオレットがナディアを好きだと確信していたので違和感がなかったけど、そうではなかったならいちゃいちゃする日を決めているのってなんだかおかしいような?
そうなると休日とはいったいなんなのだろうか? と思ったナディアだったが、今はもう普通にいちゃいちゃする日なのだからいいだろう。きっと独り身にはのんびりする日で、好きな人がいたらアプローチする日なのだ。
おそらくヴァイオレットは求婚はしていなくても、最初からナディアを憎からず感じてくれていたので、無意識にアプローチはしてくれていたのだろう。そう考えるととても嬉しい。
全然違うのに結果は当たらずとも遠からずなことを考えながら、ナディアは今日の休日に思いを馳せる。
今日は最初の休日なのだから、ヴァイオレットにおかえしをすると決めている。ナディアにヴァイオレットのものという証をくれたのだから、その逆にヴァイオレットにも変な虫がつかないよう、ナディアの証を渡さなければ。
その為にちゃんとお店にお願いしておいたし、今日ちゃんとプレゼントしたい。そして初めてのデートの日にちゃんとこれからつけていきたい。
「どう? 似合う?」
「はい! よくお似合いです!」
お店でつけてもらったペンダントは、自分がもらったものとお揃いである。ヴァイオレットからもらっていたお給料では、残念ながら全く同じものは用意できなかった。
だけどそれはしょうがない。ヴァイオレットにはこれまでの財産があるが、ナディアはほぼ無一文でやってきたのだから。あくまでこれは最初のプレゼントであって結婚の証でもないので、多少の妥協はしょうがない。
大事なのはお互いにプレゼントしたものを身に着けているか否かだ。
ヴァイオレットはナディアの瞳を身に着けて、感激したようにやや瞳をうるませてはにかんでいる。
めちゃくちゃに可愛い。その姿を見て、一瞬、残念だな、と思ってしまった。
恋人になってから恥じらったり喜びで無邪気に微笑むヴァイオレットの可愛さを知る度に、少しずつその思いは募って行き、今この瞬間、ついに形となって自覚した。
そう、ナディアは今日のヴァイオレットが可愛すぎて、可愛いヴァイオレットを見ると自分の子供を産ませたいなと感じることを認めた。
自分が子供を産みたい側だったし、格好良くて素敵なヴァイオレットには産ませてもらえれば十分だと思っていた。
だけどヴァイオレットは恋人になると可愛い面をどんどんだしてくれて、ますます好きになって、同時にあんまり可愛いから、このヴァイオレットが自分の子供をお腹に宿したらいったいどんなに可愛い顔をしてくれるのかと、そんな気になってしまって、だけどヴァイオレットは子供を産めないので、残念だなと思ってしまった。
もちろん言葉にだすなんてことはしない。それを残念に思っているのは誰よりヴァイオレットだろうから。だけど、思ってしまうのもまた、しょうがない話だ。
大好きな人に子供を産ませてほしい。そう願っていた。そしてそれが叶う予定だ。それだけで幸せ過ぎる。だけどこんなにも人を好きになると、同時に産ませたくもなるのだと、ナディアは真に恋を知って愛を知り始めて知った。
残念だ。だけど、だからって他の人に産ませたってしょうがない。ヴァイオレットだからいいのだ。
とそこまで考えてから恥ずかしくなる。だって、産みたいとか産ませるとか、事実だけど、まだ結婚もしていないのに気が早すぎる。まだまだ恋人でいたいし、それに産む前にはまだ恥ずかしいこともするのに、こんな昼間から考えるのもやっぱり恥ずかしい。
だけどそう考えてしまうのもヴァイオレットが魅力的すぎるからで、そんな魅力的なヴァイオレットがナディアの恋人なのだと思うと誇らしくすらあった。
そんなことを考えながらお店を出て、ヴァイオレットと明日デートしてプレゼントしたものをお互いに身につけようと提案する。
もちろん了承してくれたヴァイオレットは、だけどその中身は何をするか尋ねてきた。ヴァイオレットがいれば幸せなナディアはもちろん、ノープランである。
「んー、悩みますねぇ。マスターとなら、何してたって楽しいですし」
「そうねぇ、私もナディアがいてくれるならなんでもいいけど、でもそれってデートの最低条件だしね」
ヴァイオレットの返事を聞いて、むむ、とナディアは眉をよせて真剣に考えてみる。
その通りだ。何したって楽しいし、何していたってデートには変わりない。だけどそれは当たり前のことで、そうであって当然のことだ。ならもっと最高のデートを目指したい。なんせ記念すべき、お互いがネックレスを身につけ合う最初のデートなのだから。
しかし考えても何も出てこない。そもそも今もヴァイオレットと一緒に歩いていて、すでに幸せでふわふわしてくるくらいなので、頭なんかまわるはずもない。普段からそんな回ってないけど。
そんなナディアに、ヴァイオレットは優しく微笑んでこう言ってくれた。
「それじゃあナディア、今日はナディアが予定を決めてくれたから、明日は私がナディアをエスコートさせてもらえるかな?」
きゅんっ、と胸が痛いくらい高鳴って一瞬言葉が出てこなくなった。
エスコート! なんて素敵な響きだろうか。格好いい。また惚れ直してしまった。はー、好き!! と大声を出しそうになってしまう。元からない語彙力がさらに低下する。
「マスター……はい。お任せしますね」
あまりに格好いいヴァイオレットに、あー! 好き!! マスターの子供産みたい!!! と言う思考で脳内が埋め尽くされたナディアは、ただ頷いてそう返すことしかできなかった。




