第三十三頁「四季の島」
―――ミーンミンミンミーンミーン
「あっづ〜……」
こんなクソ暑い中、外のセミ達はホントに元気なことで。
さすがにここまで来ると、風情を通り越してむしろストレス源に近いな。
「あの……ゴメンなさい、章くん。毎日毎日、朝から仕事してもらっちゃって。
私も何かお手伝いできればいいんだけど……」
「いやいや、気にしないでいいってつばさちゃん。どこにいても、暑いのは同じなんだし。
それに、ここまで仕事を溜めて追い込んじゃったのは自分のせいなんだから、自分でどうにかしなきゃね」
とかフォローはしてみるものの、自分でも笑みに力がないのが分かっていた。
なんせ暑い上に慣れないデスクワークの連続だ、疲れがないと言えば嘘になる。
だからと言って、弱音を吐いてもられないのが生徒会副会長の辛いところで……。
その上どこの部活にも“正式には”入ってないんだし、ここで頑張らなきゃ男がすたるってもんだ。
「今はどうにか仕事に専念できてるからね。
それより、そういうつばさちゃんの方こそ、部活とクラスの出店の両方に顔を出してるんだし、大変なんじゃない?」
「大変と言えば大変だけど……でも、全部好きでやってることだから」
好きでやってるから、の一言で全て乗り切ってしまう辺りは、やはり我らが会長の器量の大きさだな。
僕なんかはクラスの出店は他の連中に任せきりで、やる事といったら当日のシフトぐらいなもんだ。
……む〜、少しはつばさちゃんを見習いたいものだ。
「それを言うなら章くんだって他の仕事手伝ったり、部活のヘルプやったりしてるんだし……」
「僕はまあ……それこそ好きでやってることだから」
他部署の手伝いも、漫研のアシスタントも、何のかんのと結局は自分の意思だ。
一部巻き込まれているという見方もなくはないけど……。
―――いやいや、やっぱり全部自分で決めてることだ。
自分でもお人好しかなって思う時もあるけど、これはこれで悪くない。
今日は8月22日。学祭は9月の初日から3日間連続だから、準備はいよいよ追い込みモード。
体育祭の応援団やら、クラスごとの出し物の準備も本格化してきたし、いよいよ学校全体の動きが活発になってきてる。
おとといで締め切ったステージ企画のエントリーも、去年の倍近い応募数となった。
もちろん時間まで倍になるはずもないので、今は急遽予選の準備を進めている。
あんまりにも急な話だったもんで、僕としてもてんやわんやで、今はそれ関連の仕事に追われている状態だ。
……あやの達のバンド、無事に出場できればいいんだけど。
こればっかりは公平に判断しなきゃダメだからな。
もっとも、彼女達の実力なら下手な手心を加えなくても全然問題なさそうなもんだが。
―――っと、他人の心配してるヒマがあるなら自分の仕事しないと。
みんなが動き始めたってことは、今まで以上に生徒会の仕事だって増えるんだし。
副会長として、会長のつばさちゃんに余計な心配をかけないっていう誓いは忘れたわけじゃない。
「―――いくん、桜井くんってば! ちょっと聞いてる!?」
「どわわっ!? ゆっ、優子ちゃん!
いっ、いつからここに?」
「つばさは色んな所に顔出してるから大変じゃないかとか、桜井くんが聞いてた辺りから」
なんだ、ちょっと前じゃないか。
「ホントにも〜……これじゃ陽ノ井さんが苦労するわけだわ。
つばさはすぐに気づいてくれたのに、桜井くんは呼びかけても完全無視だし」
「別に無視してたわけじゃないんだけど……」
「やってることは一緒でしょ?」
そう言われちゃおしまいである。
「つばさと雰囲気つくっちゃうのもいいけど、ちゃんと周りの状況にも気を配ってよね」
「なっ、なななな! ちっ、違うよ優子っ! 私は別に雰囲気とかそういうのじゃなくて、章くんとは一緒に仕事してただけで、その―――」
「あ〜、はいはいOKOK。こんなのほんの冗談なんだから真に受けないの」
インチキくさいぐらい大げさに“やれやれ”のポーズを取る優子ちゃん。
……なにやら発言が翔子ちゃんじみてるのは気のせいじゃないだろう。
さすがは新聞部の部長をやってるだけはある、敵には回したくないな。
「雰囲気つくってるんじゃないなら、桜井くん、ちょっと借りてくね」
「あっ、うん。私はいいけど……」
「りょーかい、ありがと。じゃ桜井くん、さっさと行こうか。時間もないし」
「へ?」
なんだこの展開は。
時間がないのは確かだが、今の僕に行くところなどない。
「ちょっとちょっと!?」
「それじゃ失礼しました〜♪ つばさ、そっちも頑張ってね」
だが、優子ちゃんの中での僕はそういうことにはなっていないらしい。
半ば強制連行の形で、生徒会室を去ることになってしまった。
………
………………
「さて、と」
クラブハウス棟のとある一室の前で優子ちゃんが立ち止まる。
見覚えのある部屋―――新聞部室前だ。
「察しがいい我が志木高新聞部の準編集者の君なら、もう分かると思うけど」
「そんなのになった覚えはないし、何を言ってるのかサッパリなんだけど?」
「ん? だってこれだけ毎週毎週手伝いにきてくれてるんだしさ、何か肩書きをあげないと」
「そこじゃないって!」
―――いや、そこも問題だけど。
「察しうんぬんとかってところ。残念ながら、僕には状況がまったく読めてないんだけど?」
「あ〜、やっぱり? さすがに説明なしじゃ無理だよね〜、あははは」
笑ってごまかすとか、そりゃないって。
「桜井くんに、ちょっと頼みがあってさ。それできてもらったんだけどね」
「それならそう言ってくれればよかったのに……」
「いやあ、ちょっと福谷先輩のマネで、強引にいってみました……みたいな?」
「明先輩の?」
「そう。取材する機会があったんだけど、その時に仲良くなってね。
桜井くんに物を頼むときはちょっと強引に攻めた方がいいって言ってたから」
先輩、悪影響を振りまかないでください。
いや、ホント切実に。
「……僕としては、頼みごとは普通にしてくれた方が嬉しいかな」
「ん〜、やっぱりそうだよね。私も、試してみてそう思ったよ。
次からは気をつけるね」
さして気にもしていないようにも見える笑顔で優子ちゃんが笑う。
まっ、らしいと言えばらしいが。確かに、これなら明先輩スタイルもマスターできるやもしれない。
かと言ってそんなものは覚えないに越したことはないが。
「っと、それはともかく。頼みって?」
「うん……あのさ。無理を承知で言うんだけどね―――」
どうにもこうにも、すっごく嫌な予感とデジャヴを感じるのは気のせいじゃないだろう。
「新聞部の手伝い、お願い! 生徒会の仕事もあるだろうし、未穂の漫画を手伝ってたから余裕がないのも知ってるけど……。
でも、お願い! 頼れるのは桜井くんだけなの!」
はい、嫌な予感的中です。ありがとうございました。
―――とまあ、これで済めば世の中苦労はないんだが。
目の前には両手を合わせて頼み込んでいる優子ちゃん。
彼女をこのままにしとくってわけにはいかないだろう。
要するに頼みに対する返答がイエスかノーか、その結論を出すだけだ。
実に簡単な話である……簡単な話なんだけど、かと言って答えを出すのはそうではない。
そりゃ僕だってなんとかしてあげたい。
新聞部には色々と世話になってるし、何より優子ちゃんは友達だ。
困ってる友達を見て知らんぷりができるほど、僕は寂しくできてはいない。
だが、今はとにかく状況が悪い。
ただでさえデスクワークは経験不足のせいで時間がかかるってのに、
ここに来ての仕事増に加え、さらに未穂ちゃんのアシスタントの影響で仕事が溜まってしまった。
……まあ、仕事ができないのは僕が悪いんだから、アシ業のことを出すのは言い訳にもならないぐらいだけど。
ともあれ、経緯は別にしても仕事がピンチであることに変わりはない。
果たして、今の僕に新聞部の手伝いをする余裕があるのかどうか……。
再び優子ちゃんを見る。
思考時間はそんなに短くはなかったはずだけど、それでも優子ちゃんは相変わらず懇願のポーズで停止したままだ。
「―――わかった、協力させてもらうよ」
そうだな。
学祭に向けて頑張ってる人の応援をせずして、なにが生徒会の副会長か。
そして、こんなにも情熱をぶつけてきてくれる優子ちゃんの心に応えずして、なにが友達か。
「ホント!? ホントにいいの!? やっぱダメとかなしだよ!」
「あはは、大丈夫だって。それに、頼れるのは僕だけってことだし」
「あっ……うん。原稿から紙面のレイアウト、校正まで全部できる即戦力は桜井くんぐらいだから……」
そういうことか。単なる誘い文句じゃなく、本当の意味で僕しかいないらしい。
だったらば、なおさらその期待に応えないわけにはいかなくなった。
「よしっ、それじゃ早速はじめよっか。時間も惜しいし」
「うんっ! ありがとう、桜井くん!」
とびっきりの笑顔で優子ちゃんが笑う。
……この笑顔に弱いんだよな〜、どうにも。
だけど、これを見れただけでも依頼を受けた価値があるってもんだ。
………
………………
いったんつばさちゃんに新聞部を手伝う旨を二人で伝えに行ってから、新聞部室に入る。
なにかあれば生徒会の方のフォローはしてくれるそうだが……なんとかそうならないようにしないと。
「それで、僕は何をすれば? 新聞部は確か……SHIKIの超拡大版を展示するんだよね?」
「うん、そうなんだけど……やっぱり、一人じゃ手が回りきらなくて」
確かに―――いつもは整頓されているデスクが今は資料の山に埋もれている。
このすさまじい状況を見れば、切迫しているのは聞かなくても分かる。
毎号、僕も手伝ってようやく仕上げてるって感もあるからな……。
いくら時間があるとは言え、生徒会の仕事もある優子ちゃんが一人でこなす量じゃないだろう。
……ったく、三年の先輩も大変なのは分かってるんだろうから、少しは気を利かせて手伝いに来るとかしろよな。
二年が仕切る決まりか何か知らないけど、これじゃ押し付けも同然だっての。
「印刷とかの関係もあるし、締め切りは……この日」
「紙面の進行状況は?」
「えっと……記事そのものは3分の2ぐらい。ただ、まだ校正はキチンと終わってないから……。
そうだね、60%ぐらいって考えてくれてればいいよ」
「了解。大体の状況は分かったよ」
優子ちゃんが指差した日付はもう間近だ。
……修羅場だなこりゃ。
「ゴメンね、巻き込むみたいになっちゃって……。
言い訳するわけじゃないんだけど、生徒会の仕事もあったし、それに……」
「それに?」
「あはは、なんか気合入れすぎちゃってさ。
なんとしても成功させなきゃって思うと、ついつい力が入っちゃうんだよね。
それで写真の選定とか、記事の書き直しとかに時間かけ過ぎちゃって……らしくないよね、なんか」
「そんなことないって。それだけ今度の新聞が大事ってことなんだし」
「うん……ありがとう」
優子ちゃんの言うとおりだ。学祭には新聞部の存続もかかってるし、失敗は許されない。
だからって力を入れすぎて硬くなってちゃいけないが、いつも通りですませるわけにもいかない。
力を入れすぎずに、いいものを……これを肝に銘じておこう。
「それじゃあ桜井くんは、この資料を記事にして。それからいつものコラムの出張版をお願い。
コラムの方は好き勝手やっちゃってくれていいから」
「記事のほうはメモか何かを見ればいいのかな?」
「そうそう。写真とかも一緒にまとめてあるから、レイアウトも任せるよ」
「オッケー」
と、返事は軽いものの仕事はそうはいかない。
記事二つぐらい……と一瞬思ったが、いつもの記事の文章の量から考えれば、楽な話じゃない。
メモもかなりの量だし、これをまとめるだけでも一仕事だな……。
だが、手伝うと決めた以上はハンパはしない。
そうでなくては、僕がここに来た意味もなくなってしまう。
「え〜、メモは……これか。『女子ソフト部大躍進の秘密に迫る! 女子ソフト部キャプテン、福谷明さん独占インタビュー』。
それから『SHIKI編集部が選ぶ! 05'春夏秋冬祭オススメスポットはこれだ!』か」
仮題とは言え、記事の見出しが決まっているのはありがたい。このまま採用できそうだし。
「……さっき言ってたインタビューってこのことだったのか」
仲良くなったって言ってたけど、一体どんな話をしたのやら……。
まあ、知らないほうが幸せなこともあるか。
それにしても相当な量があるな……これを全部記事にするのは不可能か。
オススメスポットにしても、候補はかなりあるし、それぞれ詳細に取材してあるけど……。
こっちも数を絞らないと無理だな。どうまとめるかは僕の裁量次第ってところだ。
これに加えてコラムってことになると……予想以上に骨が折れそうだな。
「っと、三つ目の資料か……」
渡された袋の中に、メモの束がもう1つ入っていた。
―――『四季の島の伝説』?
あっ、でも確か僕が書く記事は二つだよな。
「優子ちゃん、資料が混じっちゃってるみたいだ」
「あ〜、ゴメンゴメン。それ、慌てて用意したからちょっと適当だったかも。
こっちに渡してくれるかな?」
「うん、いいけど……この“四季の島の伝説”って?」
「ん? ああ、それだったんだ。
え〜っとね、今回の目玉、かな?」
「目玉?」
よく分からずにオウム返しで繰り返す。
「そう。志木ノ島高校の学校祭が春夏秋冬祭である理由、そして志木ノ島が志木ノ島である理由。
それが分かる話だよ」
「志木ノ島が志木ノ島である理由……」
僕は生まれも育ちも志木ノ島だが、そんな話は聞いたことがない。
民話の類とかだろうか?
「どんな話なの、その“四季の島の伝説”って?」
「聞きたい?」
「……できれば」
昔話や古典とかに興味があるわけではないが、なぜかこの話は興味を引かれた。
まあ、自分が暮らしている島の名前の由来に関する話なんだ、知っておいて損はないだろう。
「分かった。私もある文献でたまたま知って、それで調べたんだけどね―――」
そう言って優子ちゃんが言葉を紡ぎはじめる。
「昔々、それも江戸とか平安とか、そんなもんじゃなくて、もっと神話の代ぐらい前のこと」
……民話、というかむしろ神話に近いみたいだな。
「とある神様が、今の志木ノ島となる島を作ったそうよ。
その方法は諸説あるんだけど……まあ、どれも要約すれば神様がすごい力で作りましたって感じ」
「土をこねてとか、髪の毛一本からできたとか?」
「うん、そういうのをイメージしてくれればいいよ。
それから、やがてその島に人間が住むようになるわけね」
ここまでなら、単なる曖昧な島の起源に過ぎない。
問題はここから先の話だ。
「それで島を作った神様は、その力で島やそこに住む人々を様々な災いから守ったと言われているわ。
災いって言うのは、妖怪とかなんとか、マユツバっぽいのもあるけど……。
でも、もちろん自然災害とか疫病とかも含まれてて。
事実、そういった大きな“災い”に値するものは、この志木ノ島ではこれまでほとんど起こっていないらしいの」
そう言われてみれば、確かに洪水がどうだの地震がどうだのとかは聞いたことがない。
偶然かもしれないが、神様とやらの存在が絡んでいるのかも……。
「じゃあ、いい神様なんだね。島を作ったっていう神様は」
「それがそうでもないらしくて……」
「どういうこと?」
「島を守るばっかりじゃなかったってこと。これは全ての文献に共通して書かれてたんだけどね」
「…………」
何らかの対価を人間達が払う必要があったってことだろうか?
確かに、仮にいい神様ならこの伝説がもっと有名になっているだろうし。
「その神様が島を守った理由っていうのは、ある種の研究のためだったみたいで」
「研究?」
「そう。人間の心を知るため……まとめると、大体こんな感じね」
「人間の心……。
すごい力を持った神様のクセに、そんなことも分からなかったのかな?」
「どうなんだろうね。まあ神様だから、もはや別の生き物に近かったのかもしれないね。
それで、島を守ることで研究対象である人間が必要以上に減らないようにしてたってことみたい」
「…………」
人間が動物を観察するように、神が人間を観察したってことだろうか?
それにしても、神様とやらも全知全能みたいだけど、知らないことなんてあったんだな。
「それから、島の人の中には、ある種の実験として不思議な力を与えられた人もいたんだって。
それはまるで、それこそ神がかった力だったみたいなんだけど……」
「けど?」
「色々とリスクもあったみたい。短命だったりとか、周りに不幸が訪れたりとか。
これも諸説あるからはっきりしないんだけど、ともかくただではすまなかったみたい。
しかも力っていうのは、一方的に与えられるものみたいだったから……。
好む好まざる関係なしにリスクを負った人もいたって書いてあったわ」
「ひどい……」
随分勝手な話だ。自分の研究のために島を守って、その住民をサンプルにするなんて……。
それが強制的なら、なおさらのことだ。
「……続けるね。そんな状況を見かねた人々は、神様を封じ込めることにしたの。
彼らにも島を守ってもらってるっていう認識はあったみたいだけど、それ以上に神様を恐れていたから」
「それで?」
「もちろん、人間が神にかなうはずもなかったから、最終的には祠にまつるって形で決着がついたんだって。
ただそこにいたるまでに、神様の怒りに触れた人たちも多かったらしくて……。
殺されはしなくても、それに近いような重い代償を伴う力を与えられた人もいたっていうことは書いてあったけど」
一筋縄ではいかなかったってことか。
……そりゃそうだろうな。
下に見てる人間たちから、大人しくしてくださいって言われれば、これまでの流れを考えれば怒るのもうなずける。
「今でも、その神様をまつった祠は残っているらしいよ。
しかも、それは志木高の裏山にあるらしいんだけど……」
「けど?」
「私が探した限りでは見つからなかった。
あそこに住んでる西園寺さんにも聞いてみたんだけど、見たことないって言ってたし。
……まあ、文献に伝わってる場所が間違ってるのかもしれないんだけど」
島のどこかには残されてる可能性はあるってことか。
確かに、それだけ暴れまわったヤツの祠だ。壊さないようにしてきたんだろうな。
「祠に神様をまつるようになって以来、力と共に代償を与えられる人間はいなくなったみたい。
でも、力っていうのは血縁で受け継がれていくものらしいから、今でも子孫が残ってるかもだけど」
「神様がいなくなっても、既にあった力は残っちゃったってこと?」
「そう。同じように、島も引き続き守られてるって、文献には書いてあった。
一連の力だとか封印だとかに関する記述は全部の文献に共通してるから、信憑性はかなり高いよ」
「志木ノ島の神様か……」
「一応、伝説はここまでだよ」
ん? ちょっと待てよ。
「じゃあ、志木ノ島の由来っていうのは?」
「ああ、それを言ってなかったよね。
なんでも、神様はかなりの物好きだったらしくて。
―――自分の居所の周りに春・夏・秋・冬の風景を、自分の力で同時に作ってたんだって」
「……なんで?」
「好きだったんだってさ、四季の美しさが。
だから、いつでも四季を楽しめるようにってことらしいけど……」
なんとも単純な話だ。規模はともかく、好きなものをいつも楽しめるようにだなんて。
人間のことを調べたがっていた割には、やけに人間臭い話だ。
「それで、神様を封じ込めてから、島民たちはそれを機に島の名前を決めようって話になって。
じゃあ、せっかくだから創造者の神様にあやかってって感じで、“四季の島”って名づけたの。
あっ、この場合は今の“志木ノ島”じゃなくて、四つの季節の島って字ね」
「それが時代と共に変化していって今の志木ノ島になった……そういうこと」
「そう。それが志木ノ島の由来。
後、春夏秋冬祭っていうのは、この伝説にあやかってってことだって。
こっちは校長先生に確認取ったから100%間違いないよ
島の由来も色んな文献に書いてあったから、まず間違いないと思うし」
四季の島が志木ノ島に、か……。
えてして由来なんて知ってしまえばあっけないものだけど、この島も例外じゃないみたいだ。
それよりはむしろ、伝説の方が興味深かったな。
祠とか力を与えられた人たちの子孫とか、今につながる話もところどころにあったし。
「それから、祠の話について補足なんだけどね。
封じ込めがあってからも神様の力が残ってるっていうのは、さっきも話したよね?」
「うん」
「その影響で、祠の周りは今でも四季それぞれの風景が広がってるんだって。
春の桜、夏の深緑、秋の紅葉、冬の雪……こんな感じの記述が多かったかな?」
「…………」
そんな目立ちそうな場所にあるなら、祠もすぐに見つかりそうなんだけどな。
あいにく、そういったファンシーな場所の存在は僕の人生17年間で聞いたことがない。
まあ、ここまで聞いて言うのもナンだが、所詮は伝説。
適当な記述も多いのかもしれないな。妖怪の類が災いとして書かれてたって言ってたし。
この“四季の場所”とでも言うのだろうか、そこの存在もマユツバかもしれない。
「私が調べたのはここまで。島の図書館で文献探したりとか、けっこう大変だったよ〜」
「あはは……確かに、これだけしっかり調べれば大変そうだね。
―――でも、成果は出るよね?」
「もっちろん! 何たって、SHIKI今号の目玉なんだからね♪」
優子ちゃんの表情には自信が満ち溢れている。
どうやら期待してもよさそうだ。
話としてもおもしろかったし、上手くまとめさえすればみんなの目を引くのは間違いない。
そこはSHIKI編集長である優子ちゃんの腕の見せ所だろう。
僕も実はこれで記事を書きたかったりするが……ここは譲るしかないな。
この状況で見せ場を持ってくのはヤボってもんだ。
「さあって……桜井くん! お話も終わった所で、ここからは執筆モードだよ!」
「任せてって!」
「よっしゃ、いい返事! がんばるぞ〜」
「「オーッ!」」
二人の掛け声が重なり、新聞部室にこだまする。
学校祭のため、新聞部のため……そして優子ちゃんのために。
頑張っていくぞ―――!
作者より……
ども〜作者です♪
Life三十三頁、いかがでしたでしょうか?
今回は優子エピソードの前編です。
本編には結構登場している彼女ですが、意外とメインは少ないのでここで目だってもらいましょう(笑)
そんな今回ですが……フラグのにおいがプンプンしますね(^^;
自分でも書いきながらもいいんかな〜なんて思ってましたが(爆)
後で「おっ」と思ったら、是非是非読み返してみてください。
……反面、優子があんまりクローズアップできませんでしたけど。
そこは次回でカバー! ……できるといいなあ(笑)
そんな次回ですが、もちろん優子エピソードの後編です。
いよいよ夏休み編も追い込み、そして新聞製作も追い込み。
そんな中で章と優子は―――ってところでしょうか。
いつものごとく、期待しすぎない程度に期待してお待ちください。
それではまた次回お会いしましょう!
サラバ!(^_-)-☆by.ユウイチ




