第六十一頁『聖夜にふたり』(後編)
12月24日。世間一般にはクリスマス・イブと言った方が通りが良いであろう今日。
僕は商店街のファーストフード店で人を待っていた。
窓から外を見やれば、誰もかれもが楽しげに街を行き交っている……ように見える。
年の瀬も合わさってか、なんだか雰囲気が浮き足立っているようにも感じられた。
店内を見やれば、カップルやら友達グループといった複数人で来ている人ばかりだ。
―――いや、僕だって今日は一人じゃない。まだ待ってるだけだ。
いつぞやの時とは違うのだ。
……言い訳じゃない、念のため。
後、店員はサンタの帽子をかぶっている。
こんな日までご苦労様です。
などと、どうでもいい人間観察をしている内に、僕の待ち人―――茜ちゃんが店内に入ってきた。
そう、今日は茜ちゃんと明日のプレゼント選びをする約束をしていたのだ。
(呼んだまではよかったけど、まさか24日になるとは……)
別に狙ってクリスマス・イブに約束したわけじゃない。
商店街でやたら知り合いに遭遇したあの日、帰ってから茜ちゃんに電話をするまでは割とすぐだったが、
問題はその後だ。
いや、問題ってほどでもないけど。
単純な話、プレゼント選びに行こうにもなんだかんだと二人の予定が合わず、
結局パーティーの前日、つまり今日のクリスマス・イブまで引っ張るハメになってしまったのだ。
それから、今日にしたって茜ちゃんは午前中に家の用事があるってことで、昼にこの店で待ち合わせってことになってしまった。
別に隣同士なんだから、家から一緒に行けば良いにも関わらず、である。
なんでも出先から直接向かうからってことらしいけど。
……別にデートってワケじゃないけど、待ち合わせはまんまデートのそれだな。
今さら、そういうのじゃないって強く否定もしないけどさ。
なんて、ここまでのいきさつを振り返っている内に、僕を見つけた茜ちゃんが席までやってきた。
「ごめーん、待ったよね?」
「いーえ、僕も今来たところだから」
「……なんで棒読み?」
『まともに返すとコッテコテのやりとりになっちゃうのに照れたから』
などとは言えるはずもなく。
お茶を濁しておいた。
というか茜ちゃんは無意識って言ってるのか?
「いやなんでも……。
とりあえず、なんか食べよっか」
「うん。
あたし、お腹すいちゃったよ」
ホットコーヒー一杯で粘るのにも色んな意味で限界を感じ始めていた頃だ。
茜ちゃんの到着はある意味でいいタイミングだったかもしれない。
とりあえず、注文の列に二人で並ぶ。
「てっきりSeasonで待ち合わせしようとかって言うかと思ったけど。
珍しいね?」
「こっちも使わないわけじゃないんだけど……Seasonは先週も行ったしね」
「あー、ぼっちで商店街をぶらぶらしてたって話?」
「だからぼっちじゃないって! って言うか、なんでその話知ってるの?」
「こないだ、たまたま空木さんと喋った時に聞いた。
後、翔子と圭輔にも会ったんでしょ?」
まあ、あれだけ知り合いに遭遇しまくってればどこからでも話は伝わるか。
茜ちゃんとは、交友範囲の重なりも大きいし。
別に隠してたわけじゃないが。
「って言うかアンタ、一人でぶらぶらするぐらいなら、あたしにも声かけてくれればよかったのに」
「あー、いやまあ、ホントは軽く立ち読みしてプレゼント選びはそこそこにってつもりだったんだよ」
「その割には、あやのちゃん達とカラオケまで行ったんでしょ?
がっつり遊んでんじゃない」
「そこは流れというか、色々ありまして」
「色々、ねぇ……」
茜ちゃんはずいぶんと訝しげな視線をこちらに向けている。
とは言え、あやのもだけど、愛美ちゃんの頼みは無下にはできないよなぁ。
それに、色々あってという理由もあながち間違いでもない。
色々と言い訳をつけて誘わなかったのも、本当のところだからだ。
そんなこんなやってる内に、僕らの注文の番がやってきて、ほどなくして品物が出てきた。
流石にお手軽というか早い。
………
………………
「Seasonもいいけど、こっちはこっちで悪くないよねー」
「そうだね―――こっちには明先輩もいないし」
「……また何かやらかしたの?」
「僕は何もやってないって!
むしろエライ目にあったというか、被害者というか……」
かいつまんで、文化部三人娘&明先輩とSeasonで遭遇した時の話をする。
怜奈ちゃんが何をどう話していたかは知らないが、茜ちゃんはふむふむとうなずいていた。
「なるほどねー。
まあ、いつも通りの章って言えばそんな気もするけど」
残念ながら返す言葉が無い。
あの辺の顔ぶれにはいつも上手い具合にやり込められてる気がする。
「そういえば、明先輩と川科さんってそんなに仲良いんだ?」
「新聞部の取材とかで仲良くなったりとかしてるみたい。
優子ちゃん、何気につばさちゃんとも仲良いし、交友範囲広いみたいだからね」
「へぇー、さすがは新聞部部長って感じ?」
「……そういうことにしとこうか」
良いとらえ方をすればそうとも取れるが。
いかんせん、明先輩との絡みはめんどくさい化学反応が起こるというか……。
先週のSeasonでの一件はその最たるものだし。
とは言え、あえて口にはすまい。
言葉にしたら本当になりそうなのも恐ろしいところだ。
「って言うか、交友範囲の広さで言ったら、今の章も中々のものだと思うけど?」
「そうかな?」
自分ではあまり意識したことはなかったが。
「そうだって。2年生になったぐらいの時は、それこそあたし達以外と喋ってるのはあんまり見たことなかったけど。
いつの間にかというか、急に色んなところで友達作ってるみたいだし」
「まあ、生徒会もあったし。そこで新しく知り合ったというか、仲良くなった人は多いかな?
後はあやのの友達ってことで仲良くなったりとか……確かに、友達が増えたってのはそうかも」
「……しかも女の子ばっかりだし?」
「いやいやいや」
ちゃんと吉澤たち三人とか、男友達も増えてるからね?
「たまたまだって、たまたま。
ちょっと機会が重なったり、成り行きで色々あったりはしたけどさ」
「じゃあ、アンタは成り行きで演劇部の助っ人したり、
ワケの分からない化け物と夜の校舎で戦ったり、
アイドル声優の歌のレッスンに付き合ったりするわけ?」
「それはその……」
成り行きってのも、当たらずとも遠からず。
って言っても、最終的に首を突っ込んでいったのは自分の選択だったから、
完全に成り行きまかせかと言えば、そんなこともなく。
「別に、アンタがどこで誰と仲良くしてようと、あたしは気にしないけどね。
でも、これでもアンタとは仲良くしてるつもりなんだから」
「茜ちゃん……」
「だから、悩んでたりとか、大変なことがあったら話してほしいし―――
それになにより、心配だってしたんだからね!
特に、西園寺さんの時なんか夜の校舎に行ったりとか、ケガでもしたらどうするつもりだったの!?」
「あっ……ご、ごめん章。
別に怒ってるわけじゃなくて……」
「…………」
いつの間にか、茜ちゃんに想像以上に心配もかけてたみたいだ。
余計な事を言って心配をかけまいと思っていたけど、むしろ逆だったようで。
そりゃそうだ。
僕だって逆の立場だったら、ちゃんと話してほしいし、何も言わないでいられたら心配だってする。
そして、それに気づいたなら、茜ちゃんに対して見せられる誠意は一つだ。
「茜ちゃん―――心配かけてごめん。
それから、色んなこと、黙っててごめん」
正直に謝ること。
もちろん、しっかり頭を下げて、だ。
「ちょっ、ちょっと章!? 急にどうしたの!?」
「今になってじゃ遅いかもしれないけど、でも今からでもできることって言ったら、
これくらいしか思いつかなかったから……だから、ごめん」
「いや、そういうこと言ってるんじゃなくて……あーもう! 顔上げてってば! 恥ずかしいんだから!」
茜ちゃんの言葉に顔を上げると、その顔は少し赤くなっているような気がした。
幸いというか、周りの客も店員も僕らのやりとりなんて気にも留めていない風だったけど……
そういう問題じゃないんだろうな、多分。
「……アンタって、ほんとバカ」
「えー?」
「たとえ今になってでも、そんな風に謝られたら、なにも言えないじゃない」
「言えない事情があったりとかしたもの確かだけど、悪いってのはずっと思ってたから。
心配かけてたのも、感じてはいたし」
実際、節目節目で茜ちゃんからそういう言葉もあったわけだし。
「あー、生意気言っちゃって」
「あはは……」
どうやら、茜ちゃんもいつもの調子に戻ったみたいだ。
謝ってばっかりより、これくらいの方がお互いやりやすい。
「でもさ、そうやって誰かのために一生懸命になれるのが、章の良いところだってあたしは思ってるから。
色々と黙ってたのも、きっと悪気はないんだろうし。ちゃんと後で話してもくれたし。
だからね、こうやって怒るのがわがままっていうのも、自分で分かってるんだ」
「そう言ってもらえると、救われるよ」
「……まあ、さっきは別に気にしないって言ったけど、やっぱり女の子と仲良くしてるのが気にならないって言ったらウソになるし―――」
「ん? なにか言った?」
「なんでもなーい!
とにかく! 今後は何かに首突っ込んでもいいけど、なんか困ったことがあったらちゃんと頼りなさいよ?
力にはなれないかもしれないけど……でも、一人で抱え込むより、よっぽどいいと思うし、ね」
「分かったよ。
ありがとう、茜ちゃん」
茜ちゃんの素直な心遣いに、こちらも自然とお礼の言葉が出た。
なんだか、長い間引っかかっていたことにようやくケリがついた気がした。
「―――なんて、こんな話を今さらするのも、なんか変な感じだね」
「変って?」
「なんか、最近バタバタしてたじゃない? まあ、主に章の方がだけど。
例えば、あたしがソフト部のキャプテンになったのも、言ったような言ってないようなって感じになっちゃったくらいに」
そういえばそんなこともあったな。
大事というか、話題性の高いトピックの割に、しっかり聞いたのは結構後になってからだし。
「今までだったら、なんだかんだでこうやって色んな事、ゆっくり話す時間もあったけど、
最近だとそれもなかったし……前なら、今さらになるまでに、どこかでこういう話もできてたのかなって」
「それはまあ……そうかも」
「これから、こんな風にお互いどんどん忙しくなったりしたら、もっとこういう時間も減っちゃうのかな?」
「うーん……」
確かに、こうも立て続けに色んなことが起こるなんて、今までなかったもんな。
毎日顔を合わせてはいるものの、ちょっと立ち入った話というか、ゆっくり話す時間はしばらくなかった。
これからのことは分からない部分もあるけど、確かにこんな感じの状態が続けば二人で過ごす時間は減りそうだ。
「そうなったら、あたしは……ちょっと、寂しいかな」
「寂しい……か」
「なによー、アンタはなにも思わないわけ?」
「いやいや、そうじゃなくってさ。
もちろん、僕だって寂しいよ。
寂しいからさ、だから、今まで以上に、こういう時間を大切にしなきゃなって思って」
「なんかそこまで大げさに言われると、堅苦しい気がしなくもないけど……」
「そ、そうかな?」
割と正直な気持ちなんだけどな。
「まあでも、章の言う通りだと思う。
高校生活も、もう折り返し地点すぎちゃってるし。
後悔の無いようにしなきゃね」
そう言って、茜ちゃんは笑った。
願わくば、折り返しを越えて終わりまで、二人で笑っていたいものだ。
―――後悔のないように、な。
どっかの誰かに言われたからじゃない。
本当にそうしたいと思うから、そうすることにしよう。
「それじゃさ、早速この貴重な時間を有意義なものにするためにも、
そろそろ真剣にプレゼント探し、しよっか」
「了解。アドバイスよろしく茜ちゃん」
「まっかせなさい」
ずいぶんと色々な……それこそ、ちょっと立ち入った話もしたけど。
最後は穏やかな雰囲気で店を出た。
さて、まずは目の前の差し迫った問題から。
ふたりで大いに悩むとしますか。
………
………………
その後は、工藤の案に乗っかる形で茶碗を始めとした和食器を真剣に検討したり。
……検討したところで茜ちゃんには一蹴されてしまったが。
適当な雑貨屋に入ったり。
なぜかゲーセンで寄り道などをしつつ、ゆっくりと過ごした。
本気でプレゼントを選んでいるのかと問われれば微妙なところもあるが。
とは言え、こうしてるのは楽しいから、細かいことは気にしないでおこう。
と、そんなこんなと街に溢れるカップルたちに混じりながら店を渡っていく内に、
本日のド本命の店にやってきた。
前に一人でぶらぶらしてた時には入るのをためらった店、ファンシーショップである。
ファンシーショップといっても、そうコテコテでもなく、雑貨屋と括ってもそう無理はないんだけど、
いかんせん女性客が多いもので、どうにも入り辛かったんだよな。
茜ちゃんとは前に何度か来たこともある。
というか、なんとなく最終的にはここに落ち着くんだろうなって気がしていた。
だからこそ、寄り道ばかりでもさして慌てずにいられたのだ。
「結局、ここに来ちゃったね」
どうやら、茜ちゃんもこうなる予感はあったらしい。
こんなことをのたまっている。
「そこは、頼れるものはいつもの店の安心感ということで」
「それもそっか」
言っておいてナンだが、茜ちゃんも思わず納得の安心感である。
そもそも、茜ちゃんと二人で、かつ島の中で何か目新しいことをする方が難しいかもしれない。
「それで章、大体どんなもの買うかは目星つけてるの?」
「うーん……とりあえず、実用品にしようかなぁって。
食べ物とかも悪くはないんだろうけど、せっかくだし何か形に残るものかな」
「なるほど。それだったら、そうね―――」
―――と、こんな感じで二人で選んだり別れてそれぞれに選んだりしながら、店内を物色した。
茜ちゃんの方はもう何を買うのか考えがあったようで、何やら個人の物を見てたりもしてたようだけど。
「こういうのって、自分がもらって嬉しいものを贈るのが一番良いっていうよね」
「あー、よく聞くわね、それ。
でも、章ってあんまり物欲ないし、けっこう難しいんじゃない?」
「物欲がないわけじゃないとは思うんだけど……まあ、確かに。
逆に、何をもらっても嬉しいってのもあるし」
「そういうところ、ある意味で楽というか、逆に甲斐がないというか……」
そう言われてもな。
プレゼントってのは、相手が自分のことを考えて贈ってくれるものってことで。
その、自分のことを考えてくれてるって事実が嬉しいんだよな。
「でも、とりあえずとんでもない物を選んだりはしなさそうで安心した。
変なの選んだら止めるつもりで来たけど、ちゃんと考えてるみたいだし」
「圭輔や光たちしかいないとかならともかく、他のみんなもいるのにネタに走るほどの芸人魂はないっての」
「あえてネタに走らなくても、時々微妙なチョイスになるでしょ、アンタの場合。
なーんか時たまズレてることがあるし」
「……ひどい」
いったい普段からどう思われてるんだ。
僕としては、大概の事はいたって真面目にやってるつもりなんだけどな。
―――などと、お互いに平和なやりとりをしつつ。
特に問題もなくプレゼントも決まった。
結局、僕が選んだのはマグカップ。
定番と言えば定番だけど、我ながら間違いのないチョイスだと思う。
それに、自分がもらってうれしいという条件(?)にも当てはまっている。
根っからのコーヒー党としては、毎日使うものをもらえるってのは素直に喜ばしいもんだ。
ちなみに茜ちゃんは買ったものを教えてくれなかった。
曰く―――
『当日のお楽しみ♪』
とのことだ。
まあ、プレゼント交換って本来はそういう趣旨のものだしな。
そういうわけで、僕も何を買ったかは黙っておいた。
そんなこんなで、ここしばらく、頭を悩ませるとまでいかずとも、
気にはかかっていたプレゼント選びも無事に終わった。
長い時間をかけて悩んだわけでもないが、本命以外も物色してた上に、元より日が短い冬の日。
プレゼントを買って店の外に出た時には、既に辺りは真っ暗だった。
………
………………
茜ちゃんとふたり、商店街から家までの道のりを並んで歩く。
「12月24日だからって、特別なこと、なにも起きないね」
「そうだね……」
空を見上げながら、茜ちゃんがそんな事を言う。
つられて、僕も視線を上にやる。
冬空を見上げて、特別なこと……と言えば、恐らく雪のことを言ってるんだろう。
だが、志木ノ島は本日快晴なり。
ホワイトクリスマスでロマンチックに、などとは望むべくもない。
もっとも、代わりと言っては失礼だけど、眼前には満天の星空が広がっていた。
冬の澄んだ空気で、星々も一層輝いてるような気がする。
これはこれでアリじゃないだろうか。
茜ちゃんも似たようなことを思っているのだろうか。
残念がる言葉の割に、表情はずいぶんと楽しげだった。
「章も、ね」
「ん? どういうこと?」
「章も、いつも通りだったね。
クリスマスだからって、ちょっとカッコつけたりとか、そういうのないもんね。
そういうのも、章らしいけど」
「あはは……それって褒められてるのかな?」
「褒めてる褒めてる♪」
確かに、クリスマスらしいことなんて何一つしちゃいない。
昼はファーストフードで簡単に済ませてるし、プレゼントを探して入った店だって、
よく行くとまでいかなくても、一度は入ったことのあるところばかりだった。
良くも悪くも、いつも通りにふたりで過ごしたといえる。
「でもさ、ホントに今日は楽しかったよ。
さっきも話したけど、こういう時間も久しぶりだったから。
いつぶりだろ……もしかして、なんだかんだ修学旅行の時くらい以来?」
「そんなに最近しゃべってなかったっけ?」
「もちろん、毎朝会ってるんだし、クラスも一緒なんだし、会話がないわけじゃないんだけど。
でも、ふたりでゆっくりってなると、それくらいじゃない?」
「修学旅行の時か―――」
修学旅行にしても、基本的に部屋だったり班行動だったりしたから、
茜ちゃんとふたりでいた時といえば、いつだったかの夜に、部屋から逃げて旅館のロビーでばったり会った時か。
あの時だって、のんびりと世間話をしたわけじゃなかったけど。
……立ち入った話って意味では、確かにこの上なくそういう話だったか。
(あの時、茜ちゃんは好きな人がいるって、はっきり言ったんだったな)
いるかも、などとお茶を濁した僕とは対照的に、迷いなく言い切ったのをはっきり覚えてる。
―――今の僕なら、なんて答えるだろうか?
それは、実際にその場面になってみないと分からない。
そんな気がする。
「みんなといるのも楽しいけど、たまにはアンタとふたりでってのも、良いよね」
「……そうだね。何だかんだ安心するっていうか、収まりが良いっていうか、ね」
「うん……たぶん、そんな感じ」
茜ちゃんがどういう思いでこんなことを言ったのかは分からないが。
言葉を額面通り受け取るのならば、僕も同じことを考えていた。
いつでも近くにいて、心配かけたりかけられたり……後者は少ないかもしれないけど。
そうやってお互いを思いやって、その温かさを感じられるこの距離が。
僕にとってはとても心地いいものに思えた。
だからというわけではないけれど。
「そうだ。
茜ちゃん、忘れないうちに……」
「ん?」
「これ、今日のお礼ってことで」
そう言って、最後の店で買っておいたもう一つの包みを渡す。
別れて店内を物色していた時に、こっそり準備していたのだ。
「章、こんなのいつの間に……っていうか、お礼なんていいのに」
「いやまあ、なんだかんだ一日つきあってもらっちゃったしさ。
まあ、そう固く考えずに、受け取っておいてよ」
「そっか……うん、ありがと。
開けてみていい?」
その言葉にうなずくと、それを待っていたみたいに茜ちゃんが包装を開ける。
「―――イルカにサンタの帽子って……あははは!」
「そっ、そんなに笑うところかなぁ?」
おっしゃる通り、サンタ帽をかぶったイルカのストラップっていう品物なんだが……。
割と真剣に選んだから、まさかこんなに笑われるとは。
「いやあ、やっぱアンタのセンスは微妙だわ。
あたしがついてきて正解だったみたいね」
「そこまでなの!?
一応、色々考えて……茜ちゃん、可愛いもの割と好きっぽいし、
確か前に部屋でイルカの大きいぬいぐるみ見た気がするから、好きなのかなーって思って」
「確かにイルカは好きだけどねー。
なんていうか、こういう海の、それもあったかいところにいるイメージの生き物に、
真冬で寒い時期のサンタの衣装ってのがなんかミスマッチでおかしくて」
まっ、まあ言われてみればそんな気もしてきた……。
真夏にサンタがサーフボードでやってくるオーストラリア辺りなら、ポピュラーなのかもしれないが。
残念ながら(?)ここは日本だ。
「でも、アリガト。
色々と考えてくれたんだもんね?
その……大事にするね」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「それじゃ、あたしからも。
はい、お返し」
「へ?」
そう言って茜ちゃんからも同じ店の包みが差し出される。
どうも僕が開ける流れを感じたので、それに乗っかることにした。
「雪だるまのストラップ……。
って、携帯は持ってないんだって!」
「あはは、そうだったね。
ごめんごめん」
「いやまあ、キーホルダー代わりでもなんでも使えるからいいけどさ……。
それより、お返しって?」
誘ったのは僕であって、茜ちゃんから何かもらえるようなこともしていないと思うんだけど……。
「実はあたしも、プレゼントどうしようかなって思ってたクチだったしさ。
だから、章から誘われなかったら、多分こっちから誘ってたと思うし。
ほら、一人で選ぶっていうのも、なんだか……ね?」
「それは、まあ……それで先週は商店街ぶらぶらしてる内に終わっちゃったわけだし」
「でしょ? だからさ、あたしも章につきあってもらっちゃったようなものだし。
だから、お返しっていうか、こっちからもお礼」
「そっか……ありがとう、茜ちゃん。
僕も、大事にするよ」
雪だるまなら、夏でも……まあ、涼しげに見えていいかもしれない。
「―――ふたりだけのプレゼント交換だね?」
「そうだね」
なんて、涼しげに返してみたが。
不意打ちみたいな茜ちゃんのセリフに、内心少しドキッとしていた。
そんな様子が伝わってしまったのかどうなのか、茜ちゃんはクスリと笑うと。
「また、ふたりで何かしよっか?」
こんなことを言った。
聖夜にふたり。
いつでもそこにあったようで、実は久しぶりだった、そんな時間。
クリスマス・イブだからと特別なことは起こらなかったけど。
隣に茜ちゃんがいて、穏やかな時間を過ごす、ただそんな日常の風景が、今は尊く感じられた。
自惚れでなければ、茜ちゃんも今日は楽しんでいた……とはまた違う感覚かもしれないが。
でも、今日のこの時間を、僕と同じように感じてくれてたんだと思う。
いつか、もしかしたらそう遠くない将来に、茜ちゃんが言ったみたいにこんな時間も少なくなっていくのかもしれない。
でも、こうして過ごす時間を、決してゼロにはしたくないと、そんな事を思った。
だから、茜ちゃんの誘いの言葉にうなずいて。
そして、今日の余韻を惜しむように、ふたり並んで、ゆっくりと歩き始めたのだった―――
作者より……
ども~作者です♪
Life第六十一頁、いかがだったでしょうか?
ということで、クリスマス編はこれにて完結です。
クリスマス編っていうよりはまるで茜編でしたが(笑)
まあ、3つの話を通して見ればオールスターということで一つ。
さて、次回からは最後の個別エピソードになります。
章にとって、茜と同じくらい、あるいは彼女以上に身近なあの娘のエピソードになります。
期待し過ぎない程度に期待してお待ちください。
それではまた次回☆




