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告白

「ありがとうございます!」

「いえいえ。今後もご贔屓に」


 学び舎を後にして向かったのは仕事場、ではない。だいたい、ナディアとのこんな状態で、冷静に仕事なんてできるはずもない。

 悪いけど、今日も大事をとってお休みと言うことで。こういうところ、本当に宮廷魔法使いって融通がきいていて最高だ。


 と言う訳で、ヴァイオレットは宝石店に来ていた。恋人になるとなれば、今までと違った関係になるのだ。こういったものは視覚的にもわかりやすいし、ヴァイオレットとしてはナディアから告白されたようなものだ。それを取り返すためにもわかりやすさで表明したい。今まで以上に思っていると。


 それと、ナディアはヴァイオレットが最初からナディアに求婚していたことになっているのだ。その曲がった時空を現実にするため、事前にこういった品を用意していたと言うことにするのが手っ取り早いアリバイ工作になるだろう。


 ちなみに現実的には、時空を曲げて今日中にナディア用の装飾品を仕上げてもらうためには、現金の力でなんとかしてもらった。高級宝石店の専属職人に、他の依頼に割り込んで今すぐ仕事をさせるのは並大抵のことでないが、幸いヴァイオレットの財力は並ではなく、ナディアへの愛も並ではなかった。

 と言うわけで笑顔の店員に見送られ、ヴァイオレットはナディアへのプレゼントを手に家路へと急ぐ。


 本当なら指輪が良かったのだけど、指輪となるとシビアなサイズ調整が求められる。さすがにサイズを目視で当てる特技があったりはしないし、まだ小柄なナディアだ。今後手が大きくならないとも限らない。

 ここはおとなしく、割り込めば夕方までに対応してもらえるネックレスにした。これなら宝石とデザイン、素材などを指定すれば、既存のものを組み合わせて長さ等を調整し、仕上げてもらうだけなので、小一時間ほどでしてもらえた。


「ただいまー」


 駆け込みたい気持ちはあれど、慌てた姿を見せるのは格好悪い。ナディアには格好よく見られたいので、ご機嫌な気持ちを味わうようにのんびり歩いて家のドアを開けた。


「おかえりなさい! マスター!」


 いつものような駆け足で、いつもよりも元気な声で迎えてくれたナディアはニコニコ笑顔で、とてつもなく可愛い。

 もちろんナディアは今までもずっといつでも可愛かったのだけど、でもこう、恋愛感情としてみても許されて向こうも恋愛感情として見てくれているのだと思うと、なおさら可愛い。輝いている。きらきら眩しい笑顔で目がくらみそうだ。


「ただいま、ナディア、可愛い、あ、違うごめん。いや違わないけど」

「う、げ、玄関先で何言ってるんですか。早くはいってください」

「はい」


 玄関扉を閉め、靴を脱いで室内履きに履き替える。下を向いた顔を上げると、ナディアの照れて赤くなった顔と目がある。にこっと微笑んで、ナディアはふふふと声をあげながら左手で口元を隠して、右手をあげてヴァイオレットの肩をつんとついた。


「もう、もう、マスターったら。あんまりお外で恥ずかしいこと言わないでくださいよ。うふふ。私のこと、大好きなのはわかってますけどー、ふふふ」

「う、うん。ごめんね。つい」


 朝は思い切り玄関をあけたまま告白してきた気がするけど、まぁ、可愛いから仕方ない。

 と言うかなんだその動きは。腕の付け根をつついてくるとか遠慮がちで可愛すぎるし、恥ずかしいのか口元隠しているのも可愛いし、言ってる内容も得意げで可愛い。可愛さが溢れている。

 でもまだだ。勢いでネックレスも作ってもらって、待っている間に考えたのだけど、まだ、改めて言わなければならないことがある。ナディアがちゃんと改めて告白してくれたのだ。ならヴァイオレットもちゃんと、筋を通さないといけない。だけどそれも、とりあえず玄関先で言うことではない。


「ナディア、朝は勇気を出して言ってくれてありがとう。私からも改めて話したいことがあるんだけど、夕食の前にいいかな?」

「ん? はい、もちろんです。メインは燻製肉のスープなので、煮込むほど美味しくなりますからね。いくらでもお話し聞きますよ!」


 すでにいい想像しかしていないのか、めちゃくちゃいい笑顔である。

 可愛い。胸が苦しいくらいだ。こんなに可愛い子が自分を好きでいてくれるとか、もしかしてこの世界はきっと早めに死んだ前世の幸福を取り戻すためのボーナスステージだったのかもしれない。などと馬鹿なことを考えながら、ヴァイオレットはいったん自室に行き、何の意味もなかった荷物を置く。

 そしてプレゼントだけは持って、手洗いをすませてからダイニングに向かう。もちろん、ここではプレゼントを隠しておく。


「お待たせ」

「はい。先に飲み物だけ用意しました。お疲れですよね。まずはゆっくりしてください」

「ありがとう、ナディア」


 めちゃくちゃいい子。今更だけどそのことに感動しながら席につくと、いつもは向かいの席が定位置なのに、ナディアは何故か隣に座った。


「ん?」

「?」


 四人掛けテーブル席なので、隣と言っても椅子を移動させる必要もなくスペースも問題ないとは言え、今までずっと向かい合っていたのに、何故? と首を傾げるヴァイオレットに、顔を合わせたナディアも首を傾げる。


「もしかしてこれから隣に座って行く感じ?」

「あ、はい。その方がマスターと近くていいなって思ったんですけど、駄目でした?」


 はにかんで上目遣いに、ちょっと不安そうにするナディアに、思わずヴァイオレットは体に力がみなぎってきて、右手でナディアの肩をそっとつかむ。


「駄目な訳ないよ。でも、向かい合うのも、ナディアの顔がよく見えていいかなって思っただけで。隣の方がナディアの存在が感じられて、これはこれでいいよね。ごめんね、気をつかわせて」

「そんな。気を、とか、そんなんじゃなくて、私がマスターの傍にいたいだけですから」

「ナディア…う、あの、そう、話、話をしてもいいでしょうか?」

「あ、はい。そうですね。お願いします」


 もう可愛すぎて、告白して抱きしめたくなったのを、気合で我慢する。正式に恋人になる前に、通すべき筋があるだろう。


 ヴァイオレットはナディアの肩から手を離して、椅子を引いてナディアに向かい合うように座りなおす。ナディアも真面目な話と察したようで、座りなおした。膝がぶつかりそうな距離だ。スカートなので膝が出ている。

 眩しい膝がしらに目を奪われないように、ナディアを見つめたまま話し出す。


「実は私は、普通の人間ではないんだ」

「? 魅力的すぎる人間、と言うことですか?」

「うーん、ちょっと待って、説明しなおす」


 正直に言うと、どこから話し始めるべきかつかみかねていた。ルロイだから、ホムンクルスと言って通じるが、実現化していない論文上だけで使われている単語だ。ナディアに限らず一般の人間は把握していないだろう。

 恋人関係になる前に絶対に言うべきだと思うのは、普通の人間ではなく寿命も不明と言うことだ。しかしそれを言うには、込み入ったことが多すぎる。なのでまず直接的に普通の人間ではないと言ったのだけど、さすがに直接的すぎたらしい。全く通じていない。

 そもそもルロイだから異様な理解力で前世とか別の世界とかも信じてくれたが、ナディアにまずその概念を理解してもらえるのだろうか。あれ、これもしかしてめちゃくちゃ難しい。


「私はある錬金術師につくられた、普通のお腹から生まれるんじゃなくて、ガラス管の中から生まれた人間なんだ」

「れんきんじゅつし……ガラス管……普通の人間じゃないって言うのは、なにか違うんですか?」

「うん、私には子供をつくるための機能がないんだ。普通体内に、子供を育てる部屋があるでしょ? それがなくて、あとおっぱいをあげる機能もないんだ」

「なるほど。他にはなんですか?」

「え、ああ。赤ん坊時代って言うのがなくて、生まれた時からこの姿なんだ。だから老化とかしているのか、寿命がどのくらいなのかとか全然わからないんだ」

「……なるほど」


 ナディアは神妙な顔で頷き、眉をよせている。そして口元を左手で覆った。


「ごめんね、ナディア。本当は、家族になりたいならもっと早く言うべきだったよね」


 恋愛感情を自覚したのは先日だ。それは間違いない。だけどそれでも、最初から可愛くてたまらなかったし、最初から家族にとは思っていたのだ。もちろん誰彼構わず言える内容ではないけど、それでももう少し早く、ナディアが信頼できると思った時点で伝えるべきであった。


「ずるくて、ごめん。だけど、ナディアのことが本当に好きなんだ。愛してる。ずっと一緒にいてほしい。こんな私でよかったら……いや、こんな私だけど、改めて、恋人になってください」

「はい!」


 真剣に言った。そして返事はイエスだったのだから、嬉しい。嬉しいのだけど、若干食い気味に返事をされたので驚いてぽかんとした顔になったヴァイオレット。


「あ、ありがとう。でも、ちょっと、返事早くない? 大丈夫? ちゃんと考えてくれていいんだよ? 待つよ?」

「え、はい。だって別に、人間じゃないとか言われてびっくりしましたけど、魔力はあるんですし、別に問題なくないですか? 私の魔力が少なかったら、別にマスターは子供出来ない訳ですし、なんにもかわりませんよね」

「え、まあ、でもほら、寿命とか」

「それはでも、別に、みんな長生きのエルフですけど、事故で死ぬとかはありますし、寿命が長いから安心とかでもないんですから、どうでもよくないですか?」


 なんか、すごい、雑な解答だった。ナディアだったら受け入れてくれるかな? とは思ってはいたけど、それでも心の隅には、もしこれで引かれたり、そんなわけのわからない人は無理、とか言われる可能性もあるとは覚悟していたのだけど。

 いやいや。そんなことが些事になるくらい、ヴァイオレットの全てを受けいれてくれていると言うことではないか。素直に喜ぼう。


「そっか。ありがとう、ナディア。じゃあ、改めて、大好きだよ」

「うふ、ふふふ。ありがとうございます。私も、大好きですっ」


 赤くなりながらも、ナディアにとってはヴァイオレットの好意はバレバレだったのかすんなり受け入れられ、そう笑顔で応えてくれた。

 ヴァイオレットもわかってはいても、改めて大好きと言われると嬉しくってドキドキしてしまう。


「……ぇへへ、ありがとう。すごい、嬉しくて、あはは、ごめん。そうそう、これ、よかったら。ナディアに、恋人になってくれたお礼、って言ったら変だけど。記念と言うか。ナディアに贈りたくて。もらってほしい」


 そしてぐだぐだなまま、プレゼントを差し出す。差し出してから、もっとスマートに渡したかったのに、と後悔したけど、どうしようもない。

 この世界に生まれてから初めての恋、初めての恋人に、完全に舞い上がっているのを自分でも自覚していたけど、どうしようもない。ふわふわした多幸感に包まれて、浮き上がってしまいそうだ。


「! ありがとうございます! 嬉しいです。じゃあ私も今度用意しますね! わー、開けてもいいですか?」

「うん。開けてみて」


 ナディアはゆっくりした手つきで受け取り、ヴァイオレットにお伺いをたててからわくわくした瞳でそっと開いた。


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