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第三十五頁「夏の終わりに」

 ―――ドーンドーン! ドドドン!!


 『白組のぉーーー必勝ねがってぇーーー―――』




 グラウンドから響いてくる、太鼓の音と野太い応援団長の声。

 生徒会室にいても、応援練習の様子がありありと見えるようだ。


 ……相手方の応援だけど。

 確か僕らの2−Aは赤組だったはず。

 前に出場種目か何かを決めた時に、そうだった覚えがある。


 この暑い中大変だな―――ってコメントしたいところだけど。

 応援でも点数がつくし、暑いとかなんとか言ってられないんだろう。

 時期的にも追い込みだし、熱が入るのも当然だよな。


 他にも女子のチアリーディングやらなんやら、点数がつく種目は色々あるせいか、

 道行くほとんどの人の目は血走ってる。

 文化祭にせよ、クラスの出し物での売り上げだってあるし、似たようなもんだ。

 志木高の生徒は元々お祭り好きなところがあるせいか、全校が熱くなってる感じ。


 個人的には去年は一年だったし、あんまり積極的に参加しなかったのもあって、そこまで盛り上がった記憶はない。

 けど、今年はむしろ逆に近い。


 自分で言うのも変かもしれないけど、今年は色んなことに頑張ろうって気になれてる気がする。

 それは立場の問題とかが関係してるのかもしれないけど―――。

 ……やっぱり大きいのは、今年は作り手側に回ってるってことかな?


 生徒会然り、新聞部然り、漫研然り―――。

 この夏の後半は大小問わず、なにかと学校祭を“創る”ことに関連した活動が多かった気がするし。


 華先生辺りが去年の学祭時期ぐらいに「自分で作ってこその学校祭」みたいなことを言ってたけど、

 今ならその意味が分かる気がする。


 とにもかくにも、始まる前からやたらとテンションが上がってるのは自分でも分かってる。

 理由なんてものは二の次にして、僕も外で頑張ってる連中みたいに学祭を満喫したい。






 ―――とまあ、決意を新たにした所で、だ。

 目の前の書類がちょうど終わった。


 昨日のステージ企画リハーサルを受けて修正したタイムテーブルの最終版。

 ……結局、つばさちゃんやアイドルトリオの力を借りることになってしまったのは心残りだけど。


 ちなみに、小春ちゃんバンドは見事に予選通過、バンド演奏のトリを務めることになった。

 しかもバンド演奏は企画の最後を飾る発表だから、トリもトリ―――大トリだ。




 「いやあ……色々あったし、一時はどうなるかと思ったけど。

  なんとか仕上がってくれて、よかったよ」


 「本当にお疲れさま章くん。

  ここ何日かは、すごく頑張ってたもんね」


 「それもこれも、つばさちゃんのおかげだって。

  僕一人じゃ、正直な所、ちゃんと完成できたかも怪しいし」


 実際、半分近くはデスクワーク慣れしているつばさちゃん達の力によるものだ。

 みんなに迷惑をかけないという誓いで臨んだこの学祭準備だったが……。

 こういう時は自分の経験不足が本当に恨めしい。



 「でも、中心になってやってたのはやっぱり章くんなんだから。

  胸を張っていいと思うよ」


 「つばさちゃん……」


 むしろ胸を張るべきなのは彼女の方なのに……本当に嬉しいことを言ってくれる。

 手伝ってもらった書類のみならず、学祭準備を通してつばさちゃんは大活躍だった。


 多少のトラブルがありながらも、それらが致命傷にならなかったのもつばさちゃんのおかげだし。

 各所への細かい気配りだとか、あるいは人柄だとかは天性のものだと思う。


 ―――とか本人に言ってあげたいところだけど、恥ずかしくてとても口に出せないわけだが。



 「それにね、私も章くんと作業してると、なんだか1年の時みたいで楽しかったし」


 「1年の時?」


 「うん……私が1−Aの委員長で、章くんに仕事を手伝ってもらってた時のこと」


 「ああ、そういうこと」


 確かに1−Aの時は、クラスにヒマ人が僕と光ぐらいしかいなかったおかげで、

 なにかとつばさちゃんの委員長業務を手伝うことも多かった。



 「言われてみれば、重なる部分はあるかな……。

  ちょうど今も二人しかいないしね」


 委員長業務の手伝いも、放課後にやってた関係か教室に二人っていうパターンがほとんどだった。



 「ちょっと不謹慎かもしれないけど、あれはあれでけっこう楽しかったかな〜、なんて。

  今ほど上手くは話とかできなかったけど、それでも何となく雰囲気がよかったって言うか、なんて言うか」


 「ホントに不謹慎だよ、章くん。クラスの大事な仕事しながらそんなこと考えて。

  ―――私も同じように思ってたけど」


 つばさちゃんの言葉に二人で笑い合う。

 人気(ひとけ)のない生徒会室には、よく声が響いた。



 「……まあ、あの時とは立場が逆になっちゃってたけどさ」


 「あはは、そう言えばそうだよね。

  あっ、じゃあさ、今回はあの時のお礼ってことでどうかな。

  それなら、章くんも納得できるでしょ」


 「……お礼をもらえるほど役に立ってたっけ、僕?」


 「役に立つとか立たないとか、そういうことじゃないよ。

  私は章くんにすごく感謝してる」


 そこで不意に、つばさちゃんが目を細めて感慨深げな表情を見せる。



 「本当に、章くんにはお礼をしてもしきれないくらいなんだから……」


 「……つばさちゃん、どうかした?」


 「えっ……あっ、ううん! なんでもないよ。

  ―――それよりも章くん、そろそろ体育館に行かないと」


 「っと、もうそんな時間か……」


 少々強引に話を終わらされた感もあったが、時間が迫っているのもまた事実。


 このあとは、生徒会のオープニングパフォーマンスでやるダンスと寸劇の練習だ。

 こういうことをやり始めると、本当に学祭間近なんだなって気がしてくる。

 まあ正直な所、ダンスも劇もガラじゃないんだけど……それこそ副会長なんだし、そんなことは言ってられないよな。



 「よし、それじゃあ行こう」


 「うん」


 二人で連れ立って体育館のステージに向かう。

 ……みんなはもう集まってるんだろうか?


 何の偶然でか、午前中は活動場所がみんなバラバラだったからな……。

 まあ、おかげで生徒会室でつばさちゃんと作業に集中できたんだけど。


 とりあえず、遅刻しないようにさっさと行くか。




 ………




 ………………




 ―――〜〜〜♪♪〜〜♪〜〜〜〜〜♪〜〜〜〜




 CDプレーヤーからノリのいい曲が流れる。

 執行部、ただ今ダンスの練習中……って所だ。


 練習を始めた当初は慣れないダンスで動きもよくなく、ついていくのもままならない状態だったが、

 何度か練習するうちにどうにかなってきた。




 やがて曲が盛り上がり、最後は会長であるつばさちゃんを中心にしたポーズでフィニッシュ!

 ―――よしっ、上手く決まった。



 「はーい、みんなお疲れ様〜。それじゃここで休憩ね」


 ダンスの考案者である優子ちゃんの声でみんながフォーメーションをとく。



 「は〜、疲れた疲れた」


 ただでさえ暑い中、学校でもっとも暑いであろう体育館で、さらに幕を下ろしてやってるもんだからそうとう暑い。

 加えてハードな動きとあっては、普段は体育ぐらいでしか体を動かさない僕には酷ってもんだ。



 「お疲れ、章くん。ずいぶん上達したもんね〜。頑張ってる証拠だよ」


 「ありがと、優子ちゃん」


 「まあでも、章くんもすごいけど……やっぱり、一番頑張ってたのは島岡さんかな?

  最初はどうなることかと思ったけど、今じゃ安心して見てられるし」


 「ありがとう、川科さん」


 額に汗を滲ませながらも、笑顔で答える翔子ちゃん。

 珍しい表情だったが、これはこれで似合っていた。


 ……翔子ちゃん、音痴に加えてリズム感もないんだもんな。

 今でこそ笑ってるけど、練習が始まったばかりの頃は目も当てられない状態だった。

 それこそ、僕なんか問題にならないぐらいに。


 ただ、体を動かすことに関するセンスは抜群だからな、それでカバーしてるんだろう。

 もちろん頑張ったのは間違いないだろうけど。天才肌そうに見えて、あれでけっこう努力家だし。


 加えて、優子ちゃんの指導もよかったしな。

 みんなで多少のアレンジはしたけど、ダンスの基本の動きを考えたのも彼女だし、ホントに多才な娘だ。



 「みんな大分いい感じになってきたね。もうほとんど直す所ないよ。

  あとは本番であがらなきゃ大丈夫だけど……このメンバーなら心配ないよね」


 確かに。執行部のメンバーは大舞台で力を発揮する強心臓の持ち主が多い。

 その点は僕も大丈夫だろうと思う。



 「それじゃあ今日のダンスはここまでね。

  次は劇やろっか。怜奈、あとはよろしく」


 「うん」


 続いては寸劇の練習。

 こちらは怜奈ちゃんの演出で練習が進む。


 ……ただし、脚本は意外や意外、沖野の執筆によるものだが。

 10分程度の短いものとは言え、一発で怜奈ちゃんのOKをもらったりと、出来はいい。


 会長選挙の時も吉澤の応援演説してたし、こういうのは得意なんだろうか?

 意外と言えば失礼だけど、ちょっと想像はつかなかった。

 ……アイドルトリオ、こうなってくるとますます非の打ち所がないな。



 「―――いくん、桜井くん。もう始めるけど……どうかした?」


 「あっ、ゴメンゴメン。何でもないよ」


 っとと。アイドルトリオの戦力分析なんかしてる場合じゃないな。

 こっちも精度は高まってきてるとは言え、本番はもうすぐそこなんだ。

 ボーっとしてる時間はない。



 「それじゃあ、いくよ−!」


 ―――パンッ!


 怜奈ちゃんが手を叩く音で、今度は劇の練習が始まった。




 寸劇って言ってもそんなに大したことをやるわけじゃない。

 生徒会パフォーマンスの時間も限られてるし、短編ではある。


 だけど中身のほうは、手前味噌的な評価かも知れないが、これが中々よかったりする。

 ノリとテンポがよく、はっちゃけた内容になっていて短編にはうってつけなのだ。

 こちらもみんなで多少のアレンジはしたものの、さすがに現役演劇部から一発OKをもらっただけのことはある。



 『今年の学校祭は、我々ペケペケ団が占拠した!』


 『そんなことは、私たち生徒会がさせないわ!』


 中でも必見なのが、現実のキャラと全く別物になってしまっている工藤とつばさちゃんだ。

 普段が大人しい分、一番苦労していたのもこの二人だったのだが、今では怜奈ちゃんもお墨付きの演技を見せている。


 二人とも有名人だし、このギャップだけでウケを取れるんじゃないか?

 何のかんのあったけど、かなりノリノリだし。

 このキャスティングを思いついた沖野のセンスには頭がさがるな。




 ―――と、音響担当の僕は半分傍観者ムードで練習風景を眺めたのだった。





 ………





 ………………





 オープニングパフォーマンスの練習も終わり、みんなで昼にした後はまたデスクワーク。

 今度は午前中とは逆、ほとんどのメンバーが生徒会室に集まっていた。


 もう部活は文化部を除いて全部活動停止だし、みんな準備にかかりきりだ。

 その文化部である優子ちゃんと未穂ちゃんも、滑り込みながらも部活の方はどうにかなったようで、今は生徒会室にいる。


 後は当日を待つのみって所なんだけど……ぜひとも成功してほしい。

 友達の部活なんだし、そう思うのは当たり前なんだけど、今回は手伝ったこともあって想いも一層強い。

 それに今回は部の存続とか色んな要素もあって、そういう意味でも大事な学祭になる。


 ―――でも、あれだけ情熱を持って頑張ってた二人なんだ、絶対に上手くいくと思う。

 単なる気休めとか願望じゃなくて、間近で見て感じたこと。

 “仲間”として、それを信じたい。




 もちろん、頑張ってるのは二人だけじゃない。

 執行部のみんな、それぞれが自分の仕事のラストスパートにかかってる。

 ……と、それだけなら僕も頑張って追い込みかけなきゃなって話になるんだけど。


 実は今、ちょっと手持ちぶさただなんだよな。

 手元にある書類はさっき書いたので終わりだし、今さら決めることなんかないし。

 みんなの手伝いをしようにも、この時期になってくるともうかなり突っ込んだ仕事しか残ってないから、逆に手伝わないほうがよかったりする。

 提出した書類のチェックが終わって早く戻ってくればいいんだけど……そうは上手くいかないみたいだ。


 ―――みんな忙しい中で一人何もしないでいるってのは居心地も悪いし、ちょっと出てくるか。

 そうだな……また音楽室でも行こう。小春ちゃん達の仕上がりを見るのも悪くないだろう。




 ………




 ………………




 果たしてやってきた音楽室。相変わらずバンド練習の音が漏れ聞こえてくる。

 曲からいって……うん、小春ちゃんたちで間違いないな。

 曲が終わるタイミングを見計らって中に突入する。




 「―――ここの入りが今ひとつなんだよな。

  福谷先輩はどう思います?」


 「そうだね……あたしも和泉の言うとおりだと思うよ。

  どうもしっくりこない気がする」


 「じゃあ、次はもう少し―――」


 ……どうやらここも追い込みらしいな。

 小春ちゃん、あやの、愛美ちゃんの後輩トリオに明先輩と光。

 みんなが真剣な目つきで顔をつき合わせている。



 「―――あっ、桜井先輩。いらしてたんですか」


 声をかけるにかけられず、突っ立っていた所で小春ちゃんが気づいてくれた。

 さすがに目ざとい。



 「今さっき、ね。ちょっと様子見ってところかな。

  だいぶ忙しそうだね」


 「もう本番直前ですから!

  それに、みんな集まって練習する時間もなかなか作れなくなってきましたし」


 みんなクラスとかで役割があるんだろうからな……時間を見つけてって感じなんだろう。



 「そう言えば光、生徒会の仕事はもう大丈夫なの?」


 「まだやることは残ってるけど……音楽室練習はもうほとんどないからな。

  こっちに来ないわけにはいかないだろ?」


 「そっか……それもそうだよね」


 部活や他の参加グループとの兼ね合いもあり、音楽室での練習時間は基本的に少ない。

 毎年そうなのだが、今年は参加グループが多いこともあってさらに減っていた。



 「あ〜あ、あの時のジャンケンで勝ってればなあ……ちょっとはマシだったんだが」


 「あはは……ゴメンね、なんか不自由させてるみたいで」


 加えてこのバンド、運悪く他のグループより練習時間が少ないときている。



 「まあ、言ってもしょうがねえけどな。いくら担当が友達だって言っても、さすがに融通はきかないだろうし」


 「うん……まあね。だから、なおさら悪いなって思ってるんだけど」


 「気にすんなって。別に章が悪いわけじゃないんだし。

  俺たちは俺たちで、上手くやるさ」


 「うん。ありがとう、光」


 実際、限られた時間の中でよくやってると思う。

 明先輩なんかは参加も後半だったはずなのに、すっかりとけこんでるみたいだし。




 それにしても、本当に忙しそうだな。

 僕と光が喋ってる後ろでも、後輩トリオと明先輩は打ち合わせを続けてるぐらいだし。

 ……これはさっさと退散したほうがよさそうだ。



 「あれ、今日は聴いていかないの、お兄ちゃん?」


 「あんまり長居しても、みんなに悪いしね……本番までのお楽しみってことにしとくよ。

  頑張れよ、あやの」


 「お兄ちゃんもね。生徒会の先輩がたに迷惑かけちゃダメだよ」


 「分かってるって。それじゃ」


 あやのと適当に言葉を交わした後、音楽室を後にした。




 ………




 ………………




 そして今度は、派手に飾られた我が2−A教室前にいた。

 普段とはずいぶんと違った様子を見せていて、これはこれで新鮮である。


 確かに生徒会室に戻ってもやることはないんだけど……。

 別に用があるわけでもないのに、何でここに来たんだろうな。

 無意識の内に足が向いていたんだろうか?


 ウチのクラスは確か、喫茶店をやるんだったよな……。

 ここまでほとんど手伝えてないけど。

 一応シフトには入ることにはなるんだし、ここらでどんな様子かを見るのも悪くないか。


 ということで、いざ突入。




 ―――ガララ




 「ぶっ!?」


 なっ、なんじゃこりゃ!?



 「おお、なんだ桜井か。珍しいな、生徒会の見回りか何かか?」


 「いや、そういうわけじゃないんだけど……。

  それより、京香ちゃんその格好……」


 「ん、これか? メイド服、というやつだ」


 そう言って、僕に衣装を見せるかのようにくるりと一回転する京香ちゃん。

 ―――やけにノリノリだな、おい。


 これが意外と似合ってるんだから恐ろしい……。

 京香ちゃんは確かに元々キレイな顔立ちしてるけど、長身のメイドってのもなかなか―――。


 ……いや、そうじゃないって。目を覚ませ、桜井章。

 何か違うだろ。



 「あっ、あのさ、これは一体……」


 「うむ。初めは普通の喫茶店にしようということだったのだが、

  それでは面白みがないということになったのでな。

  そこで路線を変更して、メイド喫茶というものをやることになったのだ」


 ―――誰だよそんなこと言い出したヤツは。

 別に悪いとまでは言わないけど、学祭でメイド喫茶って……。

 なんつーセンスだ。……嫌いじゃないけど。



 「これが今の流行だと聞いていたのだが、違うのか?」


 「……ある一面では当たってるかもしれないけど、一般にはそこまで広まってないと思う」


 最近は某ドラマの影響なんかもあって、こういう文化も世の中に出回るようにはなっているが、

 それでもどこに行っても見かけるような代物ではない。



 「ふむ……そうなのか。

  今時の女子はみんなこの格好で街を歩いていると思っていたぞ」


 まあ、そういう所もかなり局所的ではあるが存在する。

 それでも“みんな”ではないが。



 「……ちなみに、誰から聞いたの?」


 「島岡殿だ。前に生徒会の合間をぬって、陽ノ井殿と手伝いに来てくれてな。

  その時に教えてもらったのだ」


 ―――翔子ちゃん、嘘を京香ちゃんに吹き込むのはやめてください。

 京香ちゃんも分かりそうなもんだが……まあ、あんな山小屋でずっと一人暮らしじゃ仕方ないか。



 「すまぬな桜井、私はどうも世間の流行りに疎くてな……」


 「あっ、いや別に京香ちゃんが謝ることじゃないって。

  じゃあ男子はどうするの? 全員厨房とか?」


 「いや。男子は執事服を着て接客することになっている」


 言われて教室を見回してみれば、確かに見慣れた顔がメイド服やら執事服を着ている。

 ……すげー異様だな、おい。


 ―――って言うか、僕もシフトに入るんだし、執事服着るんだな。

 知り合いが来ないことを祈るばかりだ。


 全然手伝ってなかったから状況を全く把握してなかったけど……大丈夫なんだろうな、2−Aは?

 まあ、「おかえりなさいご主人様」とか、そういう類の台詞がないだけまだカワイイもんか。




 『おかえりなさいませ、ご主人様』


 ……一瞬、ノリノリで客を迎える京香ちゃんを想像してしまったのは内緒だ。




 「それよりも桜井、なにか用事か?」


 「っと、そうだった。

  実は今、ちょっと手持ちぶさたでさ。

  なにか仕事あるかな? よかったら手伝うよ」


 「ふむ、そうだな……とりあえず、まずは執事服に着替えてくれ」


 「……なにゆえ?」


 「そういう決まりらしい。作業中も着ていれば、宣伝になるとか言っていたな」


 「……りょーかい」


 まあ、理論的には間違っちゃいない。

 執事服にせよメイド服にせよ目立つからな、立っているだけで宣伝になるってもんだ。

 ―――それだけとも思えないが。




 「よし、着替えたな。そうしたら、今は室内の飾りつけの途中だから―――」


 この後は室内の飾り付けに始まり、宣伝のビラ貼り、果てはメニューの試食・試飲まで付き合わされた。

 結局、活動終了まで生徒会室に帰れなかったのは言うまでもない。

 仕事はなかったから別に構わないと言えばそうなのだが……何だかなあ。


 ……まあでも、形はともかく、ここだって頑張っているのは確かだ。

 頑張っているみんなを応援するっていう気持ちでここまでやってきたんだし、ここは最後まで貫かないとな。






 くどいようだがもう学祭直前。

 夏が終わる時、ついにその時はやってくる。


 去年とは明らかに違う、今年の学祭。

 ここまで色々あったけど、なんとか頑張ってこれた。


 その頑張りをいい形で現実のものにするためにも。

 ラストスパート、気合入れていくぞ―――!


 作者より……


 ども〜作者です♪

 Life三十五頁、いかがでしたでしょうか?


 学祭準備も大詰め、章の周囲も色々と慌しくなってきました。

 いよいよ次回からは本番が始まりますし、章には色々頑張ってもらいましょう!(笑)


 今回の話は、お得意の閑話休題風のエピソードになってます(^^ゞ

 まあ夏休み編も今回で最後ですし、加えて学祭準備も今回でおしまい。

 そういうこともあって、一度締めてみました。

 散々色々やらかした夏休み編の終わりとしては、ちょっと寂しいかもしれないですけど(^^;


 さてさて次回ですが、上でも書いてますがいよいよ学祭が始まります!

 (ついでに言うと二学期のスタートだったりもしますけど)

 前からず〜……っと引っ張ってきた分、作者も頑張ってみたいと思います(笑)

 とりあえず、まずは文化祭からとなっていますので。

 いつものごとく、期待しすぎない程度に期待してお待ちください。


 それではまた次回お会いしましょう!

 サラバ!(^_-)-☆by.ユウイチ


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